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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第9話 冷徹王子、婚約破棄を謝ります

翌朝。


私はいつものように王城厨房で朝食の準備をしていた。


今日は焼きたてのハーブパンに、きのこと鶏肉のクリームシチュー。


昨夜ほとんど眠れていない身体には少し重いが、王族たちは朝から元気なので問題ないだろう。


「アメリア様、第二王子殿下は熱が下がったそうです!」


侍女が嬉しそうに知らせてくれた。


「それは良かった」


胸のつかえが、少しだけ軽くなる。


「ただ、朝食は部屋で召し上がるそうです」


「では後で届けます」


そう答えた時だった。


「……先に私の分を用意しろ」


低い声が入口から響く。


振り向けば、アルフレッド。


今日も無駄に顔がいい。


「挨拶もなしですか」


「必要か」


「人としては必要です」


「……おはよう」


「よろしい」


厨房の者たちが震えている。


王子に朝の挨拶をやり直させる令嬢など、私くらいだろう。


私はパンを籠に入れながら尋ねた。


「今日は機嫌が悪そうですね」


「普通だ」


「昨日より眉間のしわが深いです」


「余計なお世話だ」


図星らしい。


私は出来上がった朝食を盆に載せ、食堂へ向かおうとした。


その時、アルフレッドが静かに言った。


「……少し、時間をくれ」


珍しい声音だった。


私は足を止める。


「なんですか」


「ここでは話しにくい」


私は厨房の裏手にある小さな中庭へ連れて行かれた。


朝露に濡れた花壇。

誰もいない静かな場所だ。


アルフレッドはしばらく黙っていた。


いつも即断即決の人が、珍しく言葉を選んでいる。


やがて、低い声が落ちた。


「婚約破棄の件だ」


私は目を瞬く。


「ああ」


「……あの時は、すまなかった」


風が止まった気がした。


アルフレッドはまっすぐ前を見たまま続ける。


「証拠も不十分なまま、お前を断罪した」


「えらく今さらですね」


「分かっている」


「私、国外追放されかけたんですが」


「それも分かっている」


私は腕を組んだ。


怒っていないわけではない。


けれど、こうして謝られると、用意していた文句が少しだけ言いづらい。


「……なぜ今になって?」


アルフレッドは眉を寄せた。


「お前を見誤っていたと分かった」


「料理人だと?」


「そこだけではない」


珍しく言葉が続く。


「使用人を助け、ルシアンを気遣い、誰に対しても態度を変えない」


私はなんだか居心地が悪くなった。


真正面から褒められるのは苦手だ。


「褒めても朝食は増えませんよ」


「増やせとは言っていない」


「昨日おかわりしましたよね」


「……必要量だ」


私は吹き出しそうになる。


アルフレッドは一度息を吐き、私を見る。


「許せとは言わない。ただ、謝罪だけはしておきたかった」


その顔は、いつもの冷徹王子ではなかった。


不器用で、真面目で、少しだけ困った男の人だった。


私はしばらく考え――肩をすくめた。


「では罰として、今日から挨拶をきちんとしてください」


「……それだけか」


「あと、命令口調も減点対象です」


「難題だな」


「努力してください」


アルフレッドの口元が、わずかに緩んだ。


その時、中庭の入口から元気な声が響く。


「兄上ー! 熱下がったから来たよ!」


ルシアンである。


しかも走っている。


「寝ていろ!」


「治ったもん!」


私は額を押さえた。


「病み上がりで全力疾走しないでください」


「アメリアがいるから元気出た!」


「便利な薬扱いしないでください」


ルシアンは笑い、アルフレッドは深いため息をついた。


さっきまでの真面目な空気が一瞬で吹き飛ぶ。


けれど私は、少しだけ胸の奥があたたかかった。


こうして冷徹王子の謝罪は、騒がしい朝の中で静かに受け取られたのだった。

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