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体育祭当日。
「これより、天逢学園体育祭を開催致します」
全校生徒が各クラスごとに列を成して、開会式を行う。
学校全体が体育祭ムード一色、浮かれ気分だ。
生徒会長が開会の挨拶を終えると、三年生の男女ペアが宣誓を行う為生徒の前に立った。
「宣誓!」
そう叫んだ女生徒の方は、俺も良く知っている沙雪先輩だった。
見るからに運動出来そうな見た目だもんな。青いハチマキが良くお似合いです。
真剣に前を向いてると、教員の列に並んだ生徒会長とバッチリ目が合ってしまった。
「(ゲッ、)」
生徒会長はこれでもかと言わんばかりのスマイルを俺に向ける。すると、その笑顔を見た周りの生徒達が一瞬ザワついた。
皆自分に笑いかけられたと思っているらしい。おいおい、アイドルのコンサートじゃないんだぞ?
生徒会長は相変わらず俺を見て笑っていた。
頭には黄色のハチマキ。そして、同じように俺の頭にも黄色のハチマキが巻かれている。
……はい。どういう訳か、俺と生徒会長は同じ黄色チームでした。
はあ、また俺の心労が増えちゃう予感……。
「それでは、各チームごとに応援席に集まってください」
放送が入ると、クラスごとチームの場所に移動を始める。
生徒会長と同じチームだからか、クラスメイトの女子達が色めき立っているような気がして、俺は物凄く不安だった。
けどまあ、生徒会長は設営テントからほとんど離れないだろうし、考え過ぎも良くないよな。
「西原さん。今日は練習の成果を出しましょうね」
「はい、足を引っ張らないように頑張ります」
結城さんがコッソリ声を掛けてくれた。あの競技決めの後、何度か体育の時間に練習をしたのでそこそこ仲は良好だ。
「やっほー! いおりん。今日は頑張ろうねー!」
今度は沙雪先輩が。違うチームだけど、大丈夫かな?
「チームは別ですけど、応援しますね」
「こらこら、プリンセス。迂闊に応援してはいけないよ。沙雪が本気になっちゃうから」
背後から生徒会長が近づいていたことに、全く気が付かなかった。
頼むから気配を殺さずに来てはくれないだろうか?
目立つ人達に囲まれて、俺は物凄く居た堪れない気持ちになる。同じチームの子達からグサグサ視線が突き刺さるよー!目立ちたくないのに!
「それに、沙雪のチームには天逢坂君が居るんだよ?2人がタッグを組んだら、簡単には倒されてくれないだろうね」
「ははーん、さては春樹、ビビッてるなあ~?」
「ふふ、さあ? どうかな」
そうだった……!
沙雪先輩と天逢坂は同じ青チーム。運動神経抜群の2人が居る青チームは、今年の優勝候補になっているらしい。
「天逢坂君は余裕そうだね」
チラッと青の応援席を見ると、赤色のハチマキをした雫ちゃんを呼びつけて、何やらちょっかいを出している天逢坂が見えた。
ハチマキを巻いた雫ちゃんは今日も可愛いな〜。
「流石の貫禄って感じですね」
「もう体育祭には十分慣れているだろうね。去年はほとんど一人勝ち状態だったから」
「3年の先輩、泣いてる人も居たよね」
泣かす程だったのかよ! 本当に空気読んでやれ天逢坂。
「じゃあ私はそろそろ戻ろっかな。負けないからね、2人とも!」
「はい、また」
手を振って戻る沙雪先輩を見送る。
「プリンセスは、二人三脚に出場するんだよね?」
「ひ、は、はい!」
また急に話しかけられて、思わず肩が跳ねた。
生徒会長の一挙一動は心臓に悪い。
「凄いものが見れるから、楽しみにしておくと良いよ」
「凄いもの……って一体……?」
言いかけた瞬間、俺の口に生徒会長の人差し指が当てられて、つい固まってしまった。
「それは後のお楽しみ、だよ。それじゃあ僕もテントに戻るね」
背後に大輪の花が咲いたような笑みを俺に向けた後、くるりと踵を返し優雅に歩いて行く生徒会長。俺はその姿を呆然と見つめる。ていうかわざわざ話し掛けに来ただけかよ!
呆気に取られていると、周りから「きゃあああ!」と声が上がった。
「ねえ、西原さん! 生徒会長っていつもあんな感じなの?」
「羨ましいですわ~! なんて素敵なのかしら」
話した事も無いクラスの女の子達が、ワラワラと集まってくる。
あー、だから目立ちたくなかったのに!!
「あ、あの……私もそこまで深い仲では……」
「生徒会長の好きな物とか、ご存知ないかしら?」
「それ私も知りたいです!」
本当に知らん! まじで! あの距離感の無さは別に俺だけじゃないですし!
