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1話

この学校の桜の木は年中咲いている。

春も、夏も、秋も、冬も。

薄い色を象って静かに散っている。

決して枯れることはない。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



ここ、Lyre Pulchram魔法高等学校は地区内外の評判も良く安定していると評判みたい。

魔法を使えない人が暮らす地域でもその名前は有名だったりする。

私はこの魔法高等学校の2年生。1年経ってやっと慣れたこの学校の桜の木が私は好き。

「おはよう、八弥(はつね)さん」

「渕裏葉くん。おはよう!」

声をかけてきたのは渕裏葉奏(ふじうらばかなで)くん。同じ学年で隣のクラスだけど、何かと気さくに話しかけてくれる。いつも優しくて頭もいい。

「こんなところでどうしたの?」

「あ、桜見てて」

「桜?あぁ、正門の?」

「そう。ほら、ここの桜ってすごく大きいし、ずっと咲いたままだし、見てて飽きないなーって」

「珍しいね…皆、見慣れてしまうのに」

「そうだね、自分でもそう思うよ」

「入ってすぐはすごいすごいって見るんだけどね」

正門の傍に立つ大きな桜の木は、この学校のシンボル。理事長先生が特殊な魔法をかけていて、1年中桜の花が咲いてる。

私は魔法が使える世界があることを知らなかった。もちろん知っていて魔法を使えない人もいる。

家族も魔法が使えなかったし、魔法界に興味があまりなかったみたいで、その手の話題はなかった。もしかしたらテレビで話があったかもしれないけど、いまいち覚えてない。

そんな私は魔法を知らないまま育って、素質があるからとこの学校に入学できたときは本当に吃驚した。

魔法は何でもできる、なんて御伽話だったのに。

「それじゃ、八弥さん。僕は先生に呼ばれてるから」

「そう。じゃぁ、またね」

渕裏葉君と別れる。すぐに別の声がかかった。

「みおちゃん」

「ささきくん」

「今日も桜を見てるの?」

「うん」

花宴(はなうたげ)ささきくん。同じクラスの図書委員。お互い本好きで何かと話が合う。

ささきくんはよく気使って話しかけてくれる。彼もまた成績優秀者で渕裏葉くんといつも上位を争ってる。うん、私の周りはとても勉強できる人が揃ってるかも。

「授業、もうすぐだから気を付けてね」

「うん、ありがとう」

ささきくんと別れてすぐ、立て続けに声をかけられた。

「みおうちゃーん!!」

「あ、せんぱ」

「おはよう!元気?!俺はこの通り」

「元気そうでなによりです」

真木柱愁(まきばしらしゅう)先輩。学年1つ上で、私の入学当時、ちょっとしたところを助けてもらってから、毎日こんな感じ。いつも元気で、大抵走ってここまできてるみたい。

「この前の話がまだ途中だったよね?!これから面白くなるとこだったのに残念だったよ」

「あの魔法植物の?」

「そうそう!なんだけど、うさぎちゃんの課題がハードでさ…。ちょっと今日頑張らないときついんだ……その話、課題終わってからでもいい?」

「大丈夫ですよ。天元(あまもと)先生の課題、難しいのばかりですもんね」

「そうなんだよ!でも大丈夫、今回俺の得意な分野だし、今日中に目処つけられるから!」

「わかりました。楽しみにしてますね」

「みおうちゃん…!俺、頑張るからー!」

先輩は相変わらず元気よく走って去って行った。先輩といると元気が出てくるから、会えると嬉しい。

よし、そろそろ時間だし、教室に戻ろう。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「授業始めるよー」

今日の授業は天元卯夢(あまもとうさき)先生。男女問わず人気の高い先生ですごい美人さん。

天元先生の授業はわかりやすいし、おもしろいし、中には人じゃないとか噂もあるぐらい…先生はそれを聞いて笑っていたけど。

「あ、今日課題だすよ。魔法生物・聖獣の発生源の推測と過程について、5ページレポート~1週間後で」

「1週間て短くね?!」

「聖獣って超難易度高いじゃん!」

「調べれば書ける。まぁ、ちょっと難しい文献にしかないかもねぇ…」

「俺ら読めんの?!」

「古代語で書かれていたら、それもまた勉強だね」

笑顔満面の天元先生に、悲鳴を上げるクラス一同。いつものことだけど、先生、本当難しい課題を出すのが好きみたい。

聖獣にも種類は結構あるだろうけど、古代語読める学生、この学校にいるのかなぁ…。辞書は視たことある気がするけど…実際習うとしたら魔法大学院に入らないと深く学べないんじゃ…。

「まぁ、頑張れ!可愛い学生諸君は勉学に泣かされ…もとい、励むといい!」

楽しそうに先生は教室を後にした。


んー、どうしようかなぁ。

「八弥さん」

「渕裏葉くん」

「どうしたの?難しい顔してたけど」

「天元先生の課題がまた難しいのだったの」

「あぁ…天元先生はいつも容赦ないからね」

「渕裏葉くんのとこは課題出てないの?」

「天元先生の授業は明日だから、その時かな。どんな課題だったの?」

「魔法生物の聖獣の…発生源の推測と過程、だったかな」

「…それなら、確か図書館にちょうどいい本があったよ」

「え、本当?!」

「最近出版された本で読みやすかったんだ」

「それ、タイトルなんていうの!?」


私は渕裏葉くんから本のタイトルをきいて、すぐに図書館に行くことにした。

日が経つと皆が図書館で本を借りていくからレポート書くのが難しくなるし、渕裏葉くんも図書館に行くといいってすすめてくれたのもあって、今、図書館棟にいる。

「みおちゃん」

「ささきくん」

今日はささきくんの当番だったみたい。

「ウサちゃんの課題?」

「そうそう」

ウサちゃんとは天元先生で、先輩やささきくんは下の名前で先生を呼んでたりする。

先生が気にしないタイプだし、年下の男子からそう言われるといい気分になると自ら言っていた。

「いくつか本は確保しておいたよ」

「本当!?」

ささきくん、本当優しい!と思いつつ、本を物色。

その中で、さっき渕裏葉くんが言っていた本があった。

「これ借りてもいい?」

「うん。それ、ざっと読んだけど、すごく分かりやすいと思う。読んだら次貸してね?」

「もちろん!」

そうしてさくっと目的の本をゲットできた。

それだけで終わるのもと思って他の本も物色する。


この学校の図書館の蔵書数は近隣の高校の中でも1番で、1日いてもきっと飽きないと思う。

それぐらいおもしろい本がたくさんある。

本を手にとっては戻してみたり、少し立ち読んでみたりしている時だった。

すっと影が差した。

ちょうど私は大きな窓の傍にいて。

(あれ?影?もうとっくに日が暮れているのに…?)

そう思って、ふと窓の外を見やる。

瞬間、息をのんだ。

夜空にある光がどこにもない。

文字通り、窓の外の向こうは真っ暗だった。




毎週日曜更新予定です。

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