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「峰崎先輩、お久しぶりです」
「やあ、こんにちは」
自宅近くの公園で、俺は峰崎先輩と会っていた。
前回の約束通り、先輩にニケを見てもらう為だ。
「ごめんね。休みの日にわざわざ」
「いいえ、特に用事もありませんでしたから」
これは謙遜でも何でも無い。この世界に来てから休日に予定が入らないので、毎週休みはボーッとして過ごしていた。
だから、先輩にこうして誘ってもらえたのはとても有難かった。
「それで……すみません、弟の楓です」
「……初めまして」
俺がニケを連れて散歩に行く、と言ったら何故か楓も着いてきた。別に来るのは構わないけど…本当に公園で逢うだけなのに。
もしかして、俺だけじゃニケをちゃんと扱えないと思ってるのかも?あれから何度も一緒に散歩してるから問題無いと思ったのに……。
「初めまして。よろしくね、楓君」
先輩は特に気にして無さそうだ。
「それで、彼がニケ君?」
「はい。正確に言うとニケちゃん、です」
そう、何とニケは女の子だった。
こんなに大きくてかっこいいから、勝手にオスだと思ってた。
「女の子なんだ。ニケちゃん、こんにちは」
そう言ってしゃがんだ先輩をニケは少しだけ観察した後、差し出された手に擦り寄っていった。
やっぱり犬好きな人は犬も分かるらしい。
「人懐こいね」
「ルイ君と一緒で、ニケも人を選ぶらしいですよ」
そう言って少し遠くでポールに繋がれているルイ君を見た。もしかしたら友達になれるかなと思い、一応ルイ君も連れて来てもらったのだ。
最初から二匹を近くで会わせるのは危険かもしれないと言う事で、今はちょっと距離を置いている。
ルイ君は大人しく座っていた。
「そっか、賢いんだね」
「ニケはそう訓練されてますから」
黙っていたと思ったら、急に楓が話に入ってきた。それは良いけど、何でこの子は毎回敵意剥き出しなの?お兄ちゃ…違うな。お姉ちゃんは君が心配だよ。
「いつもは楓君が散歩しているの?」
「ええ、姉さんは犬が苦手なので」
おおい! お前なんでそれ言っちゃうんだよ?!
ほら、先輩も困惑しちゃってるじゃん! だよね、どう見ても初見が苦手な人の反応じゃなかったもんね!
「ち、違うんです! 可愛いと思ってましたけど、少し怖かっただけで…それもニケを触ってから完全に克服しましたから!」
疑惑の眼差しに必死に弁解する。そんな簡単に克服できるのかよ、という突っ込みは無しにして頂きたい。
先輩は「そうだったんだ」と苦笑していた。
すると、タイミング良くルイ君がクンクンと鼻を鳴らし始めた。
「ルイ、寂しくなっちゃった?」
「そ、そろそろルイ君も仲間に入りたいですよね」
ナイスだルイきゅん! 何とか誤魔化せたようで助かった。
先輩はルイ君のリードをポールから優しく外し、こちらへ向かってくる。
ニケもそれを見て耳を立てると、ゆっくり近づいて行った。
お互いの鼻が付くくらいの距離まで来ると、フンフンと興味津々に匂いを嗅ぎ合っている。どちらもまだ少し警戒してるみたいだけど、敵意は感じなかった。
すると、ルイ君が急に伏せの形を取って、腰だけを上げる体勢になる。
「あ、ルイが遊びに誘ってるね」
ニケを上目遣いで見ながら、尻尾をフリフリするルイ君。それに応える様にニケも体勢を低くした。
良かった、相性は悪くないみたいだ。
そんな様子を微笑ましく見守っていると、峰崎先輩が口を開いた。
「西原さんが良ければ、今度ドッグランでも行ってみない? そこなら首輪外して遊べるだろうから」
そこそこ広くて、時間帯によっては利用者も少ないドッグランが近くにあるらしい。遊ばせるのにとても良さそうだ。
「是非行きたいです!」
二匹がジャレ合う姿が見れるなら、どこへでも参りますとも!
可愛いだろうな~。今度二匹のおもちゃでも買いに行ってみよっと。
「楓君も、勿論来てくれるよね?」
「え? 何故楓も…?」
「あれ? ニケちゃんの面倒はほとんど楓君が見ているんじゃないの? 違った?」
んん? 確かにニケの世話は楓がしてるけど…そんな話したっけ?
「ごめん、ニケちゃんがずっと楓君を気にしてるから。てっきりそうなのかと」
「…この短時間でそんな事まで分かったんですか?」
俺も楓も目を見合わせて驚いた。
「何となく周りを警戒してるというか、楓君を守ってるような素振りだったから…ってこれじゃ理由にならないか。ほとんど勘だね」
はは、と先輩が笑う。
この人、柔らかそうな雰囲気なのに観察力が鋭い。
確かにニケは楓を守るように躾けられているし、厳しい訓練もされてる。だけど、それはあくまで言われて気が付くレベルで、普段は穏やかな犬なのに。
「先輩って、すごいですね」
「えっ、何が!?」
「いえ、こっちの話です」
思わず口に出してしまって、先輩を困惑させてしまった…申し訳ない。
先輩をジッと見ていた楓は、一拍置いた後口を開いた。
「…僕も、一緒に行って良いんですか?」
「勿論だよ、ルイは楓君のことも好きみたいだし」
そう言いながら目線を下げると、ルイ君が楓の手を嗅ぎながら尻尾を振っていた。
「人数は多い方が楽しいだろうし、ね?」
優しく微笑む峰崎先輩。ちっと人間が出来過ぎてはいませんか…!?
楓もそんな先輩に対して段々と警戒心を解いていったようで、少しずつではあるが言葉を交わしているようだった。それに、遠慮がちだけど笑っている。
良かった。何となく最近、楓の元気が無いように見えていたから。
俺は安心して笑うと、2人の会話に混ざったのだった。




