表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/160

第95話 悪役令嬢、デートの余韻で平常心を失います

翌朝。


私はいつも通り厨房へ立っていた。


「追加分、お願いします!」


「はい、今いきます」


声が飛び交う。


パンを並べる。


葉野菜の水気を確認する。


火加減を見る。


いつも通り。


問題ない。


……はずなのに。


(……アル)


昨日のことを思い出した瞬間。


ぶわっと顔が熱くなった。


湖畔。


繋いだ手。


「……もう一度」


「っ……!」


私は思わず額を押さえた。


「アメリア様?」


見習いが不思議そうにこちらを見る。


「だ、大丈夫です」


「顔、赤いですけど」


「暑いだけです!」


今は朝だ。


全然暑くない。


---


「……様子がおかしいな」


料理長がぼそりと言った。


「そうでしょうか」


「ふわふわしてる」


鋭い。


私は平然を装いながら、焼き上がったパンを確認する。


「問題ありません」


「仕事はな」


うぐ。


否定できない。


---


昼前。


ようやく少し休憩が取れた私は、中庭のベンチへ腰を下ろした。


風が気持ちいい。


「……落ち着きましょう」


そう呟いて、自分の頬を軽く押さえる。


すると。


「何をしている」


低い声が降ってきた。


「っ!」


顔を上げる。


アルフレッドだった。


今日は王子らしい正装姿。


……昨日との差がすごい。


「お、お疲れさまです」


危ない。


今、普通に“アル”って言いそうになった。


彼は私の隣へ腰を下ろす。


「仕事はどうだ」


「順調です」


「そうか」


短い会話。


でも。


隣にいるだけで、妙に落ち着かない。


沈黙が落ちる。


風が木々を揺らした。


その時。


「……まだ赤いな」


ぼそりと落ちた声。


「だ、誰のせいですか!」


思わず小声で抗議すると、彼は少しだけ目を細めた。


「私だな」


ずるい。


本当にずるい。


---


その時だった。


「兄上ー!」


元気な声が中庭へ響く。


嫌な予感しかしない。


ルシアンだった。


「うわ、本当にいた」


「何だ」


「いや? 最近、兄上が休憩時間になると消えるから?」


鋭い。


ルシアンはにやにやしながら私を見る。


「義姉上、顔赤い」


「誰が義姉上ですか!」


「え、でも昨日デートしてたんでしょ?」


ぶふっ。


私は盛大にむせた。


「な、何で知ってるんですか!?」


「兄上、昨日すごい機嫌良かった」


最悪である。


アルフレッドは平然としていた。


「問題あるか」


「ないけど、分かりやすすぎるでしょ」


ルシアンはけらけら笑う。


「で? 何したの?」


「言う必要はない」


即答だった。


「えー、気になる!」


「知らん」


「え、手繋いだ?」


私は固まった。


「したんだ!」


「うるさいです!」


ルシアンが爆笑する。


アルフレッドは小さくため息をついた。


「騒がしいな」


「兄上が原因でしょ!」


その時。


ルシアンの視線が、私の持っていた紙袋へ向いた。


「あ、それ何?」


「え?」


「甘い匂いする」


しまった。


昨日の残りのクッキーだった。


「……見るな」


アルフレッドが低く言う。


ルシアンが目を丸くした。


「え、兄上怖っ」


「触るな」


「そんな大事なの!?」


私は思わず顔を覆いたくなった。


ルシアンは数秒黙り――


そして。


「兄上、独占欲やばくない?」


アルフレッドは真顔だった。


「当然だ」


「兄上!?」


「殿下!?」


私は一気に顔が熱くなる。


ルシアンは腹を抱えて笑っていた。


「ははっ、面白すぎる!」


最悪だ。


本当に最悪である。


その時。


アルフレッドがふっとこちらを見る。


「……アメリア」


「な、何ですか」


「また作れ」


視線が、紙袋へ向く。


「美味かった」


胸が、熱くなる。


「……特に、あの塩加減がいい」


私は思わず目を見開いた。


気づいていた。


あの少しだけ入れた岩塩に。


「……分かるんですね」


小さく呟くと、


彼は少しだけ目を細めた。


「お前が考えた味だ」


その一言に、また顔が熱くなる。


ずるい。


本当に、この人はずるい。


こうして悪役令嬢は――


お忍びデートの余韻に振り回されながら、少しずつ“恋人らしい日常”に慣れていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