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生徒会長が「紅茶を入れに行ってくるね」と席を立ってしまったので、俺は隣の暴君と2人きりになってしまった。
気まずすぎるだろ……しかもソファに隣同士で並んでいる状態。何これ、拷問?
この空気をどうにかして打開しようと、目の前のお茶菓子に視線を移す。箱の中には色んな種類の焼菓子が綺麗に並べられていた。
ガレットにマドレーヌ、パウンドケーキにブールドネージュ……はあ~うまそう。
俺はすぐに天逢坂の存在を忘れ、アレでもないコレでもないとウキウキした気分で焼菓子を選ぶ。すると、隣からプッと吹き出す音が聞こえた。
「……何ですか、急に笑って」
「いや、別に……ククッ……前から思ってたけど、お前ってすぐ顔に出るな」
は?!そんな訳無いだろ、顔に出さないよう常日頃から気を付けてるのに!
「そんなに変な顔してました?」
「ふっ、くく、……何も言わないでおく……」
「気になりますから!」
「いや……まあ、悪い意味じゃ無い。表情が変わって面白い、って事だ」
急に柔らかい笑みを向けられて思わずドキッとしてしまう。こんな顔も出来るのか…………って!
何を考えている俺!? 相手はあの、『俺様・何様・天逢坂様』だぞ?!
ちょっと優しくされた位で、俺のバカ野郎!! それもこれも、無駄に顔が良いこいつのせいだ。
「……そうですか」
「ああ」
俺は決して照れたわけじゃないが、思わず顔を逸らしてしまった。天逢坂に特別な感情は無さそうだし…どいつもこいつも素で恥ずかしい行動取るなよ、紛らわしいから。
俺は気を取り直して、箱からマドレーヌを取り出す。包装を外すと、バターがじゅわっと表面に染みてツヤツヤと輝いていた。う、うまそう……。
そんじゃ、遠慮なく頂きます。そうして、口に入れようとしたその時だった。
「春樹っ! 新しい生徒会の子来た!?」
突如バンッと騒々しい音で扉が開かれる。俺はあーんの体勢で止まったまま目だけを向けた。
そこには……何ということでしょう。天界から落ちてきた天女かと見まがう程美しい、黒髪ロングヘアーのとんでもない美人が立っていた。
「天女様……」
「は?」
「あー! 君たちが新しい一年生!?」
軽やかな足取りで走ってくる。俺と天逢坂は思わず立ち上がった。
「あー、いいのいいの! 座ってて! あ、理事長の息子君だ、君も生徒会に選ばれたの?!」
「は、はぁ……」
「それで君が、春樹の言ってた西原伊織ちゃん! わあ~噂通り可愛い~!」
「あ、あの」
答えを言う間もなく、ぎゅむっと顔に押し当てられたそれは、天女のたわわに実った二つの……
「!?」
「可愛い~! ね、ね、私の名前奥森沙雪って言うの! 伊織ちゃんの事は、いおりんって呼ぶね!」
「ふぁ、は……い」
さっきからずっと、マシンガントークのまま抱きしめられている。
圧が凄い。そろそろ離してくれないと、い、息が……。
「奥森先輩、西原が死にそうです」
横から天逢坂が止めてくれたので助かった。あぶねえ。おっぱいで圧死するところだった……。
「いおりんごめんね! 嬉しくってつい!」
「だ、大丈夫です……」
あはは、と奥森先輩が笑う。すると、隣の部屋から生徒会長が紅茶を持って現れた。
「あ、沙雪。来てたんだね」
「いやぁ、ちょっと色々あって遅れちゃった! ごめん!」
「そんなに時間経ってないし、構わないよ。あと2人が来れば、全員揃うね」
トレーをテーブルに乗せると、俺と天逢坂の前に高そうなティーカップを丁寧に置いた。
「何言ってるの春樹。全員揃ってるじゃん」
「え?でも、ハトリとユズキがまだ……」
「そこにいるよ?」
奥森先輩が指差した方向には、カーテンと窓の隙間に挟まりながらこちらを見ている2人の生徒が居た。
「えっ?!」
俺も天逢坂も、お互い目を合わせて驚く。その間もジーッと観察するように俺達を見つめていた。
「ハトリ、ユズキ。いつからそこに居たの?」
「最初から」
「最初の方から」
先に1人が話し、同じ言葉をもう1人が繰り返す。
2人とも、凄く顔が似てる。もしかして双子?
