# 第二話 従業員を作ろう
遊園地を作る。
そう宣言したのはいい。
問題は――。
「ドウしましょう?」
「ドウしましょう?」
私とアドバイスバルーンは同時に首を傾げた。
夕暮れの遊園地跡地。
崩れた観覧車。
折れた柵。
瓦礫の山。
そして私達二人。
以上。
終わり。
スタッフ不足どころの話ではなかった。
「遊園地には何が必要でしょうカ」
「来園者です!」
「いませんネ」
「スタッフです!」
「二人ですネ」
「建物です!」
「半壊ですネ」
「未来は暗いです!」
「認めないでくださいヨ」
私は思わず突っ込んだ。
アドバイスバルーンは気まずそうにくるくる回転する。
風船なのに表情が分かるのは不思議だった。
「エット……」
私は腕を組んだ。
考える。
考える。
考える。
だが何も思い浮かばない。
するとアドバイスバルーンがぽんと音を鳴らした。
「あ」
「どうしました?」
「ステータスを確認してみてはどうでしょう!」
「ステータス?」
「ダンジョンマスターなら見られる気がします!」
「気がするんですカ」
「気がします!」
自信満々だった。
私は少し不安になった。
しかし他に方法もない。
「ステータス?」
試しにそう呟く。
すると。
目の前に青い半透明の板が現れた。
「オオ」
「出ました!」
私は表示を読む。
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【シアン・ペール】
Lv1
HP:20/20
MP:30/30
ATK:2
DEF:5
SPD:20
DE:9999
スキル
【ハットマジックLv62】
【回避Lv86】
【アドリブLv255】
ジョブスキル
【アクター】
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「……」
「……」
「レベル1ですネ」
「レベル1ですね」
「弱くないですカ?」
「弱いですね」
アドバイスバルーンは遠慮がなかった。
私は少し傷ついた。
「でもスキルレベルは高いですヨ」
「確かに!」
気を取り直す。
私はスキルを順番に確認してみた。
ハットマジック。
帽子に物を収納する能力。
便利そう。
回避。
なんだか強そう。
アドリブ。
説明を読む限り頭の回転が速くなるらしい。
「アドリブレベル高すぎません?」
「ソレは私も思いました」
なぜ二百五十五もあるのだろう。
生まれたばかりなのに。
謎だった。
次にジョブスキルを見る。
アクター。
見た動作を真似できるらしい。
「芸人向けでしょうカ」
「遊園地向けです!」
「ナルホド!」
何となく納得した。
遊園地にはショーがある。
きっと役立つ。
たぶん。
おそらく。
そのうち。
いつか。
「今は役立ちませんネ」
「今は役立ちませんね」
二人とも結論は同じだった。
「アドバイスバルーンも見てみてください」
「了解です!」
風船の前にも画面が出現する。
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【アドバイスバルーン】
Lv1
HP:5/5
MP:45/45
ATK:5
DEF:1
SPD:30
スキル
【特性:浮遊】
【会話】
【絶縁体】
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「防御力が紙ですネ」
「風船ですから!」
「ソレもそうですネ」
しかし速い。
私より速い。
ちょっと悔しい。
「絶縁体?」
「電気が効きません!」
「オオー」
地味に便利そうだった。
だが。
結局。
遊園地建設に繋がるような突破口は見つからない。
「詰みました?」
「詰みました?」
二人で沈黙する。
風が吹いた。
遠くで鉄骨が軋む。
遊園地復興計画は開始三十分で暗礁に乗り上げていた。
その時。
アドバイスバルーンがぴこんと音を鳴らした。
「もう一体作ればいいのでは?」
「何をです?」
「モンスターです!」
「オオー」
確かに。
人手が足りないなら増やせばいい。
単純だが正しい。
「掃除できる子が欲しいですネ」
「賛成です!」
そこで私達は素材探しを始めた。
幸いここは巨大な廃墟である。
材料には困らない。
十分後。
私は戦利品を抱えて戻ってきた。
「集まりましたヨ」
地面へ並べる。
