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放課後―――。



とうとう来てしまったぞ……卓上旅行研究部。俺は現在、別棟の一番奥にある古い教室の前に立っていた。

別棟から本校舎までは歩いて1分も掛からないが、3階の一番奥の教室となると結構な距離を歩く。こんな遠くに追いやられている部活って……と少しだけ同情してしまった。


今日は雫ちゃんも部活を見学しに行くと意気込んでいたので、帰りは別々だ。憧れのオーケストラ部を見学出来ると嬉しそうにしていたので、俺も釣られて嬉しくなった。



コンコン


「失礼します」





バタバタッ、ガンッ!




何やら中が騒がしい。ガシャンと何かが落ちる音までしたけど大丈夫か?

そう心配していると目の前の扉が勢いよく開いた。




「入部希望者!?」




シンと静まり返った廊下に、大きな声が響く。部室から顔を出した男子生徒は俺を見て酷く興奮した様子だった。



「あ……、い、一応見学に……」


「うわあ! 入部希望の子だ!」



ねえ! 入部希望だって!と、目の前の生徒は教室の中に向かって叫ぶ。

おい、だから話を聞け。見学って言ってんだろがい。

だけど、教室の中からその言葉に答えるようにして「おおおお」という生徒の声が聞こえる。


……俺、もしかしなくても部活選び失敗しちゃった?

もう既に帰りたくなってきた。すると、出迎えてくれた生徒の後ろからひょい、と眼鏡を掛けた生徒が顔を出す。


あ、部活紹介の時の。

その生徒は真面目そうな雰囲気で、優しく微笑みかけてくれた。



「部活見学?」


「あ、は、はい!」


おいでと手招きされたので、俺は素直に教室の中へと入る。少しだけ埃っぽいような感じはしたけど、教室の中は綺麗に整理されていた。



「いやあ、今年は誰も来てくれないかと思ってたよ」


そう言いながらパイプ椅子を広げ、手で座るよう促される。この学園にもパイプ椅子あったんだ、知らなかった。


「まあ、去年も2人しか入部してないですけど……」


「いっても、部長があの人だったから見学者はそこそこ来たよね?」


「だから成瀬(なるせ)に任せろって言ったのに」


ぎゃいぎゃいと目の前で男3人が言い争う。ていうかこの部活、去年2人も入ったの?ハイパー奇跡じゃん。

黙って話を聞いていると、眼鏡の部長らしき人が「あ、ごめんね置いてけぼりにして」と話しかけてきた。


「俺の名前は桐ケ谷秋人(きりがやあきと)。この卓上旅行研究部の部長してます、よろしくね」


そう言って片手を目の前に差し出す。俺も「よろしくお願いします」と返し、その手を握った。


「俺、俺ね! 花ノ木椛(はなのきもみじ)! 花いっぱいで覚えやすい名前でしょ? よろしく!」


先ほど出迎えてくれた人だ。男にしては小柄で、目が細っこい猫みたいな顔立ちの男子生徒。


「素敵な名前ですね、よろしくお願いします」


「でしょでしょー! 俺自分の名前大好き!」


へへん、と得意げに笑う。するともう一人の生徒が口を開いた。


坊城聡(ぼうじょうさとし)と言います。よろしくね」


「はい、宜しくお願いします」


少し小太りの、とっても癒し系な男子生徒、全体的にぽよぽよしてる!


「遅くなって申し訳ありません、西原伊織と申します。外部入学生なのでこの学園の事も一緒に御教授頂けると嬉しいです。宜しくお願いします」



そう言って深々と頭を下げると、何故だか3人がおおお~と言って拍手してくれた。ちょっと恥ずかしい。


「伊織ちゃん、外部生なんだ! 秋人もだよ~!」


「(伊織ちゃん?!)そ、そうなんですか?」


「うん、俺特待生」



特待生、って事は凄い頭が良い人?あ、確かに賢そうな顔してるかも!


「んでんで、聡ん家はめちゃくちゃお金持ちでー、坊城コーポレーションの次期社長!」



そう紹介された坊城さんは、あははと困ったように笑う。でもごめんなさい、俺こっちの金持ち事情全く分かんないんで。

とりあえず話を合わせて「あの坊城コーポレーションの?」と言っておいた。



「最後に俺は、普通の家の人! よろしく!」


「花ノ木だって良いお家柄だろ」


「えー? だって聡ん家に比べたら大した事無いし」


部長に突っ込まれてブーブーと非難する。何となくだけど、俺と同じような家柄なのかも?



「まあ兎に角、だ。俺達3人と……あともう1人部員が居て、その4人で活動してるって感じかな?」


ふーん、もう1人居るのか。


「今日は用事か何かですか?」


「いんや、成瀬はねーあんまり来ない幽霊部員みたいな感じかな! 前の部長の弟でね、その延長で入っただけ!」

「時々遊びに来るけど、基本的には居ないよ。もし丁度会えたら紹介するね」


部長と花ノ木さんは3年生、坊城さんと成瀬さんが2年生といった組み合わせらしい。


花ノ木先輩はとってもコミュ力が高くて、猫みたいな顔してるのに性格はほぼ犬だった。初対面にも関わらず名前にちゃん付けとは…この男、やりおる。

逆に「俺の事は花ちゃんか椛って呼んで!」と無茶ぶりされてかなり困ったが、周りが宥めてくれたので妥協案で花ちゃん先輩と呼ぶことになった。


坊城先輩は、とっても大人しくて静か。お金持ち坊ちゃんだけあって、礼儀正しい。ふっくらした頬と白い肌がちょっと赤くなっていて、何かのマスコットキャラクターみたいでとっても可愛い。

とんでもなく肌が白くて綺麗だったので、それとなく聞いてみたら外国の血が入ってるんだと教えてくれた。


部長は壇上で見たイメージのまんま。決して口数は多くないけど、他の2人をきちんと纏めてるって感じで、歳よりもっと大人っぽく見える。でも、たまに的外れな事を言う時があって、もしかしたら少し天然なのかも?なんて俺は思った。




……それにしても。

成瀬、ね。まさかとは思うけど、あの成瀬と同一人物って訳じゃないよな?

……いやいや、こういう部活に入るタイプじゃないだろう。きっと苗字が同じだけの別人だよ、多分…。

俺はそう自分に言い聞かせることにした。

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