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「伊織ちゃん、生徒会に選ばれたんだってね」
「……もう御存知でしたか」
ランチの時間、雫ちゃんと中庭で昼食を食べていた。
あの日以来おかず交換は恒例の儀式となっていて、俺は現在、雫ちゃんの手料理を堪能している。
「昴から聞いたよ、流石伊織ちゃんだね!」
「ははは……」
乾いた笑いが口から出る。俺を買い被りすぎだよ雫ちゃん。
「それにしても……外部生から初めて選ばれるなんて。急に何があったんだろ?」
「そうですね……」
モグ、とかぼちゃのサラダを頬張る。理由は分かってるけど、あまり良い話じゃない。雫ちゃんには言わないのが得策かな。
「へへ、でもね。何だか私まで嬉しくなっちゃって」
「?」
「私の友達が選ばれたんだぞーって、なんだか誇らしい気持ちになっちゃって! ごめんね、変だよね」
「……っそんな、私は嬉しいです! 雫さんにそう言ってもらえて!」
友達……嬉しいな。ちゃんと友達って言ってもらえた。
上手に伊織に成り切れてるか、少し不安だったから。
「私もね、次のコンクールの選抜が明後日にあるんだ。一人ずつ課題曲が違うんだけど、プロの先生に聴いてもらえる機会なの。伊織ちゃんも頑張ってるんだし、私も頑張らなきゃ!」
そう言ってガッツポーズをする雫ちゃん。
「ええ、雫さんなら絶対に選ばれますよ。こんなに努力しているんですから」
「うん、頑張るね!」
夢に向かって頑張っている人の笑顔はキラキラと輝いている。雫ちゃん、順調に進めると良いな。
そう2人で笑い合っていると、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「伊織さーん!」
「……あっ、桜子さん!」
駆け寄ってきたのは、桜子ちゃんだった。
「ここでランチしていらっしゃったんですね」
「はい、天気のいい日はほとんど中庭に出ていますよ」
「そうだったんですね……あっ」
俺と会話をしていると、桜子ちゃんが雫ちゃんの方を見た。
「っと、そうでした。こちらは1-Aクラスの朝河雫さんです。雫さん、こちら1-Fクラスの一条桜子さん」
「初めまして、朝河雫です」
「あ、えと、あの、一条桜子です。はっ、初めまして」
ミッションコンプリーーーーーート!!!
この2人を無事エンカウントさせることが俺のささやかな夢だったんだ。やっと叶った。
自己紹介をし合う2人も可愛い。もうマイナスイオンを空気で感じる。
「桜子ー!」
「えっ、あと、ハイッ! すぐ行きます! ……すみません、騒々しくて。今度またゆっくりお話しさせて下さい」
「いいえ、気にしないで下さい。また今度」
「うん、一条さんまたね!」
ペコッとお辞儀をすると、他の友達の所へ急いで行ってしまった。
「可愛らしい子だね」
「ええ、本当に」
雫ちゃんも十分可愛いけどねと思いながら桜子ちゃんの後ろ姿を見つめていると、桜子ちゃんの友達数人がこっちを見て何かヒソヒソ言っている。
……何となくだけど、あまり良い感情は持たれて無い気がする。
こういう予感って、結構当たるんだよな。
正式にオーケストラ部に入部した雫ちゃんは、ほとんど毎日遅くまで練習している。
色んなコンクールに出ていた雫ちゃんは、オーケストラ部の部長に目を付けられていたようで、既に厳しく扱かれているんだと笑っていた。
そんな雫ちゃんとは裏腹に、勉強会も部活も無い俺は一人で自宅に帰る途中だった。
うーん、たまには放課後に買い物とか行ってみたい。
友達とショッピングなんて、憧れじゃないか?女の子同士戯れながら選ぶのは凄く楽しそう。
それに、伊織の部屋は服が無さ過ぎる。ドレスばっかりやたら揃ってて、私服はほとんど見当たらない。
雫ちゃんや、桜子ちゃんと一緒に服見に行きたいなあ。
そんな風に考えていたその時だった。
「そこの君! ちょっと避けて!!」
「えっ!? あいたっ!」
ドスッと音がしそうな程の力で、何かが腹の辺りにタックルしてきた。い、痛い……。
さすがに押し倒されはしなかったが。
一体誰がこんな事、そう思って目をやると……
「(ああ~~~~!!)」
そこには、へっへっと息をしながら尻尾を振る柴犬が。可愛い~~!
思わずデレッと破顔すると、先程声を上げた飼い主らしき人が走ってきた。
「こ、こら、ルイ! 駄目だろ急にぶつかっちゃ! ごめんなさい、怪我は無い?」
「あ、全然大丈夫です……よ」
俺はニッコリとスマイルを向けたが、その顔を見て驚いた。
「(まさか……峰崎秀介?!)」
BLOOMで、唯一同じ学園に在籍していない攻略キャラ……それが峰崎秀介。
緑が混じったような黒髪に、切れ長だけど柔らかそうな瞳。細いフレームの眼鏡を掛けていて、背は175cmくらいだがスラッと細身だ。攻略キャラでは一番特徴の薄い人物だが、とても優しくて真面目で……俺の中で最も好感度の高いキャラクター。
天逢学園の近くにある男子校「久遠男子高等学校」の二年生に在籍しているらしい。
「良かった、怪我が無くて。本当にごめんなさい」
「い、いえ。そんなに謝らないで下さい」
どうしよう、どう接していいか分からないぞ。
個性という荒波に揉まれ過ぎて、あまりの普通っぷりに逆に身構えてしまう。
「ほら、ルイ、いい加減離れなさい」
「あ、」
ルイ君は柴犬の名前のようだ。名前を呼ばれながら彼の手によって引き離されてしまった。
ああ、寂しい。こんなに尻尾を振っているのに。
「あ、あの」
「え?」
「少しで良いので……その、撫でさせてもらえませんか?」
うずうずと動く手を押さえられない。だって可愛いんだもの!!
峰崎さんは一瞬面食らった顔をしたが、すぐに了承してくれた。
「全然構わないよ、良かったら撫でてあげて」
そう言うとルイ君の体を手から離してくれた。俺はしゃがみこむと顎の下をうりうりと撫で繰り回す。
ルイ君は気持ち良さそうに目を細めた。
「可愛い……」
「はは、有難う」
そう控えめに笑うと、俺と同じようにしゃがんでルイ君の背中を撫でる。
「君、天逢学園の生徒だよね? 一年生?」
「はい、入学したばかりです。天逢学園をご存知なんですか?」
「うん、俺の知り合いも天逢学園に通ってるから」
……ああ、そうだった。ほぼ100パーセントあの人だろうな。
「それにしても、ルイがこんな風に懐くなんて、珍しい」
「? 普段は違うのですか?」
「警戒心が強くて、あまり人に近寄らないんだけど……」
そうなのかぁ!ルイきゅん!
俺があまりにも犬好きだから、バレちゃってるのかなぁ~~~?
わしゃわしゃと頬を撫でても、嬉しそうに尻尾を振っている。可愛いなあ。
「私も犬を飼っていますので、匂いがしたのかもしれません」
「そうなんだ、種類は?」
「ジャーマンシェパードドッグです」
へえ、凄いね。純粋なの?と会話が続く。もしかして、峰崎さんかなりの犬好き?
俺と峰崎さんは、しばらく犬談義で盛り上がった。ああでもないこうでもないと話をすると、ポンポンと会話が弾む。何だ、楽しいじゃないか!
今度是非シェパード見せて、と言われたので俺は快く承諾した。連絡先を交換し、その日はルイ君の丸い頭を撫でてお開きとなった。




