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「(はぁ~……)」


胃がキリキリと痛い、そう思ってもこんな往来で口には出せないので脳内だけで溜息をつく。

俺は今、痛む胃を押さえながら一人で自宅への帰り道を歩いていた。




―――昨日の夜、父親と母親に言われた言葉を思い出す。


「入試の結果が一番だったみたい」


「勉強の事はあまり心配していないよ」




……ごめんなさい、伊織のお父様、お母様。

それが俺の今一番の悩みです!!





何故急にこんな事を言い出したかと言うと、今日から本格的に授業が始まったからだった。

初日に配られた時間割に目は通していたものの、「最初は中学の復習から始めるから安心してね」と言う担任の言葉を真に受けて、俺は完全に油断していた。


「(ま、どうにかなるだろ)」


そう余裕ぶっこいて1限目の授業に挑んだ。挑んだのだが……。


……あれ?高校の教科書ってこんなに難しかったっけ?

教科書を開いた瞬間、頭が真っ白になった。んん……何でだろう、大量の文字に目が滑る。

よく分からない単語の羅列、数式、短文……サーッと血の気が引いていくのが自分でも分かった。

結局一日ただ授業を右から左に聞き流していただけで、そんな調子だった俺は全教科見事に惨敗したのだった。


つか、成績1位って……そんなヒロインのテンプレみたいな特技をモブの伊織に与えるなんておかしいだろ!!


俺は頭を抱える。考えれば考える程頭が痛い。何でもっと早くに勉強の事気付かなかったかなぁ。


俺自身は別に最下位だろうが1番だろうが何でもいい。だが、伊織の為にも、西原家の為にも絶対に成績を落とすことは出来ない。俺のせいで伊織の評価が落ちるなんて、プライドが許さん!


……と意気込んでみても、瞬時に頭が良くなる訳じゃない。とりあえずどういう風に勉強を進めていくか、だ。


幸い、理系分野はそこそこ得意だった。数学も、物理も復習さえ頑張ればそこそこの成績は取れるはず。それより問題は文系分野だ。


理系は必ず正解がある、とはよく言ったもので、性格上数式を見ていても特に苦にならない。パズルを解いているような感覚が好きだったし、難解な問をバラバラと崩していくのはとても気持ちが良い。

文章を読み取って答えを導いたりするのが、かなり苦手だ。

作者の気持ちなんて作者にしか分かんねーよ!と誰かが言っていたが、本当にその通りだと思う。

それに、25歳にもなると気持ちもスレてくるんですよ、色々ね!


言い訳をしている場合じゃない。兎に角、死ぬ気で勉強しよう。

一番最初に学力が発表されるのは5月後半の中間試験。学年1位は目指さなくても良い、きっとこの学園には伊織より上がゴロゴロ居るはずだし、1番なんて俺のちんけな頭じゃなれそうも無いから。

とりあえず学年10位以内を目標にしよう。もし躓いても、特待生で外部入学した桐ケ谷部長が居る!最悪先輩に土下座してでも頼み込むしかない。


俺は覚悟を決めて、鼻息を荒くしながら自宅へと急いだ。









「そうなんだ、それで俺に勉強をね」

「はい………そうなんです」



一週間も過ぎて、部活動の日がやってきた。

入部届も無事担任に出せたが、紙を見るなりギョッとした担任に「間違えてる訳じゃないよな?」と再三確認された。どれだけ人気無いんだ、卓上旅行研究部。


「んー、見るのは全然構わないんだけど、俺も毎日暇って訳じゃないからなぁ」

「毎日だなんてそんな! 部長の都合がつく日だけで結構です!」



あの日の夜、夕食後に教科書を開き勉強を始めたわけだが……全てが甘かった。

何が分からないかが、もう分からない。だからどこから手を付けて良いか分からない。古典や英語はまさにその典型だった。英語なんて単語さえ分かっていればどうにかなるだろと高を括っていたツケが今になって回ってきたのだ。

……え、俺ってこんなに馬鹿だった?中学も高校も、別に成績は悪い方じゃなかったのに……時の流れは残酷。


「(どうしよう……!)」


俺は伊織の部屋を手当たり次第物色し、中学時代の教科書をどうにか発見した。まずは中学の復習から始める事にしたのだ。

でも、毎日復習ばかりやっていても時間は過ぎるばかり……授業にも上手く付いていけず、結局部長に泣きついたという訳だ。

終業のチャイムと共にダッシュで(と言っても走るのは校則違反なので急ぎ足で)別棟に来た俺は、まだ部長しか来ていないのを見計らって土下座の勢いでお願いした。


「そう言う事なら構わないよ。ちなみに苦手な教科って?」

「はい……文系は全般的に厳しいかと」

「え? 意外だね。西原さんはそっちの方が得意なのかと思ってたよ」


はい、俺が苦手なんです、すみません!!


「そっか……それじゃあそっちを重点的に勉強しよう。目標とかはある?」

「こんな状態では無謀かもしれないですが……学年10位以内には」

「分かったよ。目標は高い方が良いからね。それじゃ、俺の連絡先渡しておくから、後で登録してくれる?勉強見れそうな日は連絡する事にしよう」

「はい! 有難うございます!」


思わず立ち上がって深々とお辞儀をする。ほんと、部長が居て良かった!

俺は絶対に他言無用で、と部長に散々お願いして、そのまま何食わぬ顔で部活に参加したのだった。

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