3.土塊の実と黄金の「泥の塊」これは…村に必要な食べ物です
下水道が完成して数日後。ナラク村を数カ月ぶりとなる激しい雷雨が襲った。かつてのこの村なら、雨は「絶望」の同意語だったという。
路地はまたたく間に膝下まで浸かる泥水と化し、家畜や自分たちの糞尿が混じった汚水が家々へ流れ込み、その後は必ず、下痢と高熱にうなされる子どもたちで溢れたそうだ。
でも、今回は違った。
「見てくれ!水が……水が溜まらねぇぞ!」
カイルの叫びに、怯えていた村人たちがあばら家から顔を出す。路地を流れる激しい雨水は、ゼノが刻んだ真っ直ぐな溝へと吸い込まれる様に流れ込み、轟々と音を立てて村ハズレの空き地の沈殿槽へと流れていく。更にの穴から川の下流へと排出されていた。雨が上がった数時間後、村の地面は信じられないほどに「乾いて」いた。
「神様……神様、ありがとうございます…!」
「ばあちゃん、違うよ。これはあのお嬢様の…アイリス様のおかげだよ。」
天に祈りを捧げていた老婆にその孫娘が優しく語りかける。次々に路地に出てきて広場に集まっいた村人たちは、下水道工事の確かな価値を感じていた……とゼノが教えてくれた。
「で?お嬢様、今度は何をしてるんだ?」
村の報告に来たゼノを出迎えることもせず、私は屋根に登って穴の修理をしていた。先程の雷雨は屋根に穴の空いている、私の住まいには致命的で室内だというのには家の中は、すべて水浸しだった。
「笑っている暇があったら、手伝いなさいよ!」
「……お願いする態度ってのもんがあるんじゃねぇか?」
朽ちた屋根は不安定で余っていた板を打ち付けようにも体が安定せにずに力が入らない。そんな私をゼノが下から見上げて笑っている。腹立つぅ……!
「ゼノ!あなたそれでも軍人なの?軍人なら困ってる一般人を無条件で助けなさいよね!」
「誰も、助けねぇとはいってねえだろ?人にもの頼むならそれなりの態度で示せって言ってんだよ、お嬢様。」
何だこいつは!昨日はいい感じてビジネスパートナーになれたと思ったのに!!
ゼノの態度にものすごく腹が立ったが、このままずっと屋根の上にいるわけにもいかない。室内の拭き掃除もしたいし、何より、濡れてしまった服を着替えて洗濯もしたい。数分考えた結果、私は諦めて息を吐いた。
「…屋根の修理をするのを手伝ってください。……お願いします…。」
公務員にはときに自分否がなくても頭を下げることも必要なのよ。そう言い聞かせながら、ゼノの返事を待つこと数分。突然、ふわりと体が浮いた。
「なに!?」
そしてそのまま屋根から数メートル持ち上がる。その下で、地面においていた木の板や釘が勝手に動き始めてあっという間に、屋根に空いていた穴をきれいに塞いでいった。
「凄い……。」
「これくらい、手押しポンプを作ったときに比べれば朝飯前だぜ。」
得意げに言ったゼノが片手を降れば、私の体はゆっくりと地面に降ろされた。
「ありがとう。助かったわ。」
「どういたしまして。あのまま、屋根の上にいてもらっっても良かったんだが、お嬢様にお客さんのようだぜ。」
ゼノが顎で指した方を見れば、数人の村人がこちらを伺うように見ていた。
「…なにか?」
文句でも言いに来たのか?クレーム対応は慣れているが、流石に大勢から吊し上げにされるのは勘弁してもらいたい。
「これ、よかったら使ってください。」
一歩前に出た女性が差し出したのは丁寧に畳まれた衣服だった。
「これも…いいものじゃないけど。」
「少ないですが…食べてください。」
最初の女性に続くように、次々と衣服や食べ物、野草の花を差し出していく。気がつけば小さな行列が私のボロ家の前にできていた。
みんな、自分が食べることでいっぱいのはずなのに。
人に分ける余裕なんてないはずなのに。
「ありがとう!アイリス様!」
小さな女の子がそう言って笑ってくれた。その瞬間、鼻の奥がツンと痛くなって音が目頭が熱くなる。思えば、この世界でこんなふうに感謝の言葉を言われた事があっただろうか?
