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雫ちゃんと昼食を食べた後、鷹司に言われた通りクラスへ向かう。
その途中天逢坂にバッタリ遭遇してしまった。
「おい」
「(うわ、タイミング悪っ)こんにちは、天逢坂さん」
内心悪態を吐きながらも笑顔で対応する。わざわざ呼び止めてくるなんて珍しいな……。
「お前、雫に選ばれたからって良い気になるなよ?」
「選ばれた……?」
なんのこっちゃと一瞬考えたが、すぐにあの借り物競争の事だと気づく。
いや、どれだけ根に持ってんだよ。
「何の事でしょう?」
俺は敢えて知らばっくれる事にした。だって深く掘り下げると面倒だし。
「……」
天逢坂は諦めたような顔でわざとらしい溜息を吐いた。
小馬鹿にしてるのがヒシヒシと伝わってくるぞ~この野郎~。
「……もういい。だが、これだけは言っておく。俺はお前のチームには絶対負けない。生徒会のよしみだとか、そんなのは全て抜きにして負かすから、覚悟していろ」
「はあ……」
何でいきなり宣戦布告?天逢坂が本気出すのなんて知ってるってば。
「今年から、出れる競技が限られてしまったからな。午後からは全力で勝たせてもらう」
確かに、あれだけ天逢坂の話題は出ていたけど午前中の種目には一つも出場していなかったな。
限られてるって……一体何故だろう。
「何故出場に制限が? クラスごとに決まりでもあるのですか?」
単純に気になってつい尋ねてしまったが、目の前の男は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「……去年あまりにもやりすぎて、父からストップが掛かった」
……去年、って。沙雪先輩達も話してた、あの負かした挙句に3年生を泣かせたってやつ?
もしかしてそれのせいで今年は理事長直々に息子にストップ掛けたって事!?
うわーーーー!そんなの面白すぎるだろ!!?
「…………それはそれは。とても残念ですね」
「お前、今物凄く失礼なこと考えてるだろ」
そんな、失礼だなんて滅相も無い!
まさか天下の天逢坂昴ともあろう人が、父親に言われて競技にほとんど出られないだなんて、そんなの面白すぎて腹がよじれそうだとか一ミリも思っていませんよ!
「……まあいい。生徒会長と同じチームだか何だか知らんが、お前のチームは必ず負かす。覚悟しとけ」
そう言って偉そうに歩いて行った天逢坂は、少しご立腹の様子だった。
雫ちゃんに選ばれなかったくらいであんなに怒る事無いのに。俺、中身は男だけど一応外見は女じゃん。
それに、あの場面で雫ちゃんが天逢坂を連れてったら全校生徒(主に女子)が大パニックになるだろ。それくらい分かれ。
俺も段々腹が立ってきて俄然やる気が出てきた。
二人三脚しか出ないけど、絶対青には負けるもんか。
そうしてついに午後のプログラムが始まった。
段々と出場時間が迫ってくる。ああ、何だか緊張してきた。
あの後教室に行った俺は鷹司と合流して何度か練習をした。即席にしてはまあまあ息も合ってたし、悪くない組み合わせだと思う。
ドキドキする気持ちを押さえつけ、午後最初の競技である騎馬戦を観戦することにした。
「天逢坂様ーーー!!!」
そして、この競技からやっとあの天逢坂が出場するらしい。
どのチームからも一定数の声援が聞こえる。やっぱり人気者なんだな、あいつ。
青チームからは部長も参戦している。今にも死にそうな顔してるけど、大丈夫かな?
そして白チームからは花ちゃん先輩。相変わらずぴょんぴょん飛び跳ねて元気そうだ。
「それでは、よーい……スタート!」
合図と同時に天逢坂の騎馬が物凄い速さで飛び出した。当たり前だが騎手は勿論、天逢坂。
奴の手によって次々にハチマキが抜かれていく。すげえ、早すぎて手の動きが目で追えない。
「やっぱり今年もすげえな……」
「ああ。騎馬の方も気合入ってるぞ」
クラスメイト達が口々に話す。確かにあの速さはとんでもないな。
そんな風に感心していると、天逢坂が無双しまくったのかあっという間に騎馬は4体に減っていた。
「(黄色チームが一体、残りは天逢坂の騎馬と部長の騎馬。それと花ちゃん先輩の騎馬だけか)」
俺のチームである黄色の騎馬は、天逢坂と部長の騎馬に囲まれてまさに蛇に睨まれた蛙状態。動く事すらできなくなっていた。
「(オイオイ……どうすんだよこの状況)」
手に汗握る展開。思わず前のめりで観戦していると、花ちゃん先輩の騎馬が動いた。
「(あっ)」
部長の騎馬の後ろから近づいて、騎手のハチマキをするりと奪い取る。鮮やかな手捌きだった。
そのハチマキを見せつけるように手を高々と上げる。うおお、花ちゃん先輩も凄い!!
部長は悔しい半分、安心半分といった表情をしていた。
これで残りの騎馬は3体。どうなるんだこの勝負!
天逢坂は、まるで後ろにも目が付いているかのような気迫で2体の騎馬の間で好機を伺っている。
ジャリ、と黄色のチームの足が少しだけ動いた瞬間だった。
「きゃー! 天逢坂様ーーー!!」
「頑張れー!!」
物凄い速さで天逢坂の騎馬が移動した瞬間、黄色チームのハチマキは既に天逢坂の手元にあった。
「(今の動きに反応出来る奴居るのかよ!?)」
まるで漫画みたいに素早い動きだった。
その光景を見た生徒達の歓喜やら興奮やらが混じった声がそこら中から聞こえてくる。
黄色チームが負けたってのに、俺の周囲からも同じような声援が。良いのかそれで……?
