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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第53話 冷徹王子、帰りの馬車で甘さを隠しきれません

鐘楼を降りた後、私たちは市場通りを抜け、王城へ戻る馬車へ乗り込んだ。


外はすっかり夕暮れだった。


茜色に染まる空。

石畳を進む車輪の音。

祭り帰りの人々の笑い声が、少しずつ遠ざかっていく。


昼間の賑やかさとは違う、静かな時間だった。


私は向かいの席に座り、膝の上の包みをそっと撫でる。


あの髪飾りだ。


開けたい。

でも今ここで開けるのは恥ずかしい。


ちらりと向かいを見る。


アルフレッドは腕を組み、窓の外を見ていた。


いつも通り無愛想。

……耳だけ少し赤い。


まだなのか。


「何だ」


視線に気づかれた。


「見ていません」


「見ていた」


鋭い。


私は咳払いをした。


「……今日は、その」


言葉が続かない。


珍しく緊張する。


「何だ」


「ありがとうございました」


彼がこちらを見る。


「外出、楽しかったです」


数秒、沈黙。


やがて低い声が落ちる。


「そうか」


短い。


だが口元がほんの少し緩んでいた。


私は見逃さなかった。


「殿下も、楽しかったですか?」


「……普通だ」


「嘘ですね」


「なぜ分かる」


「耳です」


彼は即座に耳を隠した。


ずるいくらい分かりやすい。


私は笑ってしまう。


馬車が揺れた。


その拍子に膝の包みが落ちかけ、私は慌てて手を伸ばす。


同時に、アルフレッドの手も伸びた。


指先が触れる。


一瞬、空気が止まる。


私は慌てて引っ込めようとしたが、彼が先に包みを拾い、そのまま私へ差し出した。


「……不注意だ」


「すみません」


「謝るな」


低い声が、今日はやけに優しい。


私は包みを受け取り、少し迷ってから口を開いた。


「殿下」


「何だ」


「開けてもいいですか」


「好きにしろ」


ぶっきらぼうだが、どこか落ち着かない声だった。


私は包みをほどく。


中から現れたのは、あの淡い青の髪飾り。


夕陽を受けて、硝子の花びらが柔らかく光る。


「……綺麗」


思わず見惚れる。


するとアルフレッドが視線を逸らしたまま言った。


「つければいい」


「え?」


「そのために買った」


心臓に悪い。


私は鏡もなく戸惑った。


「でも、どうやって」


彼は小さくため息をつき、私の隣へ移動してきた。


「貸せ」


「え、えっ?」


近い。


逃げ場がない。


アルフレッドは私の髪をそっとすくい、不器用ながら丁寧に飾りを留めていく。


指先が髪に触れるたび、鼓動が跳ねる。


「じっとしていろ」


「無理です」


「なぜ」


「近いからです」


彼は一瞬止まり――何も言わず続けた。


そして、静かに手が離れる。


「……できた」


私は恐る恐る窓ガラスに映る姿を見る。


青い花飾りが、夕暮れの光の中で揺れていた。


「どうだ」


珍しく不安そうな声だった。


私は振り向く。


「とても素敵です」


本心だった。


アルフレッドは私を見つめ、わずかに目を細める。


「……似合っている」


その一言が、何より甘かった。


馬車は王城へ近づいていく。


もうすぐ終わる時間。


少しだけ寂しいと思った、その時。


彼が窓の外を見たまま、ぽつりと呟いた。


「……城までが短すぎるな」


私は息を呑んだ。


夕焼けのせいだけではない熱が、頬へ広がっていく。


こうして冷徹王子は、帰りの馬車の中で――甘さを全く隠しきれていなかったのだった。

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