……誰かの役に立ちたい。この場所で生活する人たちを幸せにしたい。そのために私は地方創生公務員になったんだ…!
前世の公務員時代の自分の言葉が蘇る。…そうだ。私はその為にがむしゃらに働いてきたんだ。
「アイリス様!お腹痛くないよ。熱もないの。」
別の女の子がシロツメクサを差し出して嬉しそうに、でもどこか得意げに報告してくれる。
「…娘の熱が下がったんです。」
「家の中に水が流れ込んでこなかったよ。」
次々上がる報告にゼノから聞いていたはずなのに、その時と比べ物にならないほどの感情がこみ上げた。
「少しは、認められたみたいなだ……お嬢様。」
静かな言葉と共にゼノが穏やかに微笑む。私はそれに涙をこらえた下手くそな笑顔で答えると、差し出されたそれを一つ一つ丁寧に受け取り、相手の名を聞いて会話を交わした。
その様子を、少し離れた場所で壁に背を預けて見ていたゼノが鼻で笑う。
「パン一つ、ボロキレ一つでそんなに嬉しそうにするなんて、おめでてーな。」
「あら、公務員の喜びは住民の満足度に直結しているのよ。でも、ゼノ。今回はあなたのおかげよ。…ありがとう。」
「なんだよ…気持ち悪りぃ。…まぁ、あの溝が崩れねえように、たまには強化魔法を懸けてやるくらいは…してやらんでもない。」
そっぽを向くゼノ。でも、その耳が少しだけ赤く染まっているのを私は見逃さなかった。
衛生問題は解決したが、私の懸念は新たな問題点に向かっていた。
「硬いパンに身の入りの悪い豆。穀物はほとんどなくて、家畜は鶏が数羽と痩せた雌牛が一匹。…あとはたまに取れる山菜や樹の実か…漁獲量が安定しない川魚…。」
屋内を乾かしている間に私は村の新たな問題…食料事情について調査を始めた。
村人たちからいただいた食物は質の良いものではなく、王都なら囚人のほうがまだマシなものを食べているくらいだ。この貧しい村が自給自足で成り立っているいるとは思えないが食料調達の方法を調べて、このあたりの土壌調査も必要だろう。
「……お嬢様よ、やはりこの土地で「麦」を育てるのは無理だ。土が死んでる。」
ゼノが苦々しく報告する。彼の足元には、芽吹く前に腐ったしまった麦の苗が転がっていた。
麦はこの国では税金の代わりとして毎年一定量を領主に収めることが決まっている。麦が無理ならお金でも代用可能だが、この村ではお金なんてありはしない。山を超えた隣村の市場で僅かな食物を販売してるというが、売上は無いに等しい。
村に外貨を入れてお金を増やしたいけど、まずは生活の基盤を作ることが重要よね。
そこに、下水道工事以来私を慕ってくれているカイルとナギが駆け寄ってきた。
「アイリス様!食べられそうな植物はやはりありません。」
「山の裏手に、家畜の餌にする「クレイベリー」なら生えていましたが……あんないびつな形の土塊の実は人間は食べられませんよ。」
いびつな形の土塊の実?……根菜なのかしら?…食べられないかどうかは直接見て決めないと。
「ねぇ、ちょっとそこに案内してくれない?」
こうして私はカイルたちを連れて山の裏手へ向かった。
「あった…。これです。」
山の裏の荒れ地に伸びる特徴的なツタと葉っぱ。私はそれに既視感を覚えた。
これって…もしかして…。
カイルとナギはツタの根本を掘り返す。すると土の中から、赤紫色の皮に包まれた小さな根菜が出てきた。
「土塊の実、俺達はクレイベリーって呼んでます。」
「泥臭いし、見た目も悪いし人間の食べ物じゃないからって、昔から家畜の餌にしてきました。」
「なんてもったいない!!」
思わず口を突いて出た言葉は、思ったよりも大きくて近くにいたカイルとナギは肩を揺らした。
この見た目、この形……これはまさしく…前世の世界で幾度となく貧しい村々を救ってきた救世主!
