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何とも言えない空気のまま、生徒会長の顔が間近に迫る。

誰でも良いから助けてくれ……!

そう思った時だった。


「あ。はる様といおりんがちゅーしてる」

「本当だ、ちゅーしてる」


突然、ソファの背もたれ側から聞き慣れた声が聞こえて、俺はビクッと肩を揺らして仰け反った。

冷や汗を掻いて声の方を向くと、背もたれに両手をちょこんと乗せて、顔の上半分だけを出したハトリ先輩とユズキ先輩がジッと俺達を観察していた。


「あ……ハトリ先輩、と、ユズキ先輩……」


一瞬の静寂の後、俺がそう声を掛けると同時にパタパタと小走りでソファの前へやってくる。そんな双子を見ていた生徒会長が、小さく溜息を吐いて俺から離れていった。

ホッ、なんか良く分からないけど助かった……!


「……ハトリ、ユズキ。いつから居たの?」

「今来た」

「今来た。ほんとだよ」

「生徒会室に入る時はどうするんだっけ?」

「ノックする」

「ノックして失礼します、する」


ハイ!と手を上げる双子に優しく諭す会長。

相変わらず小学校の先生と生徒にしか見えない。


「次からはちゃんとノックしなきゃダメだよ?」

「はーい。ごめんなさい」

「はーい、ごめんねはる様」


仕方ないな、と会長が諦めて話が収まったようだ。

すると、またも生徒会室の扉が勢いよく開かれる。


「やっほー! て、あれ。もう全員揃ってる」

「……失礼します」


沙雪先輩と天逢坂だ。

元気一杯の先輩とは裏腹にゲッソリやつれている天逢坂。大方、先輩のハイテンションに付いて行けず、対応に困っているんだろう。

ていうかどうでも良いけど、本当に皆ノックしないな!?


「沙雪、丁度良かった。ハトリとユズキも来たばかりでね。今紅茶を入れようと思ってたんだ」

「あ、それなら私が入れてくるよ! 今日ロールケーキも持って来たから」


手に持っていた紙袋からロールケーキの箱を取り出す。勿論、箱に書いてあるロゴは沙雪先輩の家のものだ。


「それなら私も手伝います」

「本当? じゃあ、お皿だけ運んでもらっても良い?」

「はい!」


ソファから立ち上がり、沙雪先輩と隣の部屋へ向かう。

棚からお皿とフォークを取り出して、お盆に並べた。


「先に行ってていいよ! 紅茶入れたらすぐに行くから」


俺は「はい」と返事をし、お盆を手に持って戻る。

すると、何故か生徒会室の空気が重たい。


「(え?)」


何この雰囲気。生徒会長は笑顔を浮かべてるけど、どことなくピリピリしている気がするし、天逢坂は言わずもがなだ。

仏頂面を隠そうともせず、そっぽ向いている。

双子は窓の外に居るスズメを見てはしゃいでいた。


凄くカオスだ……!

俺はチラチラと様子を伺いながらテーブルにお盆を置いて皿を並べる。

一瞬天逢坂と目が合って思い切り逸らしてしまった。


「おい」

「は、はい!?」


スルーしてくれなかったか。

ソファから長い脚を投げ出した天逢坂が、腕を組みながら俺を見ている。


「先日の体育祭だが……今回は少し油断しただけで、本来なら俺が負けるなんて絶対無いからな。来年は覚悟しておけ」


フンと鼻を鳴らして偉そうに言う天逢坂。

てっきりその話題はタブーだと思ってたけど、まさか天逢坂の方から切り出してくるとはな……。

まあ実際、制限なく天逢坂が競技に出場していたらどうなってたか分からないし、言い分はもっともだと思う。

だけど、わざわざ俺に宣言することでも無いだろうに。よっぽど悔しかったのか?


「ええ。天逢坂さんがとても凄いことは見て理解しました」

「お前のことだ。腹の中じゃ何言ってるか分からんからな」


ギクリ。

いや、そりゃあ普段は天逢坂のこと心で弄り倒してるけど。

あのリレーに関しては、そんな事微塵も思っちゃいない。それどころかあれでかなり見直したし……。


「そ、そんな……ふふふ」

「前から思ってたが、何となく怪しいんだよなお前」


怪訝な眼差しで見つめられる。ヤバイ、天逢坂の野生の勘が働いている……!


「こらこら、天逢坂くん。あんまりお姫様を苛めないで貰えるかな?」


急に割って入ってきた生徒会長が、ニコニコと天逢坂を嗜める。

……でも。やっぱり少し、態度が変な気がする。


「別に苛めてませんよ。なあ、西原」

「え!?」

「そうかな? 凄く困っているようだったけど。ね、西原さん」


え?

ちょっと待って、俺を挟んで両隣が何故かバチバチやってる!

天逢坂もムッとした表情だし、会長は笑ってるけど空気が冷たいし!

この場をどうにかして鎮めなければ……!


「あ、あの。天逢坂さんの言うことは本当です。私は大丈夫ですから、お気遣いありがとうございます」


慌てて弁解する。

決して天逢坂を助ける為じゃない。単純に俺がこの空気に耐えられないだけだ!


「……プリンセスがそう言うなら、納得しておこうかな」


随分含みのある言い方だったけど、一応収めてくれたようだ。

それにしても、会長があんなに感情を剥きだすのは初めてじゃないだろうか?

いつもは何考えてるか全く分からないし。

俺は断然、こっちの会長の方が人間味あって好きだけど!

天逢坂はまだ腑に落ちない顔をしていたけど、これ以上話をややこしくされたら困るのでスルーしとこう。

……毎回こんな空気になるのは勘弁して貰いたい。これから先が思いやられるな……。

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