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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第50話 悪役令嬢、食べ歩きデートで恋を自覚しかけます

王都の市場通りは、想像以上の賑わいだった。


焼きたてのパンの香り。

香辛料の刺激的な匂い。

果物の甘い香り。

呼び込みの声。

笑い声。


私は思わず目を輝かせる。


「すごい……!」


「はしゃぎすぎるな」


隣から低い声が飛ぶ。


「無理です。見てください、あの焼き菓子!」


「見るな」


「なぜですか」


「立ち止まるからだ」


理不尽である。


だが私は既に足を止めていた。


屋台には蜂蜜を塗った小さな焼き菓子が並んでいる。


香ばしい。


最高である。


店主のおじさんがにこにこ笑った。


「おや、仲のいいお二人さん! 試食するかい?」


「仲は」


「よい」


アルフレッドが先に答えた。


私は二度見した。


彼は平然としている。


耳だけ赤い。


ずるい。


私は焼き菓子を受け取り、一口かじった。


外はさくり。

中はしっとり。

蜂蜜の甘さが優しい。


「……美味しい!」


感動していると、店主が嬉しそうに胸を張る。


「だろう? うちの自慢さ!」


私は夢中で材料を当て始めた。


「小麦粉に卵、蜂蜜……あと少し柑橘の皮?」


「お嬢ちゃん、分かるのかい!?」


「料理人なので」


店主の目が丸くなる。


「こりゃすごい!」


私はつい楽しくなり、焼き加減や香りづけの話で盛り上がってしまった。


その横でアルフレッドが黙っている。


珍しい。


「殿下?」


「……何だ」


「退屈ですか?」


「別に」


だが明らかに機嫌が微妙だった。


店主がにやりと笑う。


「兄ちゃん、妬いてるのかい?」


空気が止まった。


私は固まる。


アルフレッドは無言になった。


数秒後、低い声が落ちる。


「違う」


耳が真っ赤だった。


店主は大笑いしながら紙袋を差し出す。


「はいよ、お似合いさんにはおまけだ!」


「ありがとうございます!」


「いらん」


二人の温度差がすごい。


通りを歩きながら、私は紙袋を抱えて笑った。


「人気者ですね、殿下」


「不本意だ」


「妬いてるんですか?」


仕返しで聞いてみる。


アルフレッドは歩みを止め、じっと私を見る。


「……少しだ」


私は息を止めた。


なぜ急に素直なのか。


心臓に悪い。


「そ、そうですか」


「お前が他人に笑いかけていると落ち着かん」


「そんなこと言われても」


「困れ」


またそれだ。


私は顔が熱くなるのを誤魔化すように焼き菓子を口へ入れた。


甘い。


でも今は、それ以上に胸の奥が甘かった。


しばらく歩くと、人混みが増えてきた。


肩がぶつかりそうになった瞬間、アルフレッドが私の手首を掴み、そのまま自然に手を繋いだ。


「は、殿下」


「離れるなと言った」


「これは手首で十分では」


「足りん」


心臓が忙しい。


彼は前を向いたまま、手だけは離さない。


私はその横顔を見つめてしまう。


冷徹で、不器用で、少し意地悪で。


でも誰より優しい。


――ああ、これは。


もしかして。


かなり。


私は恋をしているのでは?


「どうした」


「何でもありません!」


即答した。


アルフレッドは怪訝そうに眉を寄せる。


私は繋がれた手を見下ろし、こっそり息を吐いた。


こうして悪役令嬢は、食べ歩きデートの真ん中で――ついに自分の恋を自覚しかけるのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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