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悪役令嬢ですが、王宮厨房から王太子妃になりました  作者: 星乃茶々


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第71話 悪役令嬢、最強侍女の本気を知ります

花嫁修業二日目。


私は朝から歩き方の練習をしていた。


本を頭に乗せ、背筋を伸ばし、優雅に前へ進む。


昨日は三歩で落ちた本も、今日は七歩まで持つようになった。


成長である。


「素晴らしいです、アメリア様」


エマが静かに拍手した。


「本当ですか?」


「はい。この調子なら十歩も夢ではありません」


微妙に現実的だ。


その時、廊下の向こうから騒がしい声が聞こえた。


「だから通せと言っているだろう!」


聞き慣れない男の声だった。


私は足を止める。


数秒後、練習室の扉が勢いよく開いた。


入ってきたのは、派手な服装の若い貴族だった。


金の刺繍入りの上着に香水の匂い。


笑顔だけはやけに自信満々である。


「おや、本当にいた。噂のアメリア嬢」


「ど、どなたですか?」


「グランツ伯爵家の次男、レオンだ」


知らない。


全く知らない。


彼はずかずかと部屋へ入り、私の前まで来た。


「君の噂は聞いているよ。王子殿下のお気に入りだとか」


言い方が気に入らない。


「本日は何のご用でしょうか」


私が警戒すると、レオンは芝居がかった笑みを浮かべた。


「ぜひ私とも親しく――」


その瞬間だった。


すっとエマが私の前に出る。


音もなく。


気づけば、完全に私を背中へ隠していた。


「お下がりください」


声は静かだった。


だが空気が変わった。


レオンが眉をひそめる。


「侍女風情が邪魔をするな」


「三歩下がってください」


「は?」


「今なら穏便に済みます」


怖い。


私まで少し震えた。


レオンは鼻で笑い、エマの肩に手を伸ばした。


次の瞬間。


見えなかった。


本当に見えなかった。


気づけばレオンは床にうつ伏せで転がり、腕を背中で押さえられていた。


「痛っ! 何をした!?」


「護身術です」


エマは無表情のまま答える。


「離せ! 無礼だぞ!」


「女性の部屋へ無断侵入した方が無礼です」


正論だった。


私は口を開けたまま固まる。


強い。


めちゃくちゃ強い。


「エ、エマさん……」


「ご安心ください、アメリア様。骨は折っておりません」


確認そこなのか。


騒ぎを聞きつけ、廊下から数人の騎士が駆け込んできた。


その先頭にはアルフレッドがいた。


「何があった」


低い声に部屋が凍る。


レオンは青ざめた。


「で、殿下! これは誤解で――」


「誤解?」


アルフレッドの視線が冷たい。


氷より冷たい。


エマは淡々と説明した。


「無断侵入、接近、不適切発言、接触未遂です」


簡潔なのに重い。


「連れて行け」


アルフレッドが言うと、騎士たちは即座にレオンを引きずっていった。


部屋が静かになる。


私はまだ呆然としていた。


アルフレッドがこちらを見る。


「無事か、アメリア」


「は、はい……」


「怖い思いをさせた」


そう言って私の肩に触れた手は、驚くほど優しかった。


そして彼はエマへ視線を向ける。


「助かった」


「当然の任務です、殿下」


「褒美は後で出す」


「では新しい手袋を」


現実的だった。


アルフレッドは小さく息を吐き、私を見る。


「……やはり、お前のそばにはエマを置く」


「今ので反対する人はいません」


私は即答した。


エマは一礼し、静かに告げる。


「今後もアメリア様には指一本触れさせません」


頼もしすぎる。


こうして悪役令嬢は――専属侍女が想像以上に最強だったことを知るのだった。

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