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2話

文字通り、窓の外の向こうは真っ暗だった。

おかしい、そんなはずはないのに。

今日は月が出ていた。夜と言えど、ここまで暗くなるはずない。ここまで黒く暗い夜なんて知らない。

(……?)

じっと窓の外を見ていると、少しだけ変化があった。

(…え)

真っ黒な暗闇が動いていた。

はっきりした形はわからないけど、確かに目の前にある何かは生きて動いている。けど、何が動いているか確かめようにもわからなかった。

図書館は2階部分を吹き抜けにして作られている。この窓も2階まである。

けど、その何かは図書館を超える大きさ。

どうしよう、この暗闇は何かおかしい気がする。

(……このままじゃ…)

真っ黒な暗闇は移動を続けていた。図書館の窓を通り過ぎて、窓の端から月明かりが注がれ始める。

(…だめだ!)

私は図書館を飛び出した。

最短距離で外に出て、さっきの図書館の大きな窓のあるところまで走る。

(…いた…!)

見えたのは、大きな黒い何か。

3階ぐらいの高さはいってるのだろうか、その大きな暗闇は図書館の角を曲がるところだった。

動きそこまで速くない。このままなら追いつける。

大きな窓を通り過ぎ、急いで角を曲がる。


「…え……」

何もなかった。

おかしい。暗闇は確かにここを曲がった。

曲がってもここは行き止まり。あるのは管理棟と校舎裏。

(……どういうこと…?)

見間違い?そんなわけない、確かに見えていたし、おかしさも感じた。

私の知らない魔法生物?…なんだろう、もっとよく見ておけばよかった…。

あたりを見回してもそれらしいのはどこにもいない。

あれを見た時の切羽詰まった感覚もどこにもない。

(……でも…気になる)

もう少し。

もう少し、あたりを探ってみよう。

木々の間や建物の影を見ても見つからない。


「……」

そろそろ諦めようかと思った時、こちらに向かってくる音が聞こえた。

足音だ。角の向こうを見ると照らされた光…見回りの先生だ。

(…いけない)

消灯時間をすぎてたことに気付かなかった。

元より、ぎりぎりで図書館棟にきていたんだから、時間がすぎてしまって当たり前なのだけど。

…こんな時間に外にいるなんて言い訳がつかない。

「あ…」

図書館棟に隣接した建物が目に入る。

(…管理棟)

普段誰も立ち入らない場所。

ここまでは見回りの先生も来ないかもしれない。

(…行くしかない!)


私は管理棟に入った。

鍵はかかっていなかった。開錠呪文を使うつもりでいたけど拍子抜け。

音を立てずに扉を閉める。念のため内鍵をかける。

そこは少し変な場所だった。

整然と並ぶ大きなコンピュータ群。魔法を動力源として、電気水道等のさまざまなエネルギーへ変換する魔法システムを搭載している。

非魔法界の科学の部分と魔法界の魔力がうまく合致してできてるシステムだ。

「…すごい」

奥へ進む。

黒くて大きなコンピュータはまだ続いている。

カチリと背後で金属音が響く。

(…!)

管理棟の扉から光が差し込む。

思わずコンピュータとの間に隠れて隙間から様子を見た。

いくら鍵のかけ忘れがあっても、見回りの先生が合鍵を忘れることはないか。都合が良すぎる。

(…どうしよう)

足音が近づいてくる。

中まで入って見回りされたら見つかってしまう。

今移動すればばれてしまいそうだし、かといって隠れる場所には限界がある。

この時、私は相当焦っていて背後の気配にまったく気づいてなかった。


「!!」

口をふさがれて声が出ない。

急なことに驚いたのと怖さで声は引っ込んでしまったに近かったけど。

「…静かに」

穏やかな声が耳を掠める。

何が何だかわからなくて、けど近づく足音に自分の置かれてる状況も気づく。

「……このままゆっくり後ろに下がって」

ひどく冷静で余裕のある声は、私の口元を塞いだまま半ば後ろから抱きしめるような形で後退する。

コンピュータ群から離れ通路へ入っていく。

見回りの光は見えない。

「……」

「……」

近づく足音は途中で止まり、その後少しずつ遠くなっていく。

離れていく。程よくして扉が閉まる音がした。


「もう大丈夫かな」

口元の手が外される。

緊張から大きな息を1つ吐いて、背後の人物を見やった。

「ごめんね。手荒な真似して」

「え、あ、渕裏葉くん?!」

なんで?!と思わず声に出る。

内緒だよと渕裏葉くんは意味深そうに笑い、通路の奥へ案内してくれた。

その奥には小さな部屋。

当直とかあったら、こういうとこを使うのかもしれない。

私がこの学園に来る前はそういう制度があったのだろうか。

小部屋には、机と椅子、ノートパソコンに小さな本棚まであった。ちょっとした生活ができるスペースだ。

「勉強に集中できない出来ない時はここでしてるんだ」

渕裏葉くんが言うには、昔、管理棟には当直管理人がいたらしいんだけど、廃止されて今の状態になったとか。

渕裏葉くんはたまたま見つけて使ってたみたい。

「八弥さんは何をしていたの?」

こんな時間にこんな所で。

……どうしよう。

あの暗闇の話をする?

けど、ここに来てしまった理由を他に考えられない。

渕裏葉くんは優しいし、笑わずに聞いてくれるかも。


「じ、実はね…」

私は説明しにくい、さっきのこと…あの怪物のことを拙いながら話した。

突如消えて、ここに来たところまで全て。

彼は馬鹿にされるんじゃという私の思いとは裏腹に、真剣に耳を傾けてくれた。

「…聞いたことがないな。不思議な現象…いや生物の可能性もあるのか」

「…なんだかよくわからないけど、気になってて…」

彼は私を見る。

頭がいいと評判の渕裏葉くんが悩むってなると、やっぱり私の見間違い?

「八弥さん」

「え、あ、何?」

「その怪物?……2人で探してみない?」

「え?!」

思ってもみない誘いだった。

真面目にとらえるなら先生に言うことだし、そもそも見間違いで済んでもおかしくないのに。

「きっと見間違いとか勘違いじゃないよ。僕らで探して、一体何なのか調べてみよう」

「う、うん…!」

思わず頷いてしまった。

彼が楽しそうに瞳を輝かせているから、つい。

「最初は僕の方で生物系の文献をあたってみるよ。今日は遅いし、明日またここで会おう?」

「うん…でもいいの?」

「何故?」

「ここ、渕裏葉くんの特別な場所なんじゃ…」

1人で勉強できる大切な空間のはず。

それを邪魔したら…。

「ううん、全然大丈夫。気にしないで」

「ありがと…?」

「ふふ、そしたら今日は寮まで送るよ」

そうして、私と渕裏葉くんの怪物探しが始まった。


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