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「お、おはようございます」
「……あら、おはようございます」
3日目の朝。今日は挨拶運動に出る楓と一緒に登校したので始業時間にはまだ早い。クラスに着くとほとんど生徒は居なかったが、意外な事にあの鷹司が既に席に座っていた。
まだ親衛隊の皆さんは来ていないみたいだが、それでも鷹司は相変わらず自信たっぷりのすまし顔だ。
俺は鷹司を刺激しないようにそっと自席に座る。すると、座った途端こちらを向いた鷹司が不服な顔を隠そうともせず、俺に話しかけてきた。
「西原さん、昨日もまた騒ぎを起こしたそうですね」
…………え? 一体何のこと?
合点が入っていないような俺の表情で察したのか、鷹司は少し呆れたような顔をする。
「天逢坂様と、ランチの時間。といえば伝わりますか?」
そう言われた俺はああ、と声を出す。あれね、うん。俺は絶対にあのクソガ……じゃなかった。天逢坂を許さないよ、俺の大事な卵焼きを……って、そうじゃなくて!
俺は天逢坂に何もしてない! アイツが勝手に来て勝手に食べて勝手にどっか行っただけ!
そう言いたくても口には出せないもどかしさ、伝わって欲しい。
「……昨日は天逢坂さんと雫さんと3人で世間話をしていただけですよ」
「世間話、ねぇ……そう……へぇ~。天逢坂様の手を煩わせないで、と初日に申し上げましたのに。何も分かっていないようですね」
「……えーと……」
それはつまり、天逢坂と話すなって事?うーん、ちょっと無理があるんじゃないかなぁ。俺には話しかけなくても、雫ちゃんは絶対天逢坂がちょっかいかけにくるだろうし。
ふう、と軽く溜息をついた鷹司はそのまま言葉を続ける。
「それに、あの朝河さんて方。天逢坂様と一緒に登校しているそうじゃありませんか。全く、図々しいにも程がありますわ」
少し眉を顰め、カツンと指で机を叩く。
いや、あれは雫ちゃんがアイツのワガママに付き合っていると言った方が正しいと思う。車で登校するのは目立つから困るって雫ちゃんも言ってたし。
「兎に角、あまり騒ぎを起こさないで下さいますか? 風紀を乱されると困りますから!」
そう言うとまたしても腕を組んでそっぽを向く鷹司。
はは~、こりゃ嫉妬ってやつか。若いって良いねえ、可愛い可愛い。一対一で話す鷹司は、俺にとっちゃ子猫みたいなもんだ。
勿論、本人にそんな事言えるはずも無いので、俺はしゅんと落ち込んだような演技をした。
「騒いでしまって、本当に申し訳ありませんでした。以後気を付けます……」
「分かれば良いですわ」
サラッと髪の毛を手で払う鷹司。くそう、悔しいが様になっている。
そこでふと、疑問が頭に浮かんだ。
昨日からずっと隣の席に居たのに、何で今更注意してきたんだろうか。夕方まで、いつでも言うタイミングはあったはずなのに。
俺は不思議に思って鷹司に問いかけた。
「鷹司さん、注意されるのは仕方無いのですが……何故昨日のうちに言って下さらなかったんですか?」
「え?! い、いや、それは……」
モゴモゴと何やら言葉にならない声を出しながら、途端にしおらしくなる鷹司。どうしたんだ、らしくもない!
下を向いているので表情を伺う事は出来ない。すると、一呼吸置いた鷹司がバッと真っ赤な顔を上げて俺の方を向き、そこそこの声量で言い放った。
「あっ、あんなに周りに人が居ては、は、話辛いでしょうっ、私も貴女も!!」
…………はい?
「え……と、それは、鷹司さんの周りに居る方々の事でしょうか?」
「それ以外に誰が居るんですか? 私、多勢に無勢は好きじゃありませんの!」
開き直ったとばかりに俺を睨みつけながらフンッと鼻を鳴らした鷹司……。
……えっ、何この子?! めっちゃくちゃいい子じゃん!
「もしかして……配慮して下さってた、という事ですか?」
「別に、庇ったわけじゃありません。私が嫌だっただけです」
そうだったのか。……それじゃあ親衛隊の人達は、鷹司に言われて席にたむろってた訳じゃないんだ。
見直したぞ鷹司響。俺は何か勘違いをしていたようだ。
「いいえ、それでも私は嬉しいです。有難うございます」
俺は椅子に座ったまま、深々と頭を下げる。確かに、鷹司の言う通りあの親衛隊の前で注意なんてされたら晒し上げを食らっているようなものだ。それに……
「鷹司さんて、本当にお優しい方なんですね」
これは俺が心から思ったことだった。
初対面から俺は、雫ちゃんのライバルという立場なだけで、鷹司がどういう人間かを全く知ろうとしていなかった。
きっと、この子は俺が思うよりもっともっと真っ直ぐな子なんだろうな。
鷹司は相変わらずこちらを見ようとはしなかったが「お礼を言われる様な事じゃありませんから」と一応返事はしてくれた。
そう言った彼女の髪から覗く耳が真っ赤だったのを、俺は気づかないフリをして小さく笑った。




