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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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第81話 悪役令嬢、最高の笑顔で扉を開きます

婚約披露会、開宴十分前。


私は大広間へ続く控室で、人生最大級に緊張していた。


手が冷たい。


足も少し震える。


逃げたい。


窓から庭へ出て、そのまま厨房へ走りたい。


「無理です」


「何がですか」


エマが即答した。


「全部です」


「却下です」


非情である。


私は深く息を吸い、鏡を見る。


淡いクリーム色のドレス。


髪には真珠と小花の飾り。


胸元には、あの日はめられた蒼石の指輪。


そこに映るのは、少しだけ背筋を伸ばした私だった。


扉が開く。


「お姉様!」


飛び込んできたのはセシリアだった。


今日は淡い桃色のドレス姿で、くるくると私の周りを回る。


「きゃあ……! 本当にお綺麗ですわ! 女神ですわ!」


「大げさよ」


「全然足りません!」


その後ろから、父と母も姿を見せた。


父、レオナルド・フォン・ローゼリア。


母、ヴィクトリア・フォン・ローゼリア。


二人とも正装姿で、少し緊張しているようだった。


母は私を見るなり口元を押さえた。


「ああ……アメリア……」


「お母様?」


「小さい頃、カーテンを引きずって花嫁ごっこをしていた子が……」


「その話、今します?」


涙ぐむのが早い。


父はしばらく黙って私を見つめ、それから一度だけ大きく頷いた。


「……立派だ」


その短い言葉に、胸が熱くなる。


セシリアはもう泣いていた。


早い。


「お姉様ぁ……幸せになってくださいませぇ……」


「まだ披露会始まっていないわよ」


「もう感動で限界ですわ!」


その時、控室の空気がすっと変わった。


扉の前に、アルフレッドが立っていた。


濃紺の礼服姿。


いつも通り整っていて、やはり少し腹が立つほど格好いい。


だが彼は家族を見ると、静かに一礼した。


「お時間をいただきます」


父が厳しい顔で頷く。


「娘を頼みます」


「既にそのつもりです」


即答だった。


母がまた泣いた。


セシリアは「きゃー!」と小声で騒いでいる。


エマだけが平常運転である。


アルフレッドが私の前に立つ。


「行けるか」


「……少しだけ、逃げたいです」


「却下だ」


エマと同じことを言った。


彼は小さく笑い、私に手を差し出す。


「では、共犯者として連行する」


「言い方がひどいです」


でも、その手はとても頼もしかった。


私はそっと重ねる。


扉の向こうから、ざわめきが聞こえる。


貴族たち。


王妃様。


ルシアン。


そして、この先に待つ新しい未来。


緊張は消えない。


でも、不思議と怖くなかった。


「アメリア」


「はい」


「笑え」


「命令ですか?」


「頼みだ」


私は思わず笑ってしまう。


「……ずるい人」


「知っている」


扉がゆっくりと開かれた。


光に満ちた大広間。


視線が一斉に集まる。


ひそひそと噂していた者たちの声が、ぴたりと止んだ。


その中を、アルフレッドと並んで歩く。


彼の手は強く、けれど優しく私を支えていた。


客席の端で、父が静かに胸を張っている。


母は涙をぬぐい、セシリアは全力で手を振っていた。


少し恥ずかしい。


でも、嬉しい。


私は前を向く。


もう逃げない。


悪役令嬢だった私が、今ここで――


最高の笑顔で、未来への扉を開いたのだった。

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