「サツマイモだわ!」
私はカイルからその芋を受取りまじましと観察する。色も形も前世で見たサツマイモと同じ。春の気候のせいなのか実は小さいけれど間違いなくサツマイモだわ!
「痩せた土地でも育ち、保存が効く。エネルギー効率も最高。……これがあれば、ナラク村を飢えから解放できるわ。」
「……おいおい、マジかよ…。」
私が目を輝かせるとは対象的にゼノは信じられないような表情でこちらを凝視してる。カイルとナギは手に持っていたサツマイモを興味深そうに見入っていた。
「焼き芋、干し芋、芋焼酎、デンプン……村の発展の大きな力になるわよ。」
興奮した頭の中で、焼き芋を使った特産物や、商品展開、外貨の獲得など次々に考えて目を光らせる私にぼそっとナギが言った。
「でも、クレイベリーなんて…村の奴らは絶対に食べないと思う。」
その言葉は私の耳には入らなかった。サツマイモを使った今後の計画だけを考えていた私は、このあとの村人の大反対を全く予想できていなかった。
翌朝の広場で、村人の怒声が響いた。
「ふざけるな!あんな土塊の実を主食にするなんて正気かっ!?」
ナギが予想していた通り、私が麦の代わりにサツマイモの栽培を提案したところ、村人たちからは猛烈な反対が上がる。
「あれは家畜の食い物だ!」
「そんなものを作っても領主様への税にはならない。麦を作らなければ、俺達は反逆罪で処刑されるんだぞ!」
「あんな物は不吉だ!闇の魔力を吸っているに違いない!」
下水道の件で少しは打ち解けたかと思っていた、村人たちから猛反対の嵐を受ける。でも、ここで諦めるわけにはいかない。このサツマイモは絶対にこの村を救う救世主になるんだから。
私は今にも飛びかかるような勢いででまくしたてる村人たちに声を張った。
「皆さんは麦に執着して、毎年飢え死にするのを待つのですか?処刑を恐れて、お腹をすかせた子どもたちを泣かせながらただじっと死ぬのを待つのですか?」
王都の子どもたちの半分もないほど痩せこけた子どもたち。働き手となる大人たちですら手足は棒のように細い。いつまでも育たぬ麦の種を蒔いていては、そう遠くない未来にこの村は消滅してしまう。
「……税のことは、私がどうにかします。今は、生きることだけを考えてください!」
自分の親ながら、税を収めぬものは処刑だなんて最低だわ。王都の贅沢な暮らしの影に、眼の前の村人たちの苦しみがあったかと思うと胸が張り裂けそうなほど痛む。
「どうか、どうか、皆さん!一緒にこのクレイベリーを育ててくれませんか!?」
反対の嵐が収まった広場に私の声が響いた。…しばしの沈黙のあと帰ってきたのは、私の願いとは違い、村人たちの怒りとため息だけだった。
「結局、領主の娘だからって自分は助かろうとしてるんだろ。」
「下水道だかで俺達を油断させておいて…!」
「チっ…!!」
冷たい言葉と共に私を睨みつけて、村人たちは一人、また一人と広場から去っていった。その中で母親に手を引かれて歩きながら何度もこちらを振り返る女の子は、昨日渡しにシロツメクサを渡してくれた子だった。体にあっていないボロボロの服を着て、裸足で歩いているその足の細さと渇き様にグッと無意識に拳を握った。
結局、協力してくれるために残ったのはカイルとナギ、そして「面白そうだ」と笑うゼノだけだった。
その日の昼過ぎ、私は3連池のところで土を掘り返していた。私と同じ様に、カイルとナギもスコップを片手に底に溜まった泥を木桶に入れていく。
「お嬢様。またおかしなことを始めたな。……今度はその汚ねえ泥をどうする気だ?」
ゼノが鼻をつまみながら3連の沈殿池の横に新設された「魔法式発酵槽」を指す。そこには、下水道の沈殿池から回収された汚水を処理したあとの沈殿物が魔法で脱水・発酵処理されていた。下水道を作ったゼノにお願いしたものはこの魔法式発酵槽だった。
「失礼ね。これは泥じゃなくて、この村を救う「黄金の泥の塊」よ。」