きゃいきゃいと口々に質問してくる女の子達に圧倒されていると、ふいに俺を呼ぶ声が聞こえた。
「伊織さん、先生が呼んでいますよ!」
「っはい、すぐに行きます!……申し訳ありません、みなさん。その話はまた後日という事で」
返事も聞かず、半ば無理やりその輪から抜けると後ろから「残念ですわ」とか「知りたかった」とかチラホラ聞こえて来た。女子って怖いな……今まで話した事も無いクラスメイトに、男の話を聞くためガンガン詰め寄ってくるとは。
変な悪寒を感じながら、俺は声を掛けてくれた女の子の元へ向かう。その相手は……
「桜子さん!」
「あ、えと……大丈夫でしたか?」
眉をハの字に下げた桜子ちゃんだった。
「もしかして、わざと呼んでくれました?」
「はい。余計なお世話だったらすみません……。とても困ってらっしゃる様子だったので」
なんて機転の利く良い子なんだ!!
「本当に助かりました。有難うございます」
「エヘヘ、力になれたなら良かったです」
もじもじと頬を赤らめる桜子ちゃんに、俺もつい破顔する。
そんな桜子ちゃんの頭には、白色のハチマキが巻かれていた。
「桜子さんは白チームなんですね」
「はい。伊織さんと同じ部活の方もいらっしゃいますよ」
あの方です、と言って白チームを見ると、何故かこっちを見てた花ちゃん先輩が手を振っていた。
俺も小さく手を振り返す。
「良く知っていましたね、同じ部活だと」
「卓上旅行研究部は有名ですから」
え、そうなの?
どういう意味で有名なのかは、何となく聞きたくない。
「そういえば、桜子さんはどの競技に出場するんですか?」
「玉入れです。足、あまり速く無いので……」
ほほう、玉入れか。うちのクラスからは鷹司達が出るって言ってたっけ。
「そうですか、ケガしないように頑張って下さいね」
「はい。あ、そろそろ戻りますね! 伊織さんも頑張って下さい」
タタタッと小走りでチームに戻る桜子ちゃん。
俺は一応先生に呼ばれた体だったので、テントに向かって隠蔽工作してからチームに戻った。
最初の競技は、玉入れからだ。
「響様ー!! 頑張って下さいー!!」
うちのクラスからは、鷹司と親衛隊の子が数人出場する。鷹司達は、自信満々に肩で風を切りながら出場者が集まるレーンに歩いて行った。
そして何故か、違うチームからも鷹司への声援が聞こえてくる。多分他のクラスに居る親衛隊だろうけど……良いのかそれで?
髪を手で払い、その声援に手を振る鷹司。俺も同じクラスだし、一応応援はしてるよ。
「それでは、よーい……スタート!」
パァン!とピストルが鳴ると同時に、地面の玉を拾って籠に投げる。
初戦は、赤チーム対白チーム。って、白には桜子ちゃんが出場しているじゃないか!
白チームの玉入れの様子は……あっ、桜子ちゃんが一生懸命背を伸ばして玉入れをする姿が!
なんて可愛らしいんだ……ぴょんぴょん跳ねる桜子ちゃんを慈愛に満ちた目で見つめる。
頑張ってくれ!
終わりのピストルが鳴り、籠に入った玉を数えると……。
白チームの方が、赤チームより3つ多かった。
「(うおおお! 桜子ちゃんのチームが勝った!)」
俺は心の中で盛大な拍手を送った。
桜子ちゃんに対しては、何となく親目線になっちゃうんだよなあ。
喜んで居ると、すぐに次の対戦が始まる。
黄色チーム対緑チーム。鷹司、絶対勝ってくれよ!
「響様ー!!」
「鷹司さん頑張ってー!」
同じクラスの子達がガンガン声を出している。お金持ち学校でも体育祭ではかなり燃えるらしい。
声援を受ける鷹司は……。
「(おお?! 結構本気じゃん)」
鷹司は勢いよく玉を投げ入れていた。そして意外にも命中率は高い。
取り巻きの女の子達が玉を拾って、鷹司に渡す戦法のようだ。
ポンポンと簡単そうに玉を入れていく。運動神経は良いみたいだ。
終わりの合図が鳴って、係が玉を数える。
すると、黄色チームは相手チームより10個も数が多かった。
「流石ですわー! 響様ー!」
拍手喝采。本人は当然、と言ったような顔で、髪の毛をサラリと靡かせた。
「(やっぱり実際に会って過ごしてみると、全員印象が変わるな)」
俺の鷹司への株が、益々上がった。




