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その時だった。
骸骨が四方八方から竹に貫かれたのは。
「えっ?」
何が起きたのかわからないシャオ。
あれほど、制することすら難しくなっていた結界がいつの間にか消えていた。
代わりに、竹が骸骨にとどめを刺したようだった。
骸骨が切り伏せた竹の幹。完全に上下真っ二つの切り口を見せたそれが、急に伸びたのだった。
まっすぐ伸びていたはずの竹の幹が骸骨に向かって、その背丈を曲げる。
無理矢理な姿をとがめられたように、無数の竹がしなり、笹の雨を降らせる。
ぽかん、とシャオはその様を眺めていて。
骸骨の行方を目でおった。
骸骨は宙に吊り下げられていた。無数の竹に胴を貫かれながら、肋骨の内側に潜り込んだそれが、隙間をぬってまた外へと飛び出していていると思えば、骨盤の隙間も竹が貫く。
タロットカードにでも出てきそうな、吊り下げられた姿。
ぶらり、ぶらりと揺られる姿は、滑稽を通り越して哀れみさえ覚えるようだ。
「決着がついたみたいね」
そう言いながら、シャオは冷や汗をかいていた。
植物が急に成長するとは予想しなかった。
さらに、それが幹を切り払った骸骨にとどめを刺すように、伸びたことも。
「どう? 串刺しにされた気分は」
鬱々と生い茂る竹林で、己が切り伏せた竹の幹によって胴体を串刺しにされた骸骨。
戒めから抜け出そうともがく。が、骨の隙間にねじ込まれた竹から逃れることはできない。肉を失った、骨格だけの身体がただむなしく、がちゃがちゃと煩わしい音を立てる。
空っぽの眼窩がシャオを見下ろす。その表情から感情を読み取ることはできない。
「喋れたら、恨みつらみでも吐き捨てていた?」
ぐったりと関節がはずれたかのように垂れ落ちた腕。
それでも、刀を取り落とすことはない。
重みからなのか、意志なのか、ゆらゆらと刀が円を描いている。
落ちくぼんだ眼窩にこれでもかと目を凝らし、空っぽの頭蓋骨の中身を見つめる。
がちがちと震わす顎関節の音に耳を澄ます。
「さて、これからどうしようかしらね?」
囁くようにいった言葉も、空っぽの頭蓋を通り越して消えゆくだけなのだけれど。
「向こうでやってたみたいに、払うこともできるのだけれども」
肉が削げ落ち、骨だけとなった怨念に伝わる言葉などない。
吐き出した空気が眼窩を通り、いつかどこかで拡散されるだけ。
最近流行り始めた機械と同じで、感情がない。
ただ、同じ行動を、同じ理由をあてもなく繰り返すだけの何かに成り下がっただけ。
「様子見、も面白いかもしれない。どちらにせよ、ここの力にくくりつけられたのだから、あなた自身の力ではもう、どうすることもできない。仮に逃れたとして、力尽きた体力で、私の呪符を破ることもできないでしょう?」
がちがちと、骨を震わせていた骸骨が静かになる。空っぽの眼がシャオに向けられ続けている。
「怨念はずっと怨念のままなのかしらね。永遠に続く、恨みもずっと興味深いけれど」
シャオは自然と笑みを浮かべていた。「人の感情はいつまで保ち続けるのか?永遠に消え去ることがないのか? それは私もとてもとても興味があるから」