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「伊織さん!」
「桜子さん、おはようございます」
パタパタと小走りでやってきた桜子ちゃんと挨拶を交わす。楓に付き合って朝早くに出る時以外は、こうして桜子ちゃんと肩を並べながら登校する日が何度かあった。
「そろそろ一年生の委員会も決まる時期ですね」
「そうですね、桜子さんはどこに所属したいかもう決めましたか?」
「うんと……特にどれか入りたいって所も無かったんですけど。美化委員なんて素敵かな、なんて」
「美化委員、ですか?」
「はい、校内の掃除とかお花の世話とか……私、この学園の花壇が凄く好きなんです、毎日綺麗にされていて。だからそんなお手伝いが出来たら良いなと」
美化委員って、俺の学生時代はめちゃくちゃ不人気だった気がする。当番だと朝も早いし、掃除も大変だし。それなのに自ら立候補するとは……余りにも心が綺麗すぎて、俺のお世辞にも美しいとは言えない心が浄化されそうになった。びっくりした、このまま魂ごと消滅させられるかと思った。
「桜子さんにピッタリですね」
「そっ、そんな事無いです!……でも、他の人が立候補したり、他から推薦されたりするので、入れるかどうかは運次第ですよね」
クラスから選出されるのは、一つの委員会につき男女ペアの二人一組ずつ。当然、人気のある委員会とそうでないものがある訳で……。
「確かにそうですね。でも、美化委員ならきっと大丈夫だと思いますよ」
「そうだと良いんですけど……あ、それより、伊織さんはどの委員会に入るんですか?」
「そうですねえ…私は保健委員に入りたいと思っているのですが」
この学園の委員会カースト制度が分からないので何とも言えない。俺は単純に、保健委員になったらあの白い綿を使って人の傷を消毒してみたい、というささやかな夢の為に入りたいだけなので、特に思い入れも無い。
「あ、保健委員は前から人気ありますよ。何でも、2年の何とかっていう男子生徒が、よく保健室にいらっしゃるとかで」
「え?」
「名前までは良く知らないんですけど、その男子生徒というのが、学園の女生徒に大変人気のある方らしくて……」
「……ああ、そうですか」
すみません、私そういった事はあまり詳しくなくて。と桜子ちゃんに謝られた。いえ、そこまで知れたら十分です。
……やっぱやめようかな、保健委員。
委員会決めをするHRが始まった。候補だった保健委員が白紙に戻ってしまったので、俺は次の候補を決めあぐねていた。
俺も桜子ちゃんに習って、美化委員にしようかな。そうすれば少しくらい俺も純粋な心を取り戻せるかもしれないし……。
すると、担任からふいに声が掛けられ、廊下へ呼び出された。
急いで廊下へ出ると、担任から一枚の紙を渡される。
「西原、今からこの場所に向かってくれるか?」
「え? は、はい」
手渡されたのは、別棟にある教室への簡単な地図のようなものだった。
「あの、委員会は……」
「大丈夫だ、兎に角すぐ向かってくれ」
担任は教室でHRの続きをしなければならないらしく、返事も聞かずに教室へと戻って行ってしまった。ええ……放置かよ。
仕方が無いので言われた通りに別棟へ歩き始める。何だって俺だけこんな目に……そう思いながら歩いていると、前の方の教室から、誰かが扉を開けて出てくる音がした。
……ゲッ、天逢坂。
向こうも歩いている俺に気が付いたのか、何とも言えない表情でこちらを見ている。気まずいのは俺も一緒だっつーの、こっち見んな!
俺はもういちいち反応するのも面倒だったので、スタスタと歩き始める。隣を通り過ぎる前に「こんにちは」と一応挨拶だけはしたが。
「おい、ちょっと待て」
丁度横を通り過ぎようとした時、声を掛けられた。
「もしかして、お前もか」
天逢坂は眉を顰めて問いかけてくる。お前もか……って何が?
「えっと、質問の意図がよく……」
「見せてみろ」
そう言うや否や、手元の地図を素早く奪われた。何すんだこのクソガキャア!!
内心そう思いながらも、地図を見て黙っている天逢坂に向き直る。
「……やっぱりな。ッチ、仕方ない」
ほら、と地図を返される。天逢坂はさっさと歩いて行ってしまった。え、ちょっとまじで意味わかんない。しかもお前今舌打ちしたな?ちゃんと聞いてたぞ。
イライラしながらも、天逢坂の後ろを歩き始める。隣に並んで歩いたら色々面倒な事になりそうだったので、適度な距離を開けてだけど。
別棟へ着くと、目的の教室の前で天逢坂が腕を組んで待っていた。まるで、俺に対して「遅いんだよ」と言っているような目を向けながら。
いや、コンパスの差を考えろよ!ちょっと足が長いくらいで調子に乗りやがって、と心で毒づきながら、偉そうな天逢坂の横へ並ぶ。そしてコンコンと扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が返ってきた。
……何だろう、聞いたことある声な気がする。扉を隔てているから、よく聞こえなかったが。
天逢坂は、そんな俺を無視して、「失礼します」と言うとその扉を開けた。先に中へ入ると、一応俺の為に扉を開けておいてくれたので「有難うございます」と小さく礼をして俺も中に続いた。
「やあ、待っていたよ。天逢坂昴君と……西原伊織さん」
涼し気な声が聞こえる。まさか……俺はその声を聞いて身を固くした。
大きな椅子の背もたれがこちらに向いていて、一体誰が座っているのか見る事が出来ない。
いや、しかし。この声は。
すると、その椅子がくるりと半回転して、その声の人物がとうとう目の前に現れた。
「2人とも、生徒会へようこそ。歓迎するよ」
優し気な笑みを湛えたその人を見て、俺はたまらず石化した。




