第51話 冷徹王子、初めての贈り物で不器用すぎます
市場通りを歩きながらも、私は落ち着かなかった。
理由は簡単である。
手を繋いだままだからだ。
しかもアルフレッドは平然と前を向き、人混みを避けながら歩いている。
私だけが一人で心臓を騒がせているようで悔しい。
「殿下」
「何だ」
「そろそろ手を」
「駄目だ」
即答だった。
「なぜですか」
「迷子になる」
「子ども扱いしないでください」
「子どもより目を離せん」
さらりと何を言うのか、この人は。
私は真っ赤になりながら黙るしかなかった。
やがて通りの奥、小さな露店が並ぶ一角へ出る。
布小物、木彫り細工、硝子細工、銀細工――色とりどりの商品が並んでいた。
私は思わず足を止める。
「綺麗……」
硝子の小鳥。
花模様の髪飾り。
木でできた匙。
刺繍入りの手巾。
見ているだけで楽しい。
アルフレッドは私の視線を追い、無言で店々を眺めていた。
「殿下、こういう場所は珍しいですか?」
「来たことはある」
「意外です」
「護衛付きで幼い頃にな」
少しだけ遠くを見る目だった。
その時、私の視線が一つの品に止まる。
淡い青の小さな髪飾り。
花びらのような硝子細工で、陽の光を受けてきらきら輝いている。
「……綺麗」
思わず呟いた。
だが値札を見て、私はそっと視線を外す。
可愛いが、贅沢品だ。
するとアルフレッドが店主へ声をかけた。
「これを」
「え?」
私は振り向く。
「殿下、何を」
「買う」
「なぜ」
「欲しそうだった」
「見ていただけです!」
店主のおじいさんがにこにこ笑う。
「兄ちゃん、彼女さんに贈り物かい?」
「違――」
「そうだ」
私の否定より早かった。
私は固まる。
アルフレッドは平然としている。
耳だけ赤い。
「ちょっと待ってください!」
「待たん」
「高いですし!」
「問題ない」
「私が問題あります!」
店主は楽しそうに包み始めた。
止まらない。
私は半ば混乱しながら小声で言った。
「急に贈り物なんて、困ります」
アルフレッドは少し黙り、低く答える。
「……昨日、よく似合うと思った」
「はい?」
「舞踏会でも、今の服でも」
視線を逸らしたまま続ける。
「だから、何か形にしたかった」
今度こそ言葉を失った。
ずるい。
本当にずるい。
私は何も返せない。
店主が包みを差し出した。
「はいよ。幸せになりな」
「……ありがとうございます」
なぜ私が礼を言っているのか分からない。
アルフレッドは包みを受け取ると、そのまま私へ差し出した。
「持て」
「そこは“どうぞ”では?」
「持て」
不器用すぎる。
私は笑ってしまいながら、包みを受け取った。
「……ありがとうございます」
「当然だ」
「何がですか」
「お前に似合う物を渡すのは」
意味が分からない。
だが胸はまた忙しくなる。
歩き出した後、私はそっと包みを抱えた。
宝物みたいに大事に。
するとアルフレッドがぼそりと呟く。
「気に入らなければ別の物に替える」
「気に入りました」
即答した。
彼は一瞬だけ目を見開き、すぐ前を向く。
耳がまた赤い。
こうして冷徹王子は、初めての贈り物でも――どこまでも不器用だったのだった。




