表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/160

第82話 悪役令嬢、王子に堂々と紹介されます

大広間に、静寂が落ちていた。


先ほどまで満ちていたざわめきが、嘘のように消えている。


私はアルフレッドと並び、赤い絨毯の上をゆっくり進んでいた。


視線が痛い。


いや、痛いを通り越して熱い。


「あの方が……」


「本当にアメリア・フォン・ローゼリア?」


「まるで別人だ……」


聞こえている。


全部聞こえている。


帰りたい。


「姿勢を正せ」


隣から低い声が飛んできた。


「誰のせいでこうなっていると」


「私の隣にいるからだ」


即答だった。


反論できないのが悔しい。


やがて、広間の中央へ辿り着く。


正面には国王陛下と王妃様が座っていた。


王妃様は満面の笑みである。


嫌な予感しかしない。


その隣ではルシアンが今にも立ち上がりそうな顔をしていた。


落ち着いてほしい。


楽団の音が止む。


会場中の視線が、私たちに集まった。


アルフレッドが一歩前へ出る。


その横顔は静かで、凛としていて、誰より王子らしかった。


そして、よく通る声が響く。


「皆に紹介しよう」


胸が跳ねる。


「私の隣に立つ女性――アメリア・フォン・ローゼリアだ」


会場がざわめいた。


だが彼は止まらない。


「彼女は聡明で、誠実で、誰より人を思いやれる」


私は目を見開いた。


何を言っているの、この人は。


「そして」


彼がこちらを見る。


その眼差しは真っ直ぐで、逃げ場などどこにもない。


「私が、生涯を共にしたいと望んだ女性だ」


息を呑む音が、あちこちから聞こえた。


母が泣いている。


セシリアは両手で口を押さえて跳ねている。


父は腕を組んだまま、少しだけ目元が緩んでいた。


ルシアンは感極まって拍手を始めた。


早い。


王妃様まで拍手している。


陛下も笑っている。


止める者が誰もいない。


私は顔が熱くなるのを感じながら、小声で言った。


「……打ち合わせと違います」


「していない」


「していないからです」


アルフレッドはわずかに口元を上げた。


「まだ終わっていない」


嫌な予感しかしない。


彼は私の手を取り、指先へ口づける。


会場がどよめいた。


「本日ここに、彼女との婚約を正式に披露する」


今度こそ、大歓声が上がった。


楽団が一斉に華やかな曲を奏で始める。


花びらまで降ってきた。


誰の演出ですか。


王妃様が満足そうに頷いている。


犯人が分かった。


私はくらくらしながらアルフレッドを見る。


「……恥ずかしすぎます」


「そうか」


「少しは反省してください」


「無理だ」


即答だった。


その声は、驚くほど穏やかだった。


「お前を誇りたかった」


その一言に、胸の奥が熱くなる。


ずるい。


本当にずるい人だ。


私は観念して背筋を伸ばし、会場へ向き直る。


もう隠れない。


もう逃げない。


私は彼の隣に立つと決めたのだから。


こうして悪役令嬢は――王子に堂々と、未来の伴侶として紹介されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