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「生徒会へようこそ、歓迎するよ」
ビシリ、と音がする程見事に固まった俺は、かろうじて動く首だけで隣の天逢坂に助けを求める。それなのに、こいつは一切動じる事無く黙って前を向いたままだった。ちょっとくらい反応しろ。
「西原さん、どうかした?」
有無を言わせない笑顔をチラつかせ、俺に話しかけてくる。
やばい、冷や汗が止まらない。
「そういえば、会うのは二度目だったよね。元気にしていたかな?」
キィ、と椅子を少しだけ回転させて立ち上がると、俺達の方へ歩いて来た。
ひいぃ! こ、こっち来る!!
静かな部屋に革靴の音だけが響いている。そのまま彼が目の前で膝立ちになると、俺の手の平をそっと絡め取った。
そして――――――。
「あの日ぶりだね、桜のプリンセス。あの時はきちんと自己紹介も出来なくて気になっていたんだ。僕は生徒会長の相馬春樹、これからよろしくね」
軽く片目を瞑ってウインクすると、俺の指先にちゅ、とキスを……キ、キキキキキキスを……
「~~~~~~~~!?!?」
ボンッと沸騰しそうな程、俺は顔を赤くした。今この人、俺の手にキ、キ、キスした!?
隣の天逢坂もギョッと目を見開いている。当たり前だ、こんな出来事隣で起こってたら俺だってビビる。
唇を離した後、スッと何事も無かったように立ち上がり「天逢坂君もよろしくね」と言ってニコニコと片手を差し出していた。その天逢坂も「え、あ、はい」と戸惑いながら手を握り返す。
俺はずっと固まったまま。
そんな俺の前を華麗に通り過ぎた生徒会長は、元居た椅子の方へ戻って行った。
「さて、今日は何故来てもらったかって言うと」
え、この状況で話始める普通?!
「もう気付いているかもしれないけど……君達2人は」
ギィ、と重たい音を鳴らしながら椅子に腰掛ける。大きな机に両肘を付いて目を細めた。
「入試の成績と面接の結果で、一学年の生徒会役員に見事選ばれたんだ」
シン、と水を打ったような静寂が包む。
な、ナンダッテ~~~?!
俺は物凄く驚いた……と言いたいところだけど。いや、うん。まあ何となく予想はしてた。プリンスが出た時点で。天逢坂がしかめっ面だったのもこのせいだろう。俺と一緒が嫌だからっていう理由で。
まさか生徒会役員に選ばれるとは……。そんなに頭良かったのか伊織。
ん?でも何かおかしい。そういえば楓が言っていたじゃないか。
――――「外部生は選ばれないらしいですから」
カーストの低い外部生は選ばれない、確かにそう言っていた。
でも、じゃあ何故?例え伊織の成績が良くても、人当たりが良くても、暗黙のルールがあるなら選出外なはず。
「…別に意見する訳では無いのですが。外部生が生徒会に選出される前例は無いですよね」
「そうだね。西原さんが今回選ばれたのは、特例中の特例だよ」
「では…何故?」
何故か天逢坂が変わりに質問してくれた。俺が選ばれたことに納得いってないのかな。理事長の息子なのにそこらへんは関与してないのね。やっぱり学園の実権は、生徒会が握ってるって訳だ。
「僕が推薦したからだよ。君も知っていると思うけど、生徒会長は他者を生徒会に推薦する事が出来るんだ。それが異例だとしてもね」
「はい、それは存じております。ですが、外部生が生徒会に選ばれたとなると……混乱が起こると考えられます」
「うん、そうだよね。でも、僕は正直な所こういった差別は好きじゃ無いんだ。成績が良い事は大事だけど、それだけじゃ駄目だよ。内部生でも外部生でも平等であるべきだ」
「………………」
「それにね、今回こうして西原さんが選ばれた事で、外部生と内部生の確執が少しでも和らげばいいと思ってる。きっとどこかで折り合いを付けなきゃならない日が確実に来るだろうから。それが今だったってだけだよ」
相変わらず生徒会長は笑顔だけど……どこか空気が冷たい。
何でこんなに外部生に拘るんだろう。もしかして、外部生と内部生のイザコザみたいなのが昔あったのかな?
天逢坂は少し考えた後「そうですか」と一言呟いた。俺ってば、当事者なのに一切話に参加出来て無いけど?良いのこれ?
別に俺、生徒会じゃなくても……というか生徒会じゃない方が色々と助かるんだけど。
それに……俺が生徒会に選ばれたからって、そんな簡単に上手くいくもんかな。だって内部生の人達からしたら外部生が下なのは”当たり前”の事なんだろうし。
中には楓や生徒会長みたいな人も居るだろうけど。
何より、この2人と同じ委員会ってところに耐えられるかどうか、だ。生徒会長相手だと俺の心臓が爆発四散する可能性もワンチャンある。
「と、言う事でプリンセス」
「ひぃえっ、は、ハイ!」
「辞退……は出来ないから聞いても仕方無いんだけど。お手伝い、してくれるよね?」
ハイかイイエを選べるなら真っ先にイイエだけど。拒否権無いじゃないですか。
「ひゃい…」
「はは、良かった。もう少しで他のメンバーも来ると思うから、それまで座っててくれる?」
今後の話もあるからね、と言われてしまえば、俺も天逢坂も従うしか無い。
フカフカのソファへ腰かけると思ったよりも体が沈んでしまって慌てた。
「そうだ、プリンセス。君の勇敢な騎士君。初等部の風紀委員の子なんだってね」
「え?…あ、楓の事でしょうか」
「うん。先日、生徒会と風紀委員が集まる学園集会があってね。たまたま顔を合わせたから挨拶したんだけど、苦い顔をされてしまったよ」
楓…この間の態度で何となくそうかなって思ってたけど、やっぱりか。
「申し訳ありません。弟が」
「気にしてないよ。ただ、怒らせてしまったようだから……すまないね」
「お前、弟なんて居たのか」
居るよ、居たら何だってんだ!
「……はい、この学園の初等部に在籍しています」
「へえ」
さして興味も無いなら聞くな、と思ったがそんな台詞を言えるような雰囲気では無い。
すると生徒会長が「あ、そうだ」と立ち上がり、お茶菓子の詰め合わせを持ってきてくれた。
「これね、副会長の家が有名な洋菓子店なんだけど。時々お裾分けをくれるんだ。良かったらどうぞ」
「…い、良いんですか?」
「ん?構わないよ。プリンセスに食べてもらえるなら、お菓子達も喜んでいるだろうさ。僕は紅茶を入れてくるから、ゆっくりしていて」
勿論、天逢坂君も食べて良いんだよ、と笑って、隣の部屋へ行ってしまった。
……二人きりとか、気まずっ!




