大丈夫
登場人物紹介
・ムツキくん【ミラクリオン】
まだ厨二が抜けてない本作の主人公。大学二年生。奇跡は風。友人が少ないので、人との繋がりはとても大事にしている。DT。ダイヤちゃんLOVE。
・ヨウくん【ミラクリオン】
ムツキの幼馴染で、唯一の友人。馬鹿だが真っ直ぐで泣き虫で優しい。とにかくめっちゃいい奴。すぐ告ってすぐフラれる。
・ダイヤちゃん【ニル】
ムツキ達の大学の隣にあるめちゃんこ頭のいい理系の大学の二年生。ムツキに助けてもらった事で一目惚れし、即告白、即交際。容姿はトップモデルくらい美しい。お淑やかそうな見た目に反して、中身はなかなかのおてんば。ですわ
・銀河超人さん【ミラクリオン】
苗字が銀河で名前が超人の警察官。当然ながらこの名前をすごく気にしている。噂によるとめちゃんこ強いらしい。
「あ、この一軒先です。そう、ここです。じゃあ、ありがとうございました」
「おう、お大事にな」
パトカーが勢いよく走り去っていく。ていうか、絶対法定速度守ってない。
結局あのあと、謝りに謝ってなんとか車を出してもらった。案外チョロくて助かった。
先ほどまで清々しいほどに青かった空は赤く染まり、烏の鳴き声が絶えず響いている。
傷と風邪を治してもらったとはいえ、体には疲れが溜まっていた。今日はご飯もお風呂も済ませずに、このままベッドで寝てしまおうか。
「ただいまー」
俺の声だけが無駄に広いこの家にこだまする。返事など期待していないが、やはりどこか虚しい。
「お帰りなさーい♡」
疲れのせいだろうか、幻聴まで聞こえてきた。やはり、今日は早く寝よう。
薄暗い廊下を歩いていると、突然何者かにしがみつかれ、押し倒された。
「お帰りなさい、ムツキさん♡」
「うわぁっ!ダイヤ!?どうして・・・」
「ムツキさんが心配で、ヨウさんに教えていただきましたのよ。怪我もしてるし、風邪も引いてますのに、無理やり連れてかれてしまいましたから・・・」
ようやく暗さに慣れてきた俺の目には、何か料理中だったのだろうか、白衣の上からエプロンを身につけている彼女が映っていた。一見奇天烈な格好だが、彼女が身につければ、完璧なマリアージュとなった。綺麗だ。とても。いまだに実感が湧かないが、この子は俺の彼女なのだ。俺の彼女でいいのだろうか。
「ムツキ様、お顔が赤くなっておりますわよ。まだお熱があるのではないですか?」
ダイヤが額と額をくっつける。彼女の体温が直に伝わってきた。きっと俺の激しい鼓動も伝わってるだろう。唇が触れそうだった。暗い廊下には、静寂の中に時計の針の音だけが響いていた。何秒くらいそうしていただろう。恥ずかしさに耐えきれなかった俺は、彼女の肩を掴んで距離を離した。
「だ、大丈夫だ。早く寝れば、明日には治るよ」
「でしたら、今日はもうお休みになってください。ベッドまでお運びしますわ!」
「えっ、わ、ちょっ、え、え?」
彼女の細い腕が軽々と俺を持ち上げた。しかもお姫様抱っこで。
「お、降ろしてくれ!恥ずかしさで死にそうだ」
「ダメです♡これ以上悪化したらどうするんですか?」
俺はそんなに重くない方だが、それでも女の子が抱え上げて移動するのは骨が折れるだろう。しかし、この子は軽々と階段を登っていく。一体どんな体の作りをしているのだろうか。
部屋へ着くのは一瞬だった。掃除なんてしてるはずもなく、床は色々なものが散らばっていたが、彼女は気にせず俺を丁寧にベッドに置き、布団を優しくかけてくれた。
「今、お粥を持ってきますから、待っててください、ですわ♡」
「あ、ああ…」
恥ずかしさが限界を越え、まともに返答することもできなかった。それでも彼女は、優しく微笑み、台所へと戻って行った。
大学の教科書や衣服などが散らばった部屋を見渡す。いくら時間が無かったとは言え、いくらなんでも散らかりすぎだ。とてもじゃないが、見るに耐えなかった。それに、お粥を持ってくるには足場が無いし、彼女をこんな部屋に入れるのも失礼すぎる。片付けよう。
