第90話 悪役令嬢、妹との時間を大切にします
セシリアが帰るまで、あと三日。
思っていたより短い。
だからこそ――私は決めた。
「……よし」
厨房で小さく呟く。
「何が“よし”ですか」
背後からエマの声。
もう驚かない。
「セシリアと、ちゃんと過ごします」
「それは良いことですね」
あっさり肯定された。
少し拍子抜けする。
「止めないんですね」
「止める理由がありません」
当然のように言う。
「仕事は?」
「終わらせます」
「なら問題ありません」
簡単に言わないでほしい。
だが、やるしかない。
私は気合いを入れてパン生地をこねた。
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その日の午後。
私はセシリアを中庭へ誘った。
「まあ、お姉様からお誘いなんて珍しいですわ」
「たまにはいいでしょう?」
「もちろんですわ!」
ぱっと表情が明るくなる。
やはり、この子はこうでないと。
中庭は春の花が咲き、やわらかな風が吹いていた。
ベンチに並んで座る。
「お姉様、お忙しいのに大丈夫ですの?」
「今日は少しだけ休憩」
「まあ……!」
驚かれた。
そんなに珍しいだろうか。
……珍しいかもしれない。
「でも、嬉しいですわ」
セシリアがにこっと笑う。
その笑顔を見ているだけで、胸があたたかくなる。
「何かしたいことはある?」
「お姉様とお話しするだけで十分ですわ」
「それは少し寂しいわね」
「では……昔みたいに、お菓子を作りません?」
その一言に、思わず笑ってしまった。
「いいわね」
「本当ですの!?」
「ええ。簡単なものなら」
「楽しみですわ!」
セシリアが嬉しそうに手を握ってくる。
こういうところは昔のままだ。
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厨房に戻り、簡単なお菓子作りを始める。
今日は――
「“はちみつバターのミニパン”にしましょう」
「可愛らしいですわ!」
「とても簡単よ」
私は手際よく説明しながら作業を進める。
【はちみつバターのミニパン】
・丸めたパン生地を小さく並べる
・焼き上がったら、バターを少しのせる
・仕上げにはちみつを軽くかける
「これだけ?」
「これだけ」
「簡単ですのに、とても良い香り……!」
焼き上がる頃には、厨房に甘い香りが広がった。
セシリアが目を輝かせる。
「お姉様、さすがですわ!」
「大げさよ」
「大げさではありません!」
楽しそうで何よりだ。
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焼きたてを少しだけ皿に取り分け、中庭へ戻る。
「いただきます」
「いただきます」
一口かじる。
外はほんのりさくっとして、中はふんわり。
はちみつのやさしい甘さが広がる。
「……美味しいですわ」
セシリアが嬉しそうに言う。
「そうね」
自然と笑顔になる。
「昔もこうして一緒に作りましたわね」
「ええ。よく粉まみれになって」
「お姉様の方がひどかったですわ」
「それはあなたでしょう」
言い合いながら、二人で笑う。
その時間が、とても心地いい。
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少し離れた場所。
木陰の向こうに、見慣れた影があった。
……アルフレッド。
こちらには来ない。
ただ、静かに様子を見ている。
邪魔をしないように。
その距離が、ありがたかった。
私は小さく息を吐く。
本当にずるい人だ。
でも――
そのやさしさに、少しだけ甘えてもいいと思えた。
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「お姉様?」
「何でもないわ」
私は微笑んだ。
残りの時間を、大切にしよう。
こうして悪役令嬢は――
妹とのかけがえのない時間を、ひとつひとつ刻んでいくのだった。