残念そうに騎馬を解体する黄色の横で、花ちゃん先輩と天逢坂が睨み合っている。コソコソ2人で話をしているみたいだけど………?
すると、急に天逢坂が動き出して一瞬のうちに花ちゃん先輩の頭に手が伸ばされた。
「(ああ……)」
結果、天逢坂の一人勝ち。取ったハチマキは参加していた騎馬のほとんどだった。
「(惜しかったなあ、花ちゃん先輩)」
俺は少し残念がったが、なんと花ちゃん先輩の取ったハチマキの本数は天逢坂の次に多かった!
やるな、先輩。当の本人はにゃははと笑って白チームに戻って行ったけど。
「(よし。そろそろ俺も準備しよう)」
騎馬戦が終われば、次は俺の出場する二人三脚が始まる。
椅子から腰を上げると同じタイミングで鷹司も立ち上がった。
俺達は目を合わせる。
「西原さん。全力で行きますわよ」
「はい。鷹司さん!」
そう言って頷き、俺達はレーンへ向かった。
二人三脚は男子女子合同で走る。俺と鷹司は足を紐で縛られながら話をしていた。
「西原さん。貴女、あまり運動が得意で無いでしょう?」
「えっ」
「私が出来る限りそちらに合わせますから。急くような真似は止めて下さいね。怪我なんてされたら後味悪いですから」
言葉はキツイがどうも気遣ってくれているみたいだった。何だかんだで優しいんだよな。
「お気遣い有難うございます。ですが、出るからには勝ちを目指したいので。少しだけ無理はさせて下さい」
最初は思い出作り、なんて言ってたけど……天逢坂から直々に負けないと宣戦布告された瞬間から、俺の闘争心に火が付いた。だから簡単に負ける訳には行かない。
勿論無茶な事を言っている自覚はある。だけど、何となく鷹司なら許してくれる気がして……。
「……はぁ、仕方ありませんわね。どうせ言っても聞かないでしょうし。くれぐれも怪我だけはしないようにお願いしますわ」
大きな溜息を吐きながらもやっぱり許してくれた。
わざわざ鷹司にまで出場して貰うんだ。それなら自分の全力は尽くしたい。
「さて。準備は整いましたし、そろそろ並びますわよ。いいこと? 出す足は私が先ですわよ」
「肝に銘じております!」
コースへと並ぶ。
緊張してきた。なんせ体育祭なんて何年ぶりのことだ。
「よーーい、スタート!」
鷹司は合図と共に足を出す。その後に続いて俺も一歩進む。出だしは好調だった。
「響様ー! 頑張って下さいー!」
「響様ーー!」
相変わらず鷹司への声援は凄い。クソ、分かっちゃいたけど羨ましいなチクショウ!
どうせ俺への応援なんて誰も……
「伊織ちゃーん! 頑張ってー! 応援してるよー!」
「(雫ちゃん!?)」
卑屈になっていたけど、雫ちゃんが俺の名前を呼んで応援してくれている!
嬉しい、嬉しいよ雫ちゃん! 有難う!
歓喜に浸っているとそれを皮切りにいろんな場所から俺への声援が飛んできた。
「いおりーん、頑張ってー! 負けるなー!」
「伊織さん! 応援していますよ!」
「伊織ちゃん! ダッシュしろー!」
沙雪先輩や、桜子ちゃん、花ちゃん先輩まで次々に声を掛けてくれる。
あまりの嬉しさに、俺はちょっと涙が出そうになる。25歳にもなると段々涙腺が緩くなるんだよ!
俺はその声に応えるよう必死に足を動かす。隣の鷹司も俺に合わせてくれていた。
そのお陰か俺達は一番にUターン場所へ到着しそうだった。
「(このまま行けば、俺達が一番だ!)」
人生で、こんなに嬉しい事がかつてあっただろうか。いや、無い。
喜びながらUターンしようとしたその時、俺達の横を誰かが物凄い速さで走り抜けていった。
「……え?」
俺と鷹司がポカンと口を開ける。そこに居たのは……。
「ハトリ、遅れてる。もっと頑張って」
「ユズキこそ、もっと早く」
ダダダダッと砂ぼこりを上げながら、目にも留まらぬ速さで紫色のハチマキを着けたハトリ先輩とユズキ先輩が通り過ぎていく。
……はい? あんなのチートですよね?
その瞬間、生徒会長から言われた言葉がふと頭を過った。
『凄いものが見れるから、楽しみにしておくと良いよ』
凄いもの……って、まさかこれの事かよ!?
設営テントに居る生徒会長に慌てて視線を送ると、笑いを堪えているのか口元を押さえながら俯いていた。
こ、こんにゃろー! やっぱりコレの事じゃねーか!
唖然とする俺達を置いて、さっさとゴールに向かう先輩達にハッとした俺と鷹司は、急いでUターン場所に向かう。
結果俺と鷹司コンビは2位でゴールとなった。
「あ、あんなの勝てっこありませんわ……」
「2位でゴール出来ただけでも、ば、万々歳ですよね……」
息を切らしながらお互いを慰め合う。すると、笑顔の生徒会長が近づいてきた。
「残念だったね、西原さん。でも面白かったでしょ?」
「あんなのは、望んでませんでしたけどね……」
俺はガックリ肩を落としたのだった。




