第99話 悪役令嬢、王子妃としてのお茶会に挑みます
エマが復帰した数日後。
私は朝から落ち着かなかった。
「……本当に、私がやるんですか?」
「はい」
エマが即答する。
逃げ道がない。
今日行われるのは、王妃主催のお茶会。
その補佐役として、私は参加することになっていた。
「補佐ですよね?」
「はい」
「主催ではなく?」
「今回は“実質的に”主催側です」
言い方。
私は思わず額を押さえた。
「無理です……」
「最近そればかりですね」
冷静な声だった。
でも、以前より少し柔らかい。
体調が戻ったからだろうか。
私は小さく息を吐いた。
「エマは、もう大丈夫なんですか?」
「問題ありません」
反射で返したあと、
エマはわずかに視線を逸らした。
「……今回は、本当に」
少しだけ気まずそうな声。
私は思わず笑ってしまう。
「ちゃんと休んでくださいね」
「……努力します」
今度は私が、
「信用できません」
と返した。
エマが珍しく目を丸くする。
少しだけ、仕返し成功である。
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会場となるサロンには、すでに準備が整っていた。
焼き菓子。
紅茶。
小さな花々。
落ち着いた空間。
(綺麗……)
そこへ。
「緊張しているな」
低い声が落ちた。
振り向く。
アルフレッドだった。
「……見れば分かりますか」
「顔に出ている」
即答だった。
悔しい。
彼は当然のように隣へ立つ。
「今日は失敗しても問題ない」
「慰めになっていません」
「経験すれば慣れる」
「簡単に言いますね」
「お前は、もう十分やれている」
さらりと言う。
ずるい。
本当にずるい。
「……急に褒めないでください」
「事実だ」
その時。
「兄上、また口説いてる」
ルシアンだった。
今日は王妃様の手伝いで来ているらしい。
「違う」
「違わないよね?」
にやにやしている。
やめてほしい。
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やがて、お茶会が始まった。
数名の令嬢たち。
穏やかな会話。
紅茶の香り。
私は王妃様の隣で、必死に流れを追っていた。
「アメリアさん」
王妃様が微笑む。
「お茶をお願いできるかしら?」
「は、はい」
緊張しながらカップへ紅茶を注ぐ。
震えるな、手。
落ち着いて。
すると。
「いい香りですね」
向かいの令嬢が小さく微笑んだ。
「え?」
「この茶葉、少し花の香りがします」
私は少しだけ安心する。
「はい。今日は焼き菓子に合わせて、軽めのものを選びました」
「まあ」
周囲が少し和らぐ。
王妃様が、静かにこちらを見ていた。
試されている。
でも――
以前ほど、怖くない。
私は小さく息を吸った。
「甘いものが続くと重たくなるので、香りが残りすぎないものを選んだんです」
料理の話になると、不思議と落ち着く。
令嬢たちも興味深そうに耳を傾けていた。
「素敵ですわね」
「勉強になります」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
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お茶会が終わる頃には、
私は完全に力を使い果たしていた。
「……終わりました……」
ソファへ沈み込む。
すると。
「お疲れ様です」
エマが静かに紅茶を差し出してきた。
「ありがとうございます……」
受け取ろうとした瞬間。
別の手が先に伸びた。
「これは私が渡す」
アルフレッドだった。
「殿下」
「よくやった」
そう言って、当然のようにカップを差し出してくる。
近い。
エマが無表情のまま言った。
「……過保護です」
「当然だ」
即答だった。
ルシアンが吹き出す。
「兄上、最近隠さなくなったよね!」
隠していた時期があったのだろうか。
私は紅茶を飲みながら、小さく息を吐いた。
でも。
悪くない。
こんな時間も。
そう思ってしまう自分が、少し悔しかった。
こうして悪役令嬢は――
王子妃としての新しい役目に、少しずつ向き合っていくのだった。




