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とうとう、待ちに待ったこの日がやってきた。
「伊織ちゃん! ごめんね、遅くなっちゃって」
「いいえ、私も今来たところです」
小走りで近付いて来た雫ちゃんにそう答える。
待ち合わせ時刻は10時、今はその丁度5分前だ。
「良かったぁ。ちょっと早めに出たんだけど……」
「ふふ、まだ時間には早いので気にしないで下さい」
俺が勝手に15分前に着いていただけで、雫ちゃんは何も悪く無い。
安心したように笑った雫ちゃんが、俺を見てあっと声を上げた。
「伊織ちゃんのお洋服可愛いね! いつもより大人っぽく見える~!」
「雫さんこそ、可愛らしいワンピースがよくお似合いです」
淡い水色のチェック柄ワンピースを着た雫ちゃんは、そりゃもうすげー可愛い。髪も両サイドで三つ編みなんかしちゃって、普段とのギャップが堪らん。
対する俺は、お嬢様らしく白い丸襟シャツに、ライトパープルの花柄スカート。
クローゼットの中に服が無さすぎて、選択肢は数える程度だった。
というか、お互いの服装を褒め合うなんてまさに女子っぽくない?
「伊織ちゃんとお出かけ出来るなんて、凄く楽しみ!」
「私も、楽しみ過ぎて昨日はよく眠れませんでしたよ」
あはは、と2人顔を見合わせて笑う。
ああ~ほんと可愛いなあ。癒される。
待ち合わせ場所は、互いの家から丁度半分くらいの距離にある大きな公園。その敷地内にある噴水の前に立っていた。
……そう。俺と雫ちゃんは現在、休日を利用して街へ遊びに行くところなのだ!
前に、テストが落ち着いたら2人でどこかへ行きませんか?と雫ちゃんを誘っていたのだが、やっと今日その約束が果たされた。
本当に嬉しい。何たって私服姿の雫ちゃんは滅茶苦茶可愛いし、それに、毎週休みの日は特に用事も無くダラダラと過ごしてしまっていたから、こうして外へ出掛ける機会が出来ただけでもかなり有難い!
……有難い、んだけど……。一つだけ腑に落ちないんだよなあ……。
「おい、何してる。早く行くぞ」
はあ、と心の中で大きな溜息を吐く。
何の因果か、目の前で偉そうに腕を組んでいる男―――――そう。この天逢坂昴も、何故か一緒に出掛けることとなったのだ。
ああ~……どうして一緒に来ちゃったかなあ。
事は一時間程前に遡る。
朝出掛ける支度をしていた俺は、雫ちゃんからの着信に気が付いた。
「もしもし。おはようございます、雫さん」
『オイ西原。今日雫と出掛けるんだってな? 俺も一緒に行くぞ』
「……え? もしかして、天逢坂さんですか?」
『そうだ。他に誰が居る』
いや、誰の携帯から掛けてんだっつの!
「すみません。状況が上手く飲み込めないのですが……」
すると、通話口から「ちょっと昴、返して!」と言う声が聞こえた。
『もしもし、伊織ちゃん!? 急に電話しちゃってごめんね。実はさっき突然昴が来て、今日は伊織ちゃんと約束があるって言ってるのに、自分も一緒に行くって聞かなくて……これからちゃんと言って断るから、昴の言ってる事は気にしないで!』
『人を子供扱いするな』
うぉい!
コイツはどこまで雫ちゃんに迷惑を掛ければ気が済むんだ?!何で女同士の買い物に着いてくるんだよ!
ああ、頭が痛い。
雫ちゃんがどれだけ言って聞かせたところで素直に聞き入れる奴じゃないだろうし……はあ〜。ここは俺が腹を括るしか無いよな……。
「……雫さん、私は全然構いませんので……天逢坂さんも一緒に出掛けましょう。人数は多い方が楽しいですし」
『え、でも……』
「きっと天逢坂さんはどうあっても着いて来るでしょうから」
『……ごめんね、伊織ちゃん。有難う』
―――――そして現在に至る。
ひょっとしたら空気を読んで来ないという可能性も考えたが、この男に限ってそんな筈は無かった。
俺はチラと雫ちゃんの背後に居る天逢坂に目線を送る。
そんな俺を察したのか、雫ちゃんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「伊織ちゃん、今日は本当にごめんね。次からはちゃんと断るから」
「い、いえ。雫さんは何も悪くありませんから」
俺は慌てて笑顔を作る。雫ちゃんが悪くないのは百も承知。諸悪の根源は、俺と雫ちゃんのプリティ女子デートに、ド厚かましい顔で着いてきたこの男だ。
まあ、こうなっては仕方が無い。諦めて今日一日を過ごすしか選択肢は無いだろうな。おそらく雫ちゃんもかなり気にしているだろうから、せめて楽しく過ごせるよう頑張らなければ。
「……全員集まった事ですし、そろそろ行きましょうか」
とりあえず服屋を覗く事にした俺達は、大型ショッピングモールへ足を運んでいた。
「因みに、天逢坂さんはこういった所で買い物はされるんですか?」
「いや。一度も来た事は無いな」
チッ、やっぱりか。金持ちのボンボンめ。
「伊織ちゃんは、普段どういう服装が多いの?」
「そうですね。私はやっぱり、シンプルで落ち着いたコーディネートが好きです。雫さんは今日みたいな可愛らしい服装が多いんですか?」
「実はね私、あんまり服の事よく分からなくて……。いつも友達とか店員さんに選んでもらってるんだ」
「そうなんですか?……それでしたら是非、今日は私に選ばせて貰えませんか?」
「え、良いの? 嬉しいっ、有難う伊織ちゃん!」
「オイ雫。何故今まで俺に相談しなかったんだ」
「え、だって昴は男の子だし……興味無いかなって」
「何故決めつける。相談すれば幾らだって選んでやるぞ。それに、お前に似合う服は俺が一番分かってるだろ?」
……は?コイツはまた何を言い出すんだ?
俺より雫ちゃんに似合う服が分かっているだと?
……舐めて貰っちゃ困る。ここら辺で一度、この思いあがった男の鼻っ柱を叩き折ってやるのもいいかもしれないな。
「では、こうしませんか? 私と天逢坂さんがそれぞれ雫さんに似合うと思う服を選んで、どちらがより雫さんの好みに合うかを決めて貰うというのは」
「え?!」
「……ほう、中々面白い事を言うな。俺より雫の好みを理解してるって言いたいのか?」
よしよし、案の定乗ってきた。
小さい頃から一緒に居て、雫ちゃんの事を理解してるつもりなんだろうが。
フッフッフ。俺にはとっておきの秘策があるのだ。




