表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/62

第60話 冷徹王子、庭園の片隅で本音を漏らします

「彼女は私の隣だ」


その言葉の余韻がまだ庭園に残る中、私はアルフレッドに手を引かれたまま歩いていた。


「で、殿下、待ってください!」


「待たない」


「皆さまが見ています!」


「見せている」


本日二度目である。


私は抵抗むなしく、庭園の奥――噴水のそばにある木陰まで連れてこられた。


花壇に囲まれた静かな場所で、先ほどまでのざわめきが遠く聞こえる。


ようやく彼は足を止めた。


私は慌てて手を離す。


「……何をなさるのですか」


「回収した」


「私は荷物ではありません!」


「知っている」


「では何ですか!」


彼は少しだけ黙り、視線を逸らした。


その横顔が妙に真面目で、私は逆に落ち着かなくなる。


「……うるさかった」


「え?」


「お前の周りに男が集まりすぎていた」


心臓が跳ねた。


私は思わず瞬きを繰り返す。


「そ、それはお茶会ですし……」


「だから何だ」


「交流の場では?」


「必要ない」


暴論だった。


「皆さま、礼儀正しく話しかけてくださっただけです」


「気に入らない」


即答だった。


私は言葉を失う。


いつもの冷静な王子はどこへ行ったのか。


アルフレッドは眉を寄せたまま続ける。


「笑っていた」


「……はい?」


「お前が」


何だその理由は。


「会話中に笑うくらい普通です」


「他の男相手に、あまり笑うな」


またそれだ。


私は顔が熱くなるのを感じながら、必死に平静を装った。


「殿下は、私の保護者か何かですか」


「違う」


「では、上司?」


「違う」


「王子としての監督責任?」


「違う」


では何だというのか。


私が睨むと、彼はわずかに言葉に詰まった。


珍しい。


やがて、低い声でぽつりと告げる。


「……私が誰に、何を言われたら一番困るか、お前は分かっていない」


私は息を呑んだ。


それは、先日王妃様が言っていた言葉と似ていた。


欲しいものを欲しいと言えない人。


不器用で、遠回りばかりする人。


アルフレッドは私を真っ直ぐ見た。


「お前が他の者に取られるような話をされるのが、困る」


世界が止まった気がした。


噴水の音だけが聞こえる。


私は何も言えない。


顔が熱い。耳まで熱い。きっと真っ赤だ。


「……と、取られるって」


やっと出た声は情けないほど小さかった。


「お前は自覚が足りない」


「何のですか!」


「人気だ」


そこか。


少しだけ安心して、少しだけ悔しい。


すると彼は一歩近づき、私の髪飾りにそっと触れた。


今日のためにミラが選んでくれた、小さな白い花の飾りだ。


「……似合っている」


「え」


「最初からそう言えばよかった」


さらりと言うな。


私の心臓が忙しい。


「殿下こそ……」


「何だ」


「今日の礼装、とてもお似合いです」


言ってしまった。


終わった。


私は穴があれば入りたい。


しかしアルフレッドは珍しく目を見開き、数秒固まったあと、こほんと咳払いした。


「……そうか」


耳が赤い。


勝った。


その時、遠くから明るい声が響いた。


「兄上ーー! 母上が“進展した?”って聞いてるよー!」


ルシアンである。


最悪のタイミングだった。


私は両手で顔を覆った。


アルフレッドは深くため息をつく。


「後で覚えていろ、ルシアン」


「聞こえてるよー!」


王妃様の笑い声まで聞こえた。


こうして冷徹王子の本音は、庭園の片隅で少しだけ漏れ――そして盛大に家族に見守られていたのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

もしよければ、応援や感想などいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