第74話 悪役令嬢、王妃のお茶会で試されます
「本日は、楽しみにしていましたよ」
王妃は朝から満面の笑みだった。
その笑みが少し怖い。
私はエマに整えてもらった淡い水色のドレス姿で、王妃の私室へ向かっていた。
本日は王妃主催のお茶会。
招かれているのは、王都でも名のある貴婦人たちと、その令嬢たちだという。
つまり――
「完全に品定めの場では?」
「その通りかと」
エマが即答した。
「否定してください」
「ですが、ご安心を。今日は私もおります」
頼もしいが、問題はそこではない。
「アメリアさん、そんな顔をしてはだめですよ」
王妃がくすくす笑う。
「今日はただのお茶会です」
絶対に違う。
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会場となるサロンは、花々と香り高い茶葉で彩られていた。
丸いテーブルがいくつも並び、上品な婦人たちが優雅に会話している。
私が入った瞬間、視線が集まった。
帰りたい。
「こちらがアメリアさんです」
王妃が楽しそうに紹介する。
「まあ……」
「お綺麗ですこと」
「噂以上ですわ」
本音か社交辞令か分からない。
笑顔で頭を下げるだけで精一杯だった。
席に着くと、隣には年若い令嬢が座った。
柔らかな栗色の髪に、愛らしい笑顔。
「はじめまして。ミレーユと申します」
「アメリアです。よろしくお願いします」
「お料理がお得意と伺いました!」
目が輝いている。
いい子そうだ。
少し安心した。
だが向かいの席から別の声がした。
「料理人が王子妃候補とは、珍しい時代ですわね」
空気がぴしりと張る。
言ったのは華やかな赤いドレスの令嬢だった。
扇子を口元に当て、こちらを見ている。
王妃は微笑んだまま紅茶を飲んでいる。
助ける気はないらしい。
「……そうですね」
私はカップを置いた。
「ですが、お腹が空けば身分ある方も機嫌が悪くなりますし、良い食事は国を丸くします」
一瞬、沈黙。
それから数人が吹き出した。
ミレーユ嬢は目を丸くし、次の瞬間くすくす笑う。
赤いドレスの令嬢も、悔しそうにしながら黙った。
王妃が満足そうに頷く。
「良い返しです」
試していたな、この人。
その後は紅茶や菓子の話題になり、空気も和らいだ。
私は少しだけ肩の力を抜く。
するとミレーユ嬢が小声で言った。
「実は私、殿下よりアメリア様に興味があります」
「私ですか?」
「はい。自分の力で道を切り開いた女性って素敵ですもの」
思わず言葉を失った。
そんなふうに見てくれる人もいるのか。
その時、会場の扉が開いた。
「失礼する」
聞き慣れた低い声。
全員の視線が一斉に向く。
アルフレッドだった。
なぜ来たのですか。
王妃が涼しい顔で言う。
「少し遅いですよ」
「呼び出されたので来ただけです」
やはりあなたですか、王妃。
アルフレッドはまっすぐこちらへ来ると、私の隣で足を止めた。
「問題はなかったか」
「い、いえ」
「そうか」
それだけ言って、自然に私の後ろへ立つ。
護衛のように。
令嬢たちの視線が熱い。
ミレーユ嬢は嬉しそうに小声で言った。
「噂以上ですわ……!」
何の噂だろう。
知りたくない。
王妃は楽しそうに手を打った。
「では皆様、本日の主役がそろいましたし、次は庭園で写真――いえ、記念散歩でも」
今、妙な言葉が混じった。
こうして悪役令嬢は――王妃様のお茶会で、しっかり試されるのだった。




