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体育祭も無事に終わり、俺達には平穏な日常が戻っていた。
……と思いたい。
「どうしたの?そんなに縮こまって」
「イエ、ナンデモアリマセン」
……どうしてこうなった?
俺は今、生徒会室で貴公子と二人きりです。
ああ~……早くHR終わったからってさっさと生徒会室に来たのが間違いだった。いつもならとっくに双子が来てる時間だから油断してた。
「さ、紅茶が入ったよ。今日はスリランカ原産のディンブラにしてみたんだ。お姫様の口に合うかな?」
「あ……有難うございます。戴きます」
俺は丁寧に頭を下げる。
カップから紅茶のいい香りが漂ってきて、少しだけ体の緊張が和らいだ。
「初めての天逢学園体育祭は、楽しかった?」
そんな俺の様子を察したのか、生徒会長は笑顔で尋ねてくる。
体育祭ね。最初は物凄く憂鬱だったけど、でも……。
「はい、想像よりも凄く楽しかったです。特に最後の選抜リレーは応援に熱が籠ってしまいました」
この言葉に偽りは無かった。
正直、最初は本当に惰性というか、ハイハイ体育祭ね、皆頑張ってくらいの気持ちだったんだけど。
いざ参加してみれば、どの競技も凄く白熱して……今では体育祭に出て良かったと、心の底から思える。
「ふふ。そう言って貰えると出た甲斐が有るね」
人当たりの良さそうな笑顔で言う生徒会長の心は相変わらず読めないが……。
あの選抜リレーでの天逢坂と会長の一騎討ち。あれは格好良かったな……今思い出しても震える程の戦いだった。
それで思い出したけど、俺生徒会長に聞きたい事があるんだった。
「一つ質問宜しいですか?」
「うん。どうぞ」
「生徒会長は何故、リレー以外の競技に出場しなかったんですか」
素朴な疑問だった。
だって勿体ないじゃないか、あんなに足速いのに他の競技に出ないなんて。
それに、クラスの子達も『生徒会長はとても足がお速いのに、去年も玉入れや借り物競争みたいな足の速さは関係無い競技にしか出場してらっしゃらなかったのよね~』とか何とか言っていたから、気になって聞いてみようと思ってたんだ。
「僕は生徒会としてやらなきゃならない事が沢山あったからね。簡単に競技を選べないんだ」
「それは、去年までの種目選びと同じ理由ですか?」
「おや、そこまで知ってるんだ?んー…そうだなあ。理由があるとすれば……」
上を向いて考え込む生徒会長。
「……諸先輩方を差し置いて、大きな顔をする訳にはいかないってところかな。どう? 納得してくれた?」
俺は思わず目が点になる。
文字通り、晴れ舞台は最後まで取っておいたって意味だよな?
それがマジの理由なら、この人本当に食えないぞ……!
エスカレータ式なのに高校三年まで暖めるか?普通。
「ふふ。鳩が豆鉄砲食らったような顔してるね」
「えっ、いや、その……本当に驚いてしまって」
「天逢坂君くらい余裕があれば、僕も色んな競技に出場してたかもね」
そんなあからさまな嘘つくなよ、自信たっぷりだった癖に!
「そうだ。天逢坂君の調子はどう?」
「私は直接関わってないので、聞いた話ですけど……まあ、その」
「荒れてた?」
「勿論荒れてたのもあるんですが……どうもそれだけじゃないみたいで」
雫ちゃんからの又聞きでしかないが、あのリレーの後の天逢坂は兎に角酷かったそうだ。
負けて悔しい気持ちと、新たなライバルが現れたという嬉しい気持ちがせめぎ合って、しばらくは手が付けられなかったらしい。
面倒な奴だけど、あれくらい運動神経が良いとそういうもんなのかな?天逢坂と張り合えるのなんて生徒会長くらいだろうし。
「まあ、たまには負けてみるのも経験だからね」
負かした側が言うセリフでは無いだろうと思ったけど、至極尤もだな。
一回くらい負けたって、俺達一年生はまた体育祭が来る。あ。でも、それだと生徒会長に負けっぱなしって事か……。来年は三年生居ないもんな。もしかして、天逢坂が荒れてたのはその理由もあるのかも。
「そうだ。実は前から聞いておきたいことがあったんだけど。僕からもプリンセスに一つ質問していいかな?」
体育祭の話題から、唐突に俺への質問コーナーになった。
まあ、答えられる範囲なら別段問題無いけど……。
「はい、私が答えられる質問でしたら」
「ありがとう」
すると、生徒会長は突然座っていた椅子から立ち上がり、何故か俺のソファの横に腰を沈めた。
えっ。
質問するだけなのどうして隣に来る必要が……?
俺は不自然にキョロキョロ視線を動かしたが、生徒会長は構わず話を始めた。
「生徒会に選ばれて、約一か月以上が立った訳なんだけど……どう?周りで何か変な事が起きたりしてない?」
ぐっと顔を近づけて、真剣な目で俺を見る。
真っ直ぐ俺を捉えた瞳は、一点を見つめて動かない。
流石に緊張するんだけど……!
「え、と」
「どんな小さい事でも良いんだ。何かあったのなら全部話して欲しい」
そう言われてハッと思い出す。雫ちゃんの一件だ。
だが、あれは俺が生徒会に選ばれた事と関係があるとは言い切れない。直接被害を受けたのは雫ちゃんだし。
ウーン、と悩む。
そんな俺を見ていた生徒会長がおもむろに腕を伸ばし、俺の頬を優しく手のひらで包んだ。
……エッ。
待って待って待って! 近い、近すぎる!
吐息すらかかりそうな距離。しかもめっちゃいい香りがするんだけど、ナニコレ!?
「……君が心配なんだ。些細な出来事でも良いから、僕に教えてくれないかな?」
眉をハの字にして心配そうに呟く。
……ちょっと待て。
今の台詞。ゲームの中で、雫ちゃんと生徒会長がイベントで話す会話じゃなかったか!?
確かあれは、雫ちゃんと生徒会長の親密度が上がって、女子生徒からやっかまれた時の。
何でその台詞を伊織に……? 一体どうなってるんだ?
いや。今はそんな事を気にしている場合ではないな。
ほぼ目の前に生徒会長の顔があって、全く集中できない。相変わらず直視出来ない俺は、あっちこっちに視線を泳がせながら、時折生徒会長の顔をチラ見する
めっちゃ近いのに毛穴とか全然見えないんだけど? まじで美しすぎて死にそう!
「聞いてる?」
「き、聞いてますっ!」
「それなら、ちゃんと答えられるよね?」
生徒会長の柔らかそうな睫毛に縁取られた瞳が間近に迫る。
物凄く真剣なのは分かるんですけど、これじゃあ考えが纏まらないんですってば……!
だ、誰か助けて…!




