第7話 王妃様のお茶会は大成功、けれど第二王子が来ません
昨夜の徹夜騒動から数時間後。
私はほとんど寝ていない目をこすりながら、王妃主催のお茶会会場へ立っていた。
(眠い……)
だが弱音を吐いている場合ではない。
白いクロスが掛けられた長テーブルには、朝までかけて仕上げた焼き菓子やケーキが美しく並べられている。
香ばしいクッキー。
果実をたっぷり使ったタルト。
ふわふわのシフォンケーキ。
見習い菓子職人と一緒に考えた、新作のはちみつナッツパイ。
王妃セレナは満足げにうなずいた。
「素晴らしい出来ね」
「なんとか間に合いました」
「“なんとか”で済ませる量ではないわ」
その通りである。
招待された貴婦人たちも次々と会場へ入り、華やかな笑い声が広がっていく。
「まあ、このタルトとても美味しいわ!」
「こちらのケーキも軽やかですこと」
「王妃様、ぜひ作り方を知りたいですわ」
称賛の声が上がるたび、厨房の者たちが隅でこっそり喜んでいた。
見習い菓子職人など、感動で泣きそうになっている。
「よかったですね」
私が声をかけると、彼は何度も頭を下げた。
「アメリア様のおかげです……!」
「次はまたたび抜きでお願いします」
「もう二度としません!」
私は思わず笑ってしまった。
その時、入口付近が少しざわめいた。
アルフレッドが姿を現したのだ。
今日も無駄に顔がいい。
王子の登場に令嬢たちの視線が一斉に集まる。
しかし彼は周囲など気にも留めず、真っ直ぐこちらへ歩いてきた。
「……成功したようだな」
「ええ、おかげさまで」
「私のおかげではない」
「では誰のおかげで?」
「お前だ」
思わず言葉を失う。
褒められた……のだろうか。
アルフレッドは気まずそうに視線をそらした。
「母上が喜んでいる」
見ると、王妃は貴婦人たちに囲まれながら上機嫌だった。
「それは何よりです」
私は胸をなで下ろした。
その時だった。
「……あれ?」
私は会場を見回した。
いつもなら甘い匂いを嗅ぎつけて真っ先に現れる人物がいない。
「ルシアン殿下は?」
アルフレッドの表情がわずかに曇る。
「今日は朝から姿を見ていない」
「珍しいですね」
「あいつはこういう場が好きだ」
確かに、菓子が並ぶ場所を欠席するとは思えない。
王妃も気づいたらしく、侍女へ声をかけた。
「ルシアンはまだ来ないの?」
侍女は困った顔で頭を下げた。
「それが……第二王子殿下は今朝からお部屋でお休みになられております」
空気が変わった。
「休み?」
王妃の声が低くなる。
侍女はさらに小さくなった。
「熱があるようで……医師をお呼びしております」
私の胸がざわついた。
いつも騒がしいほど元気なルシアンが、熱で寝込んでいる。
アルフレッドはすでに踵を返していた。
「どこへ」
「決まっている」
短く答える声は、いつもより硬い。
私は一瞬迷い――すぐに決めた。
「厨房をお借りします」
「何をする気だ」
「病人に必要なのは、薬だけではありません」
私はスカートの裾を持ち上げ、走り出した。
(待っていてください、ルシアン)
こうして王妃のお茶会は大成功のうちに終わり、私は第二王子のもとへ向かうことになった。