教科書を拾っていると、机の上に置かれたレザーのトートバッグに目が止まった。これは、俺が普段、大学の通学に使っているバッグだ。昨日もこれを持って行った。おそらく彼女がわざわざ病院から持ってきてくれたのだろう。ありがたい。だが問題は、すぐ横に置いてある家の鍵だ。鍵はバッグに入れておいたはずなのだ。まあ、昨日は色々あったし、俺が自分で出したのを忘れているだけかもしれない。そう思い、俺はそれ以上考えるのをやめた。
「お粥、できましたわよ♡」
急いでベッドに潜り込んだ。風邪はもう治っていたが、ここまで心配してくれているダイヤを前に、元気になったとは言い出せなかった。
入ってきたダイヤを見て、驚いた。彼女が看護師の格好、いわゆるナース服を身につけていたからだ。しかも、かなりパツパツで、身体のラインが浮き出ている。
「えへへ。少しでも元気が出るように、着てみましたわ♡似合いますか?」
「う、うん、似合ってるよ、すごく。可愛い」
また、エヘヘと笑った。
しかし、こう見ると結構"ある"な。腰は相変わらず細いが。着痩せするタイプなのかもしれない。
「調子は、どうですか?」
ダイヤが微笑み、問いかける。一瞬、家の鍵が頭に浮かんだが、笑顔にかき消された。
「大丈夫だよ。明日にはきっと治る」
「そうですか。では、これ食べて元気になってください、ですわ♡」
ベッドの横にしゃがみ込んだ彼女はお盆を床に置き、鍋を開けた。中からは、熱い湯気がたちのぼり、ほんのりと柚子の香りがした。
「はい、あーん♡」
ダイヤがお粥を掬ったスプーンに息を吹きかけ、俺の口元に差し出した。さっきのお姫様抱っこといい、これじゃ、まるっきり介護ではないか。
ちょうど彼女に、窓から差し込んだ夕日が当たっていた。目は一層輝きを増し、薄くて紅い唇が艶やかに光り、そして、前屈みになったことで、胸元が露わになった。心臓の鼓動が激しく、そして煩く鳴る。きっと俺の顔はまた、紅く染まっているのだろう。しかし、夕陽のせいではない。
「いい、いいって。自分で食べられるから」
しかし、彼女はこちらをじっと見つめ続ける。それどころかスプーンをさらに口へ近づけた。どうしても譲らないようだ。俺は仕方なく、口を開け、スプーンを受け入れた。彼女がパァっと笑顔になる。
「どうですか?」
控えめな塩味の中に、ほんのりと柚子の味がする。至って普通のお粥という味なのだが、俺にとっては、今まで食べた中で一番美味しい食べ物に思えた。気付けば頬には涙が一筋、伝っていた。
「めっちゃ・・・美味しい」
「よかったですわ♡」
ダイヤが次の一口を掬いながら問いかける。
「そういえば、今日はムツキさんのご両親は居られないのですわ?」
「ああ、いないよ。ずっと」
さっきまでニコニコしていたダイヤの顔から表情が消えた。如何にも、まずいことを聞いてしまった、という顔だ。そりゃ、あんな言い方をしたら勘違いするに決まっている。親がいないという言葉は、普通カップル間だと何らかの合図を表すものだが、今この場では違った。
「ご、ごめんなさい。私ったら、無神経なことを…」
「違うんだ。まだ死んでない。ずっと何かの研究やってて、なかなか家に帰ってこないだけなんだよ」
彼女に笑顔が戻る。同時に、一瞬でも悲しい顔をさせてしまった自分に腹が立った。大好きな人の悲しい顔は、見ていて辛いものだ。もう二度と過ちは繰り返すまい。
赤子のように食べさせられ続け、鍋いっぱいにあったお粥は、すっかりなくなった。ごちそうさま、というと、彼女は頬を少し赤らめ、微笑んだ。これから毎日風邪をひきたい。
ダイヤがベッドの端に腰をかける。恋人二人が同じベッドの上にいるのだ。何も起きないはずがなく・・・
「そういえば、ムツキさん」
「なんだい?ダイヤ♡」
「あの件、どうするんですの?」
くだらないことを考えている俺とは対照的に、口調こそ柔らかかったが、彼女は真剣な顔をして話し始めた。
「あの件…?」
「『ミラクル・ステラ』のこと、ですわ」
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