第6話 悪役令嬢、砂糖騒動を華麗に解決します
夜の王城厨房は、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
その中央で、料理長が頭を抱えている。
「明日の朝、王妃様のお茶会用菓子を作る予定だったんだ……! 砂糖がなければ何もできん!」
侍女たちも料理人たちも青ざめていた。
私は腕を組む。
「消えた量は?」
「焼き菓子用に小分けしていた一キロ袋が六つです」
「それならまだ運べますね」
「誰かが持ち出したとしか……」
私は食材庫へ向かった。
棚には袋がなくなった跡。
床には白い粉が、ところどころに落ちている。
指で触れて確かめる。
「砂糖ですね」
「……見れば分かります」
料理長が疲れた声で言った。
「確認は大事です」
私は床の跡を追った。
白い粉は廊下へ続き、途中から大きく散らばっている。
その先には、丸く小さな足跡がいくつもついていた。
「猫……?」
侍女が目を丸くする。
私はうなずいた。
「ええ。ですが、猫が砂糖を盗んだわけではありません」
私は廊下の隅に落ちていた袋の切れ端を拾い、匂いをかいだ。
甘い香りの奥に、独特の刺激臭が混じっている。
「またたびです」
全員が固まった。
「誰かが袋にまたたびを付けたんです。猫が集まって袋に飛びつき、引っかいて破れたのでしょう」
「なぜそんなことを……」
「犯人に聞きましょう」
私は足跡と砂糖の跡を追って、裏庭の物置小屋へ向かった。
扉を開けると――。
そこには、破れた砂糖袋の前で青ざめて座り込む若い見習い菓子職人と、彼の周りでご機嫌な猫たちがいた。
「す、すみません!!」
彼は勢いよく頭を下げた。
「新作菓子の練習をしたくて、夜のうちに少し借りようと思ったんです……! でも見つかるのが怖くて……」
「それで?」
「猫が好きなので、またたびを袋につけたら静かについて来るかと……」
「結果、猫大集合ですね」
侍女たちが吹き出した。
見習いは涙目でうなずく。
「途中で袋が破れて、猫が飛びついて、どうしていいか分からなくて……」
料理長が怒鳴る。
「馬鹿者! なぜ相談しなかった!」
「すみません!」
私は袋の中身を確認した。
「こぼれた分はありますが、使える量は十分残っています」
その一言で、厨房の空気が明るくなった。
「では今から作りましょう。朝までに間に合わせます」
「今からですか!?」
「あなたの新作菓子も、一緒に考えてあげます」
見習いは目を丸くした。
「……本当に?」
「失敗した時こそ学ぶものです」
彼の目に涙がにじむ。
その時、入口から低い声が響いた。
「騒がしいと思えば、何をしている」
振り向けば、アルフレッド。
その後ろには眠そうなルシアンまでいた。
「兄上……甘い匂いがする……」
「夜食ですか?」
私はにっこり笑った。
「違います。徹夜のお菓子作りです」
二人の王子は同時に顔をしかめた。
こうして深夜の王城厨房では、悪役令嬢指揮のもと、朝までお菓子作りが始まった。




