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服を着替え、1階に降りて手洗いうがいを済ませると、リビングへ向かった。部屋の中では、楓が椅子に座って何かを熱心に読んでいる所だった。


「楓さん、何を読んでいるのですか?」


「あ、姉さん。これです、経済新聞です」



けっ、経済新聞!?まだ小学生なのに!?

嘘だろ……ここでは小学生まで株価を気にしてるってのか……?なんて殺伐とした世界。

俺は自分の小学生時代を思い出す。……うん、ゲームか虫の事しか考えてなかったわ。



「そ、そうですか。何か有意義な情報が得られると良いですね」


「世界の情勢が分かるのでとても楽しいですよ、姉さんもどうですか?」


「いえ、遠慮しておきます」


俺が読んでも到底理解出来そうに無いので、食い気味に即答すると楓は「そうですか、残念です」とまた新聞に目を通し始めた。

少しの静寂。まあ、リビングに来ても特にすることが無いんだよなあ。俺はふと大きな窓の外へと目線を向けた。


……仕方ない、まだ時間はありそうだし、少し庭でも探索してみるか。





楓に一言「少し庭に出て来ます」と告げ、庭へと足を踏み入れた。地面には芝生が敷き詰められていて、大きな月桂樹が一本だけ植わっている。

花壇には、色とりどりの花が植えられていて、暖かい陽気の中、日差しを浴びながら美しく咲き誇っていた。

俺はゆっくりと芝生の感触を楽しみながら、庭を隅々と見渡す。柔らかい草の音が、とても心地よく感じた。

ふいに視界の端に何やら小屋のようなものが映り込む。そこそこ大きめなその小屋は、庭の隅にポツンと佇んでいた。物置にしちゃ結構デカめなような……。

俺は好奇心で、その小屋の扉の、モザイクがかったようなガラスに顔を近づけた。

その瞬間。



バンッ!



「うわっ」



俺は音に驚き、後ろへと尻餅を付いた。何だ、扉の向こうから思い切り叩かれたような……。

それと同時に、微かではあるが「ハッハッ」と獣のような息遣いが聞こえる。

もしかして。


俺は意を決して扉を開けた。

そこには……




「うわあ~~~~~可愛い~~~~!」



大きな犬が尻尾を振ってこちらを見つめている。わ~~シェパードドッグだ~!

生のシェパードを見るのは初めてだ。警察犬として、テレビではよく見ていたけど。


俺は動物が大好きで、中でも犬が特に好きだったので、そのままわしゃわしゃと顔を撫で繰り回す。金持ちの家には、こんな大きなシェパードがいるのか、羨ましい。

小屋の中を何気なく覗くと、エアコンは付いてるわ、寝床には大きなクッション(タグ見たらカシミアだった嘘だろ)が置いてあるわで、かなり優雅な生活を送っている様が見て取れた。


毛並みもパサついてないし、良いもん食べさせて貰ってんだなと思いながら、首輪に付いているネームプレートを見る。



「NIKE」……?


……え?名前はあの某有名スポーツブランドのナ〇キ様?ウッソだろオイ、金持ちって自分の犬にスポーツブランドの名前つけるの?それともこれが逆にオシャレなの?ブルジョワジョークなの?

ま、まあそれなりに珍しい名前だけど、きっと何か意味があるのかもしれない。とりあえず気にしないでおこう。うん。

それに、名前がナイ〇でも、可愛いから全然おっけ~~~!とアホ丸出しの顔して、ムツゴロウさんよろしく「よーしよしよし」と撫でていたら……





「姉さん?」




ハッ!!!!!

俺は勢いを付けて、後ろを振り返った。そこには、信じられない物を見る目で立ち竦む楓の姿。

ヤ、ヤヤヤヤヤバイ!!完全に素だった、まさかバレちゃいないよな…?


「姉さん」


「は、はい! どうしました? か、楓さん」



思わず声が上擦ってしまった。ヤバイ、完全に詰んでしまったかもしれない……!

楓は一度黙ったが、俺と犬を交互に見て、口を開いた。




「姉さん……犬、苦手じゃありませんでしたっけ?」





な      ん      だ      と


え、ウソでしょ?そこから?

てっきり素がバレてひかれてるかと思ったら……まさかの犬が苦手だったって!



「今まで、ニケの事触ったことも無かったのに」


「あ、……あー、うふふふふ。実は、学校で出来たお友達と犬の話題になりまして……いずれお友達を家に招いても大丈夫なように克服しようとしていたんですよ」



口元に手を当て、うふふふと無理矢理微笑む。我ながら苦しい言い訳だったが、何も思いつかなかったので致し方ない。つーか、犬の名前ニケかよ!ナ〇キとか言ってた自分が恥ずかしいわ!

楓は俺のそんな姿を見て、何かを考えるような顔をしたが、すぐに「そうですか」と一応納得してくれた。これ以上追及されたら困るのでとても有難い。


「それなら、午後からニケを日課の散歩に連れていくので、姉さんも一緒にどうですか?」


克服したいなら、散歩は良い手だと思います、と楓がニケを撫でながら言う。確かに、少しずつ交流をしていくのは良い手だ。本当はただ触りたいだけだけど。

それに、大型犬の散歩はしてみたかったし。俺は二つ返事で了承した。

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