私はゼノに話しながらもスコップを握る手を止めることはない。前世の地方創生において資源循環は基本中の基本だ。
「いい?人間が食べたものは排泄物として外に出る。それを処理して土に返せば、また新しい作物が育つ。……これこそが、私の目指すサステナブルなむらづくりの第一歩なの。」
「サステ……なんだって?相変わらず呪文いたいな言葉をはく女だ。」
呆れるゼノを尻目に私はカイルとナギに作業を続けるように指示して、裏山へ向かった。ゼノも渋々と言った様子で着いてくる。そして、昨日サツマイモを発見した場所にたどり着き、私はクレイベリーの蔓を次々に切り取っていく。
「おい、実を取るんじゃねーのか?」
「こんな小さい実じゃ、子どものお腹一つ膨れないわよ。私がこれから作るのは……もっと大きくて、ずっしりした、一つで子供二人をお腹いっぱいにできるサツマイモよ。」
私がニヤリと口角を上げると、ゼノは気持ち悪いものを見たような顔でのけぞった。…失礼しちゃう。
切り取った蔓がカゴいっぱいになったところで、村の近くに戻った私は日当たりが良い広い場所に立った。村から歩いてすぐのこの場所なら作業もしやすいし、発酵槽にもほど近い。何より、これだけの拓けた土地は農作業に持ってこいだわ。程なくして、発酵槽から堆肥を持ってきたカイルとナギも合流する。
「ゼノ、あなたの魔法を貸して。」
「何だよ、魔法でその蔓を成長させるのか?」
「違うわよ。土を分子レベルで細かく砕いて、空気を混ぜて。そこにこの堆肥をぶち込むの。」
「……耕耘魔法か。戦場じゃ、塹壕堀のための地味な魔法だが、まさか畑で使うことになるとはな。」
ゼノが地面に手をかざして魔力を放つと固くやせ細っていた大地がうねり、細かく砕かれていく。そこに、カイルとナギが堆肥をかければ、更に大きくうねり、柔らかく練り込まれるように地面の色が変わっていった。そして、数分のうちにサッカーコート約一面分の畑が出来上がった。
「さぁ、カイル、ナギ、手伝って。これから、このサツマイモの蔓を植えるわよ。畝に蔓の2〜3節を水平に土に植えてちょうだい。」
「はい!」
「わかりました。」
私に続いて、カイルとナギが蔓を植えていく。それを見ていたゼノがククと肩を揺らして笑った。
「種も実もない蔓を土に刺すだけで増えるわけねーだろ。俺が魔法で育てた方が100倍早いし確実だろうが。」
「……確かに。魔法を使えば便利よね。でも、それだと魔法を使えない村人たちは一生あなたに頼り切りになる。もちろん私も今は頼っているけど。…この村の人達には自分たちの力で飢えと戦えるようにならなきゃいけないの。」
「……。」
私の言葉にゼノは何も言い返して来なかった。
それから数時間。重くなった腰を上げればそこにはサツマイモの蔓がきれいに等間隔で畑に植わっていた。
「さて、これからが重要よ。サツマイモが根付くまで毎日たっぷりのお水をあげなきゃいけないし、その後は蔓かえしをして蔓ボケも防がなきゃいけない。忙しくなるわよー。」
お互いに泥だらけになりながら、カイルとナギはまるでおもちゃを見つけた子どものように目を輝かせてサツマイモ畑を見ていた。サツマイモの収穫には植え付けから100日ちょっとかかる。サツマイモが収穫できるようになるまでの約3ヶ月、なんとか村の食料を繋がないと。
「おい、お嬢様。」
泥を払い、堆肥の入っていたバケツを片付けようとしていたところでゼノの声がかかる。
「何?」
「…俺に何かできることはねえのか?」
「…え?」
「魔法で芋を成長させる以外で俺が他に手伝えることは、ねえのかよ?」
ぶっきらぼうな言い方だったが、ゼノが私の言葉をしっかりと理解してくれたことを感じて思わず笑顔がこぼれた。
「あるわよ。サツマイモの葉や実を食べに野生動物が来る可能性があるから、この畑を囲う様に柵を作ってほしいの。あと、カイルとナギに獣用の罠の作り方を教えてあげて、数カ所設置してちょうだい。…うまく行けば食料が手に入るかもしれないわ。」