制服を見ると、男女の双子のようだ。
カーテンの間から飛び出すと、トトトッと2人で走ってきた。……うわあ、可愛い~。先輩に対して、こんな事言って良いか分からないけど。
2人とも背が小さくて、肩くらいまでの薄いバイオレットヘアーだ。
アシンメトリ―風の髪型で、男の先輩は右のこめかみ部分が少し長めで、女の先輩は左が少しだけ長い。
大きな垂れ目を縁取る長い睫毛に、小ぶりな鼻と口の、まるでお人形さんみたいな2人だ。
「何だ、また隠れてたの?悪戯ばかりしちゃ駄目だよ。それに、窓の近くで立つなんて危ないだろう?」
「気を付ける」
「今度から気を付ける」
コクコクと首を縦に振って生徒会長を見上げる姿は、小学生が怒られているようにしか見えない。俺の頬がぴくぴく動いた。
「(この2人、可愛すぎる……!)」
我慢するのに必死。隣のこいつにバレないようにしなきゃ、さっき顔に出るって言われたばかりだし。
「じゃあ、全員揃ったところで自己紹介を始めようか」
生徒会長の声で全員ソファへと座る。先輩達とは対面する形だ。
「沙雪からお願いできるかな?」
「はーいっ! 私、三年生で副会長の奥森沙雪でーす! 昴君も、いおりんもー、よろしくねっ」
奥森先輩はそう言ってピースしてきた。黙ってれば天女なのに、喋ると凄い親近感が湧く。
「宜しくお願いします」
俺達はソファに座りながら深くお辞儀した。
「いおりん」
「いおりんだって」
双子の先輩は、俺のアダ名に興味津々なのか2人で膝を突き合わせて何やらコソコソ言っている。
「それじゃ、ハトリとユズキ。よろしくね」
「梅屋ハトリ、二年生。よろしく」
「梅屋ユズキ。よろしく、いおりん」
ハトリ先輩が男で、ユズキ先輩が女だ。
おいおい、そのあだ名定着しちゃうのか?
「これで全員自己紹介が終わったね。これから一年間、このメンバーで活動することになるから。そのつもりで皆、よろしくね」
「えー! 一年で終わっちゃうの悲しい~」
「悲しい~」
「悲しい~」
頬に手を当てて悲しむ奥森先輩を真似するハトリ先輩とユズキ先輩。何だか個性の塊すぎて、天逢坂や鷹司が普通に見えるぞ。
「さゆさゆ、お菓子食べて良い?」
「さゆさゆ、お菓子の袋開けて」
沙雪だからさゆさゆ?そういえば食べ損ねたけど、このお菓子奥森先輩のやつだった!
「あ、私もお菓子、頂いてます」
「全然食べて良いよ! お菓子好き? 好きならまた持ってくるからね、遠慮しないで!」
2人のお菓子の包装を外しながら言う。天女がお母さんにしか見えない。
それより、ハトリ先輩もユズキ先輩もずっとこんな感じだけど、一体どうやって生徒会の面接で選ばれたんだろ。
両手でパウンドケーキを持ちながら、はむはむと顔に食べカスを付ける2人。……本当に俺より年上なんだよな?
そんな俺の思いを察したのか、生徒会長は苦笑いをした。
「こう見えて、2人共凄く優秀なんだ。二年の学年成績では、常にトップだよ」
「えっ」
「次は負けない」
「次も勝つ」
はええ………。まだまだ俺の知らない世界があるもんだ。




