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あの後雫ちゃんを無事に家まで送り届けた俺は、真っ直ぐ自宅へと向かう。そこは一応記憶があるらしく、特に迷う事は無かった。
西原家は雫ちゃんの家と少しだけ反対方向だったが、歩いて30分も掛からないくらいなので気にしない。というかぶっちゃけあんな可愛い子を一人で帰らせる方が気が気じゃない。危険極まりないので、一緒に帰る時は出来る限り送り届けようと思う。うん。
それにしても……
「でけぇな……」
思わず目の前を見上げながら小さく呟く。いや、本当にデカイんですよ、西原家。
ヨーロピアンテイストを基調としたレトロな外観に、鋳物風エクステリアの門構え。大豪邸とまではいかないが、かなり裕福な家柄なのは見て取れた。
俺ん家の何倍だよ。
門に手をかけ中に入ると、ロマンスグレーの髪を一つに纏めた上品なおば様が箒を手に、枯葉の掃き掃除をしている最中だった。
門を開ける音で気が付いたのか、顔を上げこちらに視線を向ける。
「あら、伊織ちゃんお帰りなさい。今日は早いのね」
ニコニコと品の良さそうな笑みを浮かべたその人は、年齢を感じさせない少女のような雰囲気だった。だが、顔を見ても記憶に出てこない。血縁者では無さそうだし、多分お手伝いさんなのかも。
「はい、ただいま帰りました。始業式だったので午前中で終わりなんです」
「そうだったの、それならお昼ご飯は張り切って作らなくちゃね」
俺は笑顔で有難うございます、と応える。後で名前とかそれとなく調べてみよう。
女性は一か所に纏めた枯葉を大きなビニールに入れながら片付けを始める。そういえばもうそろそろお昼の時間か。
「伊織ちゃん、先に入って手洗いうがいしちゃいなさい。お昼ご飯できたらすぐに呼びますから」
「はい、楽しみにしています」
金持ちの家のご飯って、一体どんな料理が出てくるんだろ。ビーフストロ……なんとかとか、ソースアメ、アメリ……うんまあそんな感じのやつ。
俺は内心ワクワクしながら玄関の扉を開けた。
「ただいま帰りました」
玄関へ入ると、人が住めるんじゃないかってくらい広かった。流石に室内は土足厳禁だったけど。
初見なので靴も脱がずにジロジロと辺りを見渡す。壁には何やら高そうな絵画が飾ってあるし、棚にはこれまた高そうな花瓶。間違って壊したら冗談にならない。
すると、パタパタと廊下を早足で歩く音が聞こえた。母親は始業式後に他保護者の皆様とランチに行くだとか言ってたっけ。金持ち学校だと、色々な業界の繋がりとかコネとか大事だろうし、母親も大変だ。
父親はまだ仕事中だろうし、そうなるとこの足音は……
「お帰りなさい、姉さん」
やっぱり。伊織の弟の西原楓だ。
伊織よりも6個下な筈だから、今日から初等部4年生。
楓は元々、天逢学園の初等部に通っていたはず。初等部と中等部は、高等部とは式の会場が別だったので会わなかったようだ。
それにしても、顔も髪の毛も伊織にソックリだ。まだ小さいから、伊織よか幾分頬が丸い気がする。
まだ初等部4年なのに凄く大人びていて、育ちの良さが全身から滲み出ている。
「楓さん、只今帰りました」
「全然帰って来ませんでしたから、道に迷ったのかと思って心配しました」
家から学校まで大体30分くらいだもんな。雫ちゃん家寄ってからだとその倍は掛かる。
「心配掛けてしまってすみません、初日だったもので少し迷ってしまいました」
友達の家まで行った、なんて事情を説明するのも面倒だったので、適当にごまかす。
楓はクスクスと笑いながら「姉さん、よく道に迷いますからね」と言いながら掛けてあったスリッパを出してくれた。有難う、さっきからどれ履いていいか分からなかったんだよね!
靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると、自室へと向かう。部屋の前に到着すると、扉の上部にはIORIと書かれた小さなプレートが貼りつけられていた。
ここか、と少し緊張する。だって、女の子の部屋だぞ?!そりゃあ、姉の部屋には何度も入ったことあるけど……あいつはほとんど人間じゃないからノーカンだ。
軽く深呼吸して、ドアノブを引く。
「………………あれ?」
想像していた部屋とは全く違った。正直、女の子の部屋ってもっとこう、ピンクとかレースとかぬいぐるみとか……そんなイメージだったけど……。
殺風景、という訳じゃないけど、部屋の広さの割にはあまり物が無いように感じる。高級そうな勉強机とベッド(これだけは天蓋付きの真っ白なやつだった)あとは大きな本棚が壁に沿って置いてあるだけだ。
服は壁と一体化したクローゼットに収納しているようで部屋にはゴミどころか塵一つ見当たらない、
……正直安心した、この部屋なら俺でも心を落ち着けられそうだ。
一息つくと、制服を着替える為にクローゼットを開けた。