「わかった。任せとけ。」
そう言って、ナギとカイルの方に歩き出したゼノの背中を見送る。このサツマイモ畑は是が非でも成功してほしい。風に揺れる小さなサツマイモの葉を私は祈るような気持ちでしばらく眺めていた。
サツマイモを植えてから数日、未だに村人からの反応は冷ややかなものが多かった。でも、それを気にしている暇はない。サツマイモの収穫までの間、村の食料を繋がなければならないのだから。
「村長、この村の主な食料の生産作業を教えてください。」
今日は村長に村の主だった産業や作業を確認しに来ている。他の村人変わらないあばら家でボロボロのテーブルを囲うように私とゼノ、そして村長とその息子が向かい合っていた。
「食料の生産か…。アイリス様も知っての通り、麦はほとんど実がならず、発育も良くない。男たちは狩猟と魚釣りに数人、あとは村の外で出稼ぎに行くものもがほとんどじゃ。女たちは子育てをしながら麦畑と山菜採りかの。昔は大工や木こりなんかもいたんじゃが、皆飢えで死んでしもうた。」
「狩猟や漁猟の収穫はどれくらいですか?」
「なんとか、村人たちが1日食いつなぐ分ほどじゃ。山菜や野草はその日によってまちまちで、ほとんど収穫量は無いに等しい。……情けない話じゃが、この村はほとんど出稼ぎの者たちによって食いつないでるようなもんじゃ。」
肩を落として言う村長にその息子のロイドは悲しげに目を伏せた。
狩猟で取れる動物の肉はこの村の貴重なタンパク源だ。まずはここを安定させたい。それに、獣が捕れれば皮や獣油が取れるから新たな加工品も作れるはず。
「狩猟の主な方法は?弓ですか?」
「ああ、そうじゃな。昔は矢作小屋もあって猟師も大勢いたんだが。ここ数年で獣が取れなくなってしまって、今じゃ誰もやろうとはせん。山に入って獣を取るより、出稼ぎに行ったほうが家族の腹がふくれるからのお。」
獣がいなくなったか…。何か原因があるのかな?
「獣はいなくなってなんかいないぜ?」
今まで黙って話を聞いていたゼノが口を開いた。
「獣はいる。俺はたまに森に行くが、足跡はあるし糞も落ちてる。……いなくなったんじゃなくて、生息場所が変わったんしゃねーのか?爺さん、あんたらは今までどのあたりで狩りをしていたんだ?」
「どのあたりか……そうじゃの、村の裏手の森から入って裏山の近くまでだったか……。」
「それ以上、森に足を踏み込めば山の神の天罰が下ると言い伝えられている。この村の狩猟場は昔から決まっている。」
村長の言葉にロイドが付け足した。
「チっ…また神様かよ。」
ゼノがうんざりしたように吐き捨てた。
辺境の地にある村などでは昔から、神々の存在を大切にしてきた。そのため、信仰心が異常に強いのは理解できなくもない。でも、それは村人が餓死していい理由になならない。
「思い切って狩猟場を変えるのはどうでしょうか?これからは定期的に複数の狩猟場をローテーションするんです。」
「ローテーション?」
「何をいうんだ!そんなことをしたら山の神の天罰が下る!」
ロイドが激しく反対するが、私はぐいっとロイドに向かって身を乗り出した。
「村人が飢え死にしているこの現状は、その天罰よりも苦しいものですか?誰一人まともな食事を取ることができない、飢えと不安を感じて過ごすこの日々を山の神は救ってくれましたか?」
私の言葉にロイドはグッと口をつぐんだ。
信仰心と祈りだけでお腹は膨れない。病は治らない。何もしてくれない神にすがり、恐れていては村人は死んでしまう。
「なんて罰当たりな。」
吐き捨てるように言ったロイドの言葉にゼノが拳を握った。それを、視線で制して村長に向かい合う。
「狩猟場を変えれば、狩猟の収穫量も上がるかもしれません。もし、神の怒りが心配ならば……神にお許しをいただけばいいんじゃないでしょうか?」
私の言葉に村長は理解できないというような表情で首をかしげた。それに習うようにゼノとロイドも首をかしげたが、私はそれにニコリと笑顔で返した。




