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予鈴のチャイムが鳴り、俺と桜子ちゃんは慌てて用務員さんにお礼を告げると急いで教室へ戻った。
雫ちゃんの楽譜は届けている時間が無いのでとりあえず俺の机に入れておく。次の休み時間にすぐ届けに行こう。
俺は椅子に腰を下ろし一呼吸置く。本当に見つかって良かった、と胸を撫で下ろした。
……それにしても。
これって多分……イジメ、ってヤツだよな……。
そうと確実に決まった訳じゃないけど、ほぼ黒で間違いは無さそうだ。
絶対に無いとまでは流石に思ってなかったけど。まさか入学早々、しかも雫ちゃんの身に起こるなんて……。
確かに、あの天逢坂が執着する子が平凡な家庭で、その上外部入学生となればやっかむ奴は少なからず居ると思う。しかし、ゲーム内の描写では一切そんな素振りは無かった。だから俺は安心していたのだ。
まさか物を取った上に捨てるなんて。それに手口が卑劣だ。あえて発表がある日に楽譜を盗むとは……。
……ん?
課題曲が一人ずつ違うのも、発表があるのも……なんでそいつは知ってるんだ?
俺は雫ちゃんから直接聞いた、だから知ってる。でも、一般の生徒はオーケストラ部に入ってない限りそんな事は知らないはずだ。
それに、昨日の部活から今日の朝まで大した時間は無い。その間にゴミとして捨てたのなら、雫ちゃんが楽譜を机に仕舞っているのを知っている人物なんじゃないだろうか。
という事は……。
「(もしかして捨てたのは……雫ちゃんと同じ部の人間?)」
まだ確実に断言出来ないが、その可能性は高い。
もしくはオーケストラ部の人から情報を聞いた、とか。どちらにせよ近い人間のした事なんじゃないだろうか。
そうなると必然的に人物が絞られていくような……。
でも。
こうして俺が犯人を絞り出し、最終的に見つけ出せたとして……それで雫ちゃんは納得するだろうか。
もし俺が彼女の立場ならどうするだろう。
見つけ出して皆の前で晒し上げる?
先生に言って、学園側から注意してもらう?
正直どれも良い方法だとは思えない。それよりも、何故そんな事をしたのかを直接聞く方が大事なんじゃないか?例え気に食わない相手だからって、こんな事するのは間違っている。
結論が出ないままあれこれ考えているうちに、始業のチャイムが鳴ってしまった。俺は慌てて次の授業の準備をする。
とりあえず、暫くは雫ちゃんの周りを警戒してみよう。もし何かあればすぐ対応出来るように。
俺はそう決意して、今は目の前の授業に集中する事にした。
ウンウンと頭を抱えて悩む俺の姿を、隣の鷹司が見ていたとも知らずに。
休み時間になると、早速教室を出て1-Aクラスに向かった。
「雫さん」
教室の扉を開けて名前を呼べば、落ち込んだ様子の雫ちゃんが顔を上げてこちらを向く。それを察して、俺はヒラヒラと楽譜を上げて見せた。
「っ、伊織ちゃん!」
「見つかりましたよ。はい、無事だと思いますが、一応中身も確認して下さい」
そう言って手渡すと、雫ちゃんはパラパラと中を確認する。
「全部無事だよ、伊織ちゃん~~~!」
「そうですか、本当に良かった。ほらほら、もう泣かないで下さい」
ちゃんと無事だったようだ。ホッとして涙腺が緩んだのか、ダパァという効果音が付きそうな程涙を流す雫ちゃん。
「本当にありがとっ、……伊織ちゃん」
「いいえ、気にしないで下さい。私も、選抜に選ばれる雫さんを見たいですから」
フフ、と微笑むと雫ちゃんもふにゃと笑顔を見せた。朝見たような、無理矢理作った笑顔では無いので一安心。
「私、次の授業が移動ですのでここらへんで。またお昼に元気な顔で逢いましょう」
「……うん、本当に有難うね!」
そう言って俺は1-Aを後にする。
……移動教室は本当だけど、そんなに急いでる訳じゃ無い。
だけど、今の雫ちゃんに楽譜がどこにあったのかなんて言えるはずも無く……。
雫ちゃんは聡い子だから、多分気づいていると思う。別れ際に一瞬悲しげな表情が見えたから。
これが優しさだなんて思ってない。だけど、今は選抜本番に集中して欲しいから……。




