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3話

外出禁止時間になって、私はこっそり管理棟へ向かった。

渕裏葉くんに会うためだ。

昨日の先生の見回りの時間は避けて慎重に進むと思いの外、遠く感じた。

手には日中、偶然にも手にした本。

異次元に関する本だ。

先輩が嬉々として話していた、異次元。

あの怪物は次元を超えてきたものとか?もしそうだとしたら何が目的なんだろう…何かのはずみで偶然来てしまったとか?そもそもこちらに来てどうしてすぐ消えてしまったのかな…?

そんなことを考えて、彼の元へ向かった。


「やあ、八弥さん」

「渕裏葉くん」

穏やかに微笑みながら迎えてくれる渕裏葉くん。

私は早速、本を渡して次元の話をしてみた。

彼は昨日と同じく、真面目に私の話を聞いてくれた。

「…異次元の生物か…確かに可能性はあるかも」

「渕裏葉くんは異次元って信じてる?」

「そうだね。学会ではまだ議論の余地ありの曖昧なものの扱いだけど、実の所、別次元については随分前から研究されてるし、論文もあるんだよ」

ほら、これ、と本棚の分厚い本をいくつか持ってきてくれた。

「転移魔法の権威と言われた、サー・デイビットの1678年頃、空間を転移するにあたって複数の平行世界について論じてる。」

「へぇ…」

「あとこっちは空間魔法で有名なレイン公爵の1858年の研究結果。世界が1つの平面のみだと空間魔法は成立しない。空間魔法行使とは、複数の立体的な次元がないと不可能であるって」

「う、うん…」

他にも彼は色んな論文や研究結果を教えてくれる。どれも教科書に書かれてるレベルなんてものじゃない。魔法大学の論文とかそれ以上の研究論文のよう…説明してくれる傍らで出される本の中には古代語で記されてるものもあった。

そんな昔から異次元について話されて、研究されていたなんて知らなかった。

うーん…異次元て奥が深い…。

「あ、ごめん。つい…」

私が難しい顔をしてるのがバレてしまったみたい。

渕裏葉くんは申し訳なさそうに言う。

本を読むのが好きで、ついその内容を話しすぎてしまう癖があるみたい。確かにさっきの説明の量と質を考えると相当読み込んで知識にしてるのがわかる。

照れて謝ってくれるけど、ここは自慢してもいいんじゃないかって思う。

まぁ、おかげで照れてる渕裏葉くんを見れたし、彼を見て和んでることは本人には言わない。


「渕裏葉くん、次元の入り口ってあるの?」

どうやったらわかるのかな?そう言うと彼の双眸が僅かに細まる。

「理論上、隣合せで近くにあるものとされてるんだ。近いということは次元同士がくっついてしまうこともあるってこと」

「そしたら…くっついてるとこを探せばいいの?」

「そう。互いに干渉できないものだから、くっついてるとこには歪みが生まれ、切れ目として出現するって提唱していた研究者がいたよ」

「切れ目…」

「ただ見つけたとしても、それを広げて行き来できるようにしないといけないんだ。それを可能にする魔法については、どこかで読んだことあるんだけど…その文献は今度探してみるね」

「うん、わかった」

そしたら、あの怪物が異次元のものという可能性はない?

次元の行き来に条件があるなら猶更。

「あるよ」

「え?」

「八弥さんの言う例の何かが異次元の生物の可能性」

読唇術でもあるの。

そう思ってたら、彼は小さく吹き出した。

「そんなに驚かないで。予想して試しに言ってみただけだよ」

「え…鎌かけたってこと?!」

「さぁ、どうかな」

「渕裏葉くん!」

ちょっとだけ怒ってみせたけど、こんな形で話すのは初めてだ。

渕裏葉くん、面白い人なんだな。

「あ、そうそう。僕も調べたんだけど、現存する魔法界の生物で該当はなさそうだよ」

あったら新発見だね、と。

私達の知らない生き物。

渕裏葉くんから渡された本をめくるとたくさんの魔法生物…けどそこに黒くて大きなものはいない。

「生き物じゃないってことはある?」

「うーん、そうだね。天候とかそういう事象である可能性もあるよ。今度はそっちで考えてみようか?」

「うん」

彼がいると頼もしい。

1人で考えてても、こんなに話は進まないだろうし、考えも出なかったと思う。

「渕裏葉くん」

「何?」

「ありがとう」

彼は微笑んで応える。

僕も気になるからと言ってくれた。

「渕裏葉くんがいないと、こんな色んなこと考えられなかった。渕裏葉くんはなんでも知ってて詳しいね」

「そうでもないよ」

「本当、こんな話も信じてくれるし、私には救いの女神様だよ!」

「……」

「あ、女神じゃダメか。救いのヒーロー?みたいな」

「そんな」

謙遜する彼。

謙虚で頭よくて…なんでも揃ってるなんて羨ましい。

そして、次の調べ物も無事決まって、見送ってもらって夢についた。

明日も彼と管理棟で会えるんだ。

気味悪い暗闇のことは今も怖い。

けど、そのこととはいえ彼と話せるのが楽しみな私がいた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「駄目です、全員…」

「……そうか」

「どうしたら…」

「……」

助けることができたの?

当作品は同人誌化に伴い、三話までの公開とさせて頂いています。BOOTH→https://mairi.booth.pm/

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