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1-D教室の前で桜子ちゃんと別れ、自分の教室へ到着すると、昨日よりはそこそこの生徒が席を立って話をしていたので、少しだけ安心した。

自席に向かうと、席の周りには鷹司親衛隊の皆様がたむろしていらっしゃって、俺は心底ゲンナリする。しかも昨日より人増えてるし。


挨拶は何に置いても基本なので、「おはようございます」と鷹司軍団に軽く頭を下げ、席に着く。元社会人として当然の対応だよね!

親衛隊の皆さんもやはり教育が行き届いているらしく「おはようございます」と一応返ってきた。顔は一切笑っていなかったのである意味すげー怖かったけど。囲まれていた鷹司は「おはようございます」と優雅に口角を上げた。余裕たっぷりって感じで、今日も絶好調のようです。


いつまでも隣を気にしていられないので、俺は席に着くと早速文庫本を開く。今日は栞もきちんと前に挟んだし、準備万端だ。

パラ、と頁を丁寧に捲ると、表紙を眺める。

教室の中はザワめいていて、全然静かではなかったけど。少しだけ開いた窓の隙間から、爽やかな春の風がレースのカーテンを揺らしている。そんな空間が不思議と居心地よくて、俺は担任が教室の扉を開けるまで本を読み耽った。







HRが終わるとプリントや配布物が回される。その後すぐに対面式があるとかで、教室から体育館へ移動することになった。

クラス毎に列を作り、ぞろぞろと体育館へ向かう。俺は歩きながらボーッと窓の外を見ていると、中庭に大きな噴水が見えた。その噴水の近くには、テラスにあるような椅子とかテーブルがいくつか置いてあったので、今日のお昼ご飯はあそこで食べたいな、なんて呑気に考えていた。



体育館に着くと、すぐに対面式が始まる。生徒会長の挨拶(昨日のキザプリンス!壇上に上がった瞬間女の子達が色めきだってた)があったり、部活動の紹介なんかもあった。各部長が壇上へと上がり、自分の部の活動内容を発表するのだ。


雫ちゃんの言う通り、オーケストラ部はかなりの規模でやっているらしくて、大会出場遍歴や発表会の事を事細かに紹介している。周りの子達もそれについて話をしていたので、やっぱり有名なんだろう。


部長もチェロを扱っているみたいで、皆の前で少しだけ披露してくれた。強豪というだけあって、部長の演奏はかなり素晴らしいもので……。演奏を終えた途端どこからともなく拍手が上がる。俺も小さく「ほ~」と感嘆の息を漏らし手を叩いた。


他にも色んな部活が発表をしていたが、女の子達はヒソヒソと乗馬部とかテニス部とか、お嬢様の嗜むスポーツの話をしていたので、そこらへんもかなり人気みたいだ。

逆に男子に人気なのは何だろう。アーチェリーとか?それとも普通にサッカーとか?





そうこうしていると、部活動の紹介も終盤になってしまう。

うーん……。

正直、俺は部活に入らなくても良いかな、と思っていた。

確かに高校の部活といえば、大切な青春の思い出かもしれない……でもスポーツはあまり得意じゃないし、何より中途半端に選ぶのが嫌だった。だって、手抜いたら真剣にやってる人に失礼になる。


ゲーム部とか、漫研とかあれば喜んで入るんだけどね。残念ながらそんな部は存在しなかった。


あー、俺って何が出来るんだっけ。ていうか伊織は何が得意なんだろう。

俺は自分の特技を考えてみた。人より多少出来る事といえば……幼少期に姉が習いたいという理由で、何故か俺まで習わされたピアノぐらいか。


俺はそこそこ才能があったみたいで、習ってみたら案外楽しかったこともあり、高校まではピアノ教室に通っていた。高校卒業と同時に習い事としては辞めてしまったが、それからも趣味として家で軽く弾いたりしていて、時折ピアノ教室にも顔を出していた。なので特技と言っても差し支え無いだろう。因みに姉は自分の才能が無いのを自覚したらソッコー辞めた。


でも俺、別にプロを目指している訳じゃない。この強豪オーケストラ部なら伴奏者の奪い合いになること必須だ。それなら、雫ちゃんのように本格的に習っている子を優先させてあげるべきだろう。

俺は一人納得し、うんうんと頷いた。そんな事を考えているうちに、とうとう最後の部活動紹介になってしまった。やっぱり、どれも入りたい部活は無かったので帰宅部決定かな、と思っているとアナウンスが鳴った。




「最後の部活動紹介は【卓上旅行(たくじょうりょこう)研究部】です」


一斉に体育館がシン……と静かになる。




……は?

何その部活。聞いたことも無い。

周りには、困惑している生徒が皆同じような顔をしている。だよね、そんな顔になっちゃうよね。



「卓上旅行研究部とは、旅行したい場所のパンフレットや地図を机の上に広げ、ルート・日程を決めまさしくその場所へ行った気になろう、という部活です。ご当地の美味しい食べ物や、観光名所などをいかに上手く説明出来るか、という高度なプレゼン力が必要となります。現在、この部活動には約4名が所属しており、活動は週に1度。その日までに課題を決め、他部員に対していかに詳しく発表してもらえるかを見る部活動となっています」


この部長らしき人物。眼鏡を掛けた黒髪の真面目そうな人なんだけど……この空気の中淡々と話を続けてて凄いな。メンタル強すぎだろうよ……。

一度静かになった生徒達も、活動内容を聞いた後にそれぞれ口を開く。皆困惑しているのは変わりなかったが。

卓上旅行部の部長は大して動じもせずに、一度深く礼をするとそのまま壇上を降りて行った。




……ふーん、卓上旅行研究部、ねえ。

他生徒達はちょっと理解が追いついてないみたいだけど……何だか少し面白そうな感じがしないか?週に1度ってのもなかなか良いし、部員が4人てところもポイント高い。あんまり人数が多いと疲れるし。

それに、この感じ……新しい部員も入らなそう。


ちょっと、というかかなり興味がある。部活見学だけでも行ってみようかな?


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