空になった抗菌アルコールスプレー。
壊れたロボット掃除機。
そして。
ぐちゃぐちゃの金属塊。
「これは何でしょう?」
「分かりません!」
分からなかった。
ただ何となく使えそうだった。
実際には昔のロボコン作品の残骸だったのだが。
今の私達は知る由もない。
「吸収です」
コアへ近づける。
青い光。
粒子化。
吸収。
『素材登録完了』
「召喚!」
今度は慣れたものである。
私は即座に命令した。
光の渦が現れる。
ぐるぐる回る。
回る。
回る。
そして。
ぽこん。
「オオー」
四角かった。
とても四角かった。
白い箱型。
下には車輪。
横から小さなアームが生えている。
なんだか可愛い。
掃除ロボに目が付いたような見た目だった。
「……」
無言。
じっとしている。
「起動してません?」
私は不安になった。
すると。
ぴこん。
「清掃対象検索中」
喋った。
「オオ」
「清掃対象検索中」
少し間があって。
「結果:全部」
ロボは断言した。
「正しいですネ」
「正しいですね」
アドバイスバルーンも頷く。
ロボは小さなアームを動かした。
「名称未設定」
「では名前ですネ」
私は少し考える。
抗菌。
掃除。
ブロックみたいな四角。
「ブロックリーン」
「名称登録」
「ブロックリーンです」
「了解」
短い返事だった。
働くタイプらしい。
素晴らしい。
私は既に気に入っていた。
「では仕事ですヨ」
「了解」
即答だった。
ブロックリーンは走り出す。
見た目より速い。
しかも瓦礫の山を平然と登る。
「オオー」
さらに小型アームを伸ばす。
青白い光が広がった。
床や壁が薄く光る。
「何をしたんですカ?」
「抗菌コーティング」
「掃除?」
「掃除」
分かりやすかった。
そのままブロックリーンは崩れかけた建物へ突撃する。
私達も後を追った。
建物の中は酷い有様だった。
天井は半壊。
床には瓦礫。
家具は粉々。
ホコリだらけ。
「これは大変ですネ」
「大変ですね」
「掃除」
ブロックリーンは気にしていなかった。
私は瓦礫を持ち上げる。
「フンッ」
重い。
思ったより重い。
ATK2である。
当然だった。
「ヒイ」
一個運ぶ。
「フウ」
二個運ぶ。
「ウグ」
三個運ぶ。
死ぬほど疲れる。
「シアンマスター頑張ってください!」
「見てないで手伝ってくださいヨ!」
「私は風船です!」
「知ってます!」
アドバイスバルーンは応援しかできなかった。
だが応援はしてくれる。
少し嬉しい。
一方。
ブロックリーンは凄かった。
抗菌コーティングを広げる。
すると崩れかけた床が安定する。
壁も補強される。
小さな瓦礫は次々回収される。
「優秀ですネ」
「掃除」
本人は淡々としていた。
そして気付けば。
一部屋だけだが。
人が住めそうな空間が完成していた。
「オオオ」
私は感動した。
床が見える。
壁もある。
雨風も防げそう。
遊園地どころか拠点すらなかったのだ。
これは大きな前進だった。
「本日の成果です!」
アドバイスバルーンが宣言する。
「部屋一つ確保!」
「従業員二名追加!」
「遊園地完成度!」
「0.0001%!」
「低いですネ」
「でも前進です!」
それはそうだった。
私は部屋の真ん中へ座る。
疲れた。
ものすごく疲れた。
HPは減っていない。
だが疲れた。
「眠いですネ……」
「ダンジョンマスターは寝るんですか?」
「分かりません」
「確かに」
分からない。
だが。
眠いものは眠い。
私は壁にもたれた。
アドバイスバルーンがふわふわ浮いている。
ブロックリーンは黙々と掃除を続けている。
不思議だった。
数時間前まで私は一人だった。
名前もなかった。
何者かも分からなかった。
それなのに今は。
仲間がいる。
部屋がある。
目標もある。
「遊園地……」
ぽつりと呟く。
きっと遠い。
ものすごく遠い。
観覧車も。
ジェットコースターも。
レストランも。
お土産屋も。
まだ何もない。
でも。
少しだけ。
本当に少しだけ。
できる気がした。
「開園まで……頑張りましょうネ……」
「はい!」
アドバイスバルーンが元気よく答える。
「掃除」
ブロックリーンも答えた。
私は少し笑った。
そして。
そのまま眠りへ落ちていった。
遊園地跡地の片隅で。
新米ダンジョンマスター、シアン・ペールの最初の夜が始まった。




