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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第63話 悪役令嬢、告白の翌朝に顔を見られません

翌朝。


私は人生で初めて、厨房へ逃げ込んでいた。


まだ夜明け前だというのに、パン生地をこね、スープを煮込み、果物を切り分け、必要以上に働いている。


理由は一つ。


アルフレッドに会う勇気がない。


昨夜、鐘楼で。


『お前が好きだ』


そう、はっきり言われた。


しかも私は、その場でまともな返事もできず、顔を真っ赤にして逃げるように帰ってしまったのである。


思い出すだけで消えたくなる。


「アメリア」


料理長の声が飛んだ。


「はい!」


「そのパン、何個目だ」


「……十八個目です」


「朝食は王族四人分だぞ」


作りすぎていた。


「落ち着け」


「無理です」


即答だった。


料理長は呆れた顔でため息をつく。


「恋煩いか」


「ち、違います!」


「顔に書いてある」


そんな馬鹿な。


その時、厨房の扉が勢いよく開いた。


「おはようございます!」


元気いっぱいのルシアンである。


嫌な予感しかしない。


「アメリア! 聞いたよ!」


「何をですか」


「兄上、ついに言ったんでしょ!? “好きだ”って!」


私は持っていた木べらを落とした。


「な、なぜご存じなんですか!?」


「鐘楼、窓開いてたよ」


最悪だ。


「聞いていたんですか!?」


「途中からね!」


途中からでも十分最悪である。


料理長が腹を抱えて笑い始めた。


裏切り者が増えた。


ルシアンはにこにこしながら続ける。


「兄上ね、今朝すごく機嫌悪いよ」


「え?」


「アメリアが返事しなかったから」


胸が跳ねた。


「……返事」


そうだ。


私は返事をしていない。


嬉しすぎて頭が真っ白になって、そのまま逃げてしまったのだ。


「どうしよう……」


思わずしゃがみ込みそうになる。


ルシアンは明るく親指を立てた。


「大丈夫! 朝食の席で言えばいいよ!」


「無理です!」


「じゃあ紙に書く?」


「もっと無理です!」


そこへ再び扉が開いた。


空気が変わる。


振り向かなくても分かる。


アルフレッドだった。


黒の朝装に身を包み、いつも通り整った姿。


……ただし少し不機嫌そうだ。


ルシアンが小声で囁く。


「ほらね」


うるさい。


アルフレッドは厨房の中央まで歩いてきて、私を見た。


「朝食はまだか」


「も、もうすぐです!」


「そうか」


短い。


だが視線が離れない。


心臓がうるさい。


「……アメリア」


名前を呼ばれるだけで息が止まりそうになる。


「は、はい」


「昨夜の件だが」


やめてくださいここ厨房です。


料理人全員が耳を立てている。


「返事は」


直球だった。


私は真っ赤になって固まる。


料理長が背を向けて肩を震わせている。


笑うな。


「い、今ここでですか!?」


「駄目なのか」


「駄目です!」


「なぜだ」


「皆さまがいます!」


「気にしない」


私は気にする。


ルシアンが元気よく手を挙げた。


「僕たち空気になるよ!」


「なれません!」


アルフレッドは小さくため息をついた。


そして私の前まで来ると、誰にも聞こえないほど低い声で言った。


「……逃げるな」


その一言に、胸がきゅっとなる。


ずるい。


私はぎゅっとエプロンを握りしめた。


「……夕方」


「何だ」


「今日の夕方、庭園で……お返事します」


彼は数秒黙り、やがて小さく頷いた。


「分かった」


それだけ言って踵を返す。


去り際、ほんの少しだけ口元が緩んでいた。


ルシアンが叫ぶ。


「兄上、嬉しそうー!」


「黙れ」


即答だった。


厨房に笑い声が広がる。


私は熱くなった顔を隠しながら、深く息を吐いた。


こうして悪役令嬢は、告白の翌朝に逃げ回り――ついに、自分の返事を決めるのだった。

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