第4話 王妃様、朝食よりアメリアに興味津々です
王妃に呼ばれた私は、豪華すぎる朝の間へ案内されていた。
磨き上げられた大理石の床。
天井には大きなシャンデリア。
窓辺には朝日を浴びた花々。
(落ち着かない……)
追放予定の悪役令嬢が来る場所ではない。
私は銀のワゴンに朝食を乗せ、深呼吸した。
今日の献立は、焼きたてのフレンチトースト。
卵とミルクをたっぷり染み込ませたパンを、バターで香ばしく焼き上げ、蜂蜜と果実を添えた一皿だ。
「入れ」
低い声がした。
振り向くと、扉の横にアルフレッドが立っていた。
「殿下もいるんですか」
「母上が来いと言った」
「巻き添えですね」
「……否定はしない」
珍しく素直である。
そのまま部屋へ入ると、奥の椅子に一人の女性が座っていた。
銀色の髪を美しく結い上げ、青い瞳は静かで鋭い。
年齢を感じさせぬ気品と威厳。
この国の王妃、セレナ・ルミエールその人だった。
「初めまして、アメリア・フォン・ローゼリア」
声は穏やかだが、逃げ場のない迫力がある。
私は礼をした。
「お呼びいただき光栄です」
「堅い挨拶はいいわ。朝食を見せてちょうだい」
私はフレンチトーストを差し出した。
王妃はナイフで一口大に切り、口へ運ぶ。
部屋が静まり返る。
アルフレッドも無言で見守っていた。
やがて王妃は目を細める。
「……おいしいわね」
その一言で、侍女たちがほっと息をついた。
「ありがとうございます」
「甘さが上品だわ。しつこくない。香りも良い」
「蜂蜜を少なめにして、果実の酸味を生かしました」
「まあ」
王妃は楽しそうに笑った。
「料理の説明までできるのね」
私は少し胸を張る。
「食べるのも作るのも好きですので」
「気に入ったわ」
早い。
私は瞬きをした。
「料理が、ですか?」
「あなたがよ」
予想外だった。
思わず固まる私の横で、アルフレッドが小さく咳払いした。
「母上」
「何かしら?」
「からかうのはやめてください」
「本気だけれど?」
アルフレッドが黙った。
珍しい光景である。
そこへ勢いよく扉が開いた。
「母上! 僕も呼ばれてないのに来ました!」
ルシアンである。
「やっぱり甘い匂いがした!」
「あなたは鼻だけは優秀ね」
王妃はため息をついた。
ルシアンは私の前まで来ると、きらきらした目で言った。
「アメリア、僕の分は?」
「ありません」
「ひどい!」
「勝手に来たからです」
「兄上の分はあるのに!?」
アルフレッドが静かに告げる。
「当然だ」
「なにその当然!?」
兄弟の言い争いが始まりそうになる。
王妃はそれを見て、楽しげに笑った。
「賑やかでいいわね」
そして紅茶を一口飲み、さらりと言った。
「アメリア、明日から毎朝ここへ来なさい」
部屋が凍りついた。
「……は?」
私の声が漏れる。
アルフレッドが眉をひそめ、ルシアンは歓声を上げた。
「やった!」
やっていない。
私は天を仰いだ。
(追放予定だったはずなのに、なぜ仕事が増えているの)
こうして私は、王妃付き朝食係に任命されてしまった。
【新登場人物】
✦セレナ・ルミエール
この国の王妃。アルフレッドとルシアンの母。明るく行動力があり、二人の恋を後押ししている。




