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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第3話 第二王子、朝食戦争を始めます

翌朝、王城厨房は昨日以上のざわめきに包まれていた。


「また来るかな……」


「今日は第二王子殿下も来るんじゃ?」


「というか、もう来てる」


その一言に、全員が入口を見る。


そこには、にこにこと手を振る銀髪の少年――第二王子ルシアンがいた。


「おはよう!」


早い。


早すぎる。


「なぜ開店前にいるんですか」


私は野菜を切りながら尋ねた。


「兄上に負けたくないから!」


「何の勝負です?」


「朝食戦争!」


勝手に始めないでほしい。


ルシアンは楽しそうに厨房の椅子へ座った。


「今日は僕が一番乗りだから、最初の一皿は僕のだよね?」


「そんな制度はありません」


「今できた」


「できていません」


朝から元気すぎる。


私はため息をつきながら、今日の朝食を作り始めた。


今日は焼きたてのクロックムッシュ風ホットサンド。


香ばしく焼いたパンに、薄切りハムととろけるチーズ。


特製ホワイトソースを重ね、表面をこんがり焼き上げる。


じゅわっと香るバターの匂いに、厨房中の視線が集まった。


「すごい……」


「朝から贅沢……」


ルシアンは目を輝かせている。


「早く! 早く!」


「落ち着いてください」


皿に盛りつけ、ルシアンの前へ置いたその瞬間。


「……何をしている」


低い声が響いた。


全員の背筋が伸びる。


第一王子アルフレッドである。


今日も無駄に顔がいい。


そして機嫌が悪そうだ。


「兄上、遅いよ!」


「遅くない。お前が早すぎる」


「今日は僕が一番だから、最初の一皿は僕の勝ち!」


「勝負などしていない」


「してるよ。僕の中で」


私は頭痛を覚えた。


(本当に面倒だわ)


アルフレッドは私の手元を見る。


「……私の分は」


「あります」


「先に言え」


「聞かれる前に答える義務はありません」


厨房の者たちがひそかに震えている。


王子相手にこの会話をする令嬢は、私くらいだろう。


私は二皿目を用意し、アルフレッドへ差し出した。


彼は無言で一口食べ、静かに目を閉じた。


「……うまい」


「でしょ!」


なぜかルシアンが誇らしげだった。


「お前が作ったのではない」


「でも僕が先に食べた!」


「意味が分からん」


二人の視線がぶつかる。


厨房の空気がぴりついた、その時。


「アメリア様!」


侍女が駆け込んできた。


「王妃様が、ぜひ例の朝食を召し上がりたいと……!」


その場が静まり返る。


王妃。


この国で最も気品高く、そして最も恐れられている人物である。


ルシアンが青ざめた。


「……母上に知られたの?」


アルフレッドが眉をひそめる。


「面倒なことになったな」


私は天を仰いだ。


(なぜ朝食を作っていただけでこうなるの)


こうして私の王城厨房生活は、さらに騒がしくなっていくのだった。

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