第5話 悪役令嬢の一日は、朝から晩まで休めません
王妃付き朝食係に任命されて三日目。
私はようやく悟った。
(……これ、追放より忙しいのでは?)
朝は日の出とともに起床。
まだ眠たい目をこすりながら厨房へ向かい、王妃と王子たちの朝食を作る。
今日は焼きたてのチーズオムレツと香草パン、それに果実のヨーグルト添えだ。
「今日も美味しいわ」
王妃セレナは優雅に微笑み、
「僕、おかわり!」
ルシアンは元気いっぱい皿を差し出し、
「……私の分も追加だ」
アルフレッドは当然の顔で二皿目を要求した。
「王族の食欲、どうなってるんですか」
私は朝からため息をついた。
朝食を終えると、そのまま王城厨房へ戻る。
昼は厨房の仕事だ。
「アメリア様、このソースが重たい気がして……」
「煮詰めすぎです。少し牛乳を入れてください」
「こちらの焼き菓子が固くて……」
「混ぜすぎですね。生地は優しく扱って」
「このスープ、塩が強いです!」
「それは入れすぎです」
気づけば、料理相談所のようになっていた。
最初はよそよそしかった料理人たちも、今では次々と話しかけてくる。
侍女たちは休憩時間になると、私の周りに集まった。
「アメリア様、今日の髪飾り素敵です!」
「それ、前の婚約者時代の物です」
「えっ、捨てなくていいんですか?」
「高かったので」
皆が吹き出した。
午後になると、ようやく少し自由時間ができる。
私は庭園の隅にある小さな菜園へ向かった。
ハーブや野菜が植えられており、最近は私の管理区域になっている。
「ミントは元気ね。ローズマリーもいい香り」
しゃがみ込んで葉を整えていると、影が差した。
「こんな所にいたのか」
アルフレッドだった。
「仕事をさぼっているわけではありません」
「分かっている」
彼は私の隣に立ち、菜園を見下ろした。
「それは何だ」
「バジルです」
「食えるのか」
「食べ物以外に見えます?」
「草に見える」
「失礼ですね」
そのやり取りに、自分でも少し笑ってしまう。
そこへ今度は駆け足の音。
「兄上だけずるい!」
ルシアンである。
「僕もアメリアとお話しする!」
「静かに来てください」
「無理!」
無理らしい。
結局、二人の王子に挟まれながら、私はハーブの説明をする羽目になった。
そして夜。
ようやく自室へ戻り、椅子に座った私は天井を見上げた。
「疲れた……」
その瞬間、扉が叩かれる。
「アメリア様、大変です!」
侍女が青い顔で飛び込んできた。
「厨房の食材庫から、大量の砂糖が消えました!」
私はゆっくり立ち上がった。
(……休ませる気、ないのね)
こうして悪役令嬢の長い一日は、まだ終わらなかった。




