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朝登校すると、1-A教室の前が何やら騒がしい。どうしたんだろ?

俺は背伸びして騒ぎの中心に居る人物を見る。



……え?




「雫さん!」


俺はたまらず、人混みを掻き分けて叫んだ。


「伊織ちゃん……」


「どうしたんですか?! 一体何が?」


床にへたり込んでいた雫ちゃんの元へ駆け寄ると、しゃがんで目線を合わせる。

雫ちゃんは今にも泣きそうな顔をしていた。一体何があったんだ……!


「私の課題曲の楽譜、机に入れて置いたのにどこにも無くて………! 教室中探したのにどこにも……あれが無いと、今日のバイオリン発表が出来ないの」


机の中身を必死に探しても出てこなくて、教室中の人に聞いていたそうだ。だから騒ぎになっていたらしい。


「家に持ち帰った訳では無いんですよね?」


「うん。昨日の部活の後机の中に仕舞ったから、間違いないと思う……」


段々と声が小さくなっていく雫ちゃん。これってもしかして……。


「……雫さん、私も手伝いますから絶対見つけましょう」


「伊織ちゃ……うん、有難う」


大きな目に涙を溜めていたが、袖でグイッと拭うと力なく笑う雫ちゃん。

心が痛い。何でこの子がこんな目に合わなきゃいけないんだ。

俺は眉を顰めたが、すぐに小さく首を振り、雫ちゃんの頭を撫でた。


「必ず、見つかりますから。ね? 何も心配しないで」


「……うん、うん」


耐えきれずポロッと涙が零れた。俺は制服のポケットからハンカチを取り出すと、そっと雫ちゃんの頬に当てる。


「擦ったら腫れちゃいますよ。今日、発表があるんでしょう」


俺は安心させるようににこっと顔を見て笑うと、雫ちゃんを椅子に座らせた。不安そうな顔の雫ちゃんに「後で必ず持ってきますから」と言って教室を後にする。


――—――—―――――絶対に見つけ出さなくちゃ。







俺はまず、各教室のゴミ箱を探すことにした。

1-Bクラスから1-Fクラスまでを虱潰しに探す。周りの生徒達から奇異な目で見られたが、そんなの構っている暇は無い。

もし捨てられているとすれば、見つけるのは早い方が良い。

順繰りに周り、1-Fクラスの扉を開けると、桜子ちゃんが気付いて近寄ってきた。


「伊織さん、一体どうしたんですか?」


「あ、いえ。少し探し物をしていまして」


こうなった経緯を少し説明すると、桜子ちゃんも心配そうに眉を下げる。


「朝河さん、大丈夫でしょうか?」


「ええ、とりあえず今は」


そう言いながらクラスのゴミ箱を覗き込んだ。


「……あれ?」


ゴミ箱の中は空だった。この教室だけ、ゴミが一つも無いなんてあり得るのか?


「朝、誰かが捨てに行ったんですかね」


「……」


俺は何となく引っ掛かった。


「桜子さん、教室のゴミってどこに集められているか知ってますか?」


「え、はい。知ってます!」


桜子ちゃんにお願いして案内してもらう。掃除は業者が入るので、ゴミ捨て場が分からないのだ。美化委員になりたいと言っていた桜子ちゃんなら知っているはず。その予感は的中した。

しばらく歩いて外に出ると、何やらゴミを回収している用務員らしき人物が見える。


「っあの!」


俺は出来るだけ大きな声を出し、その人の元へ走る。桜子ちゃんも後ろに続いた。


「あの、そのゴミ! まだ待って貰えますか」


「おお、どうしたね」


優し気な用務員さんが、手を止めてくれた。傍には大きなゴミ袋がいくつか転がっている。


「どこの教室のか言ってごらん」


「1-Fです! まだありますか?」


用務員さんは袋の側面をいくつか見ると、二つのゴミ袋を持ってきてくれた。


「これと、これだね」


「すみません、少し開けさせてください」


昨日回収されたものと、新しく回収されたものだ。新しい方はほとんどゴミが入っていない。

それを注意深く見てみると……


「伊織さん、これじゃないですか?」


「あ、ありました!」


袋の外から、雫ちゃんの名前が書かれた楽譜が見えた。俺は急いで袋の口を開ける。

楽譜を取り出し、外や中をパラパラと確認したが、特に汚れや破れは見当たらなかった。


「良かった……」


俺と桜子ちゃんは顔を見合わせて安堵する。


「探し物は見つかったかね?」


「はい、無事見つかりました。有難うございます」


俺は用務員さんに深々と頭を下げる。


「処理しちゃう前で良かったね」


クシャリと目尻にシワを浮かべ笑う。本当に良かった、無事見つかって。


「これ、ゴミ袋にクラスの名前が書かれているんですね」


袋を見ていた桜子ちゃんがボソリと呟く。


「そうそう。出してもらう時は必ず書いてもらってるんだよ」


袋には小さく1-Fとマジックで書かれていた。だからクラス言っただけで持ってきてくれたんだ。

それにしても……。


「何で、うちのクラスのゴミから、朝河さんの楽譜が……」


「桜子さん」


「えっ、あ、はい!」


「今、目にした事は…誰にも言わないで貰えますか?」


俺は桜子ちゃんの目をジッと見つめた。桜子ちゃんは一瞬驚いた様子だったが、すぐに「はい」と見つめ返してくれた。


信じたくないけど……最悪の事態が起きてしまった。


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