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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第49話 冷徹王子、庶民の服でも隠しきれません

昼過ぎ。


私は王城の自室で、鏡の前に立ち尽くしていた。


「……本当に行くのね」


侍女ミラが楽しそうに頷く。


「ええ。しかもお忍びです」


「なぜあなたがそんなに嬉しそうなの」


「恋の進展は侍女の生きがいです」


頼んでいない。


私は王妃様から用意された服へ袖を通した。


淡いクリーム色のワンピースに、薄緑の上着。

動きやすく、上品で、けれど令嬢らしすぎない。


普段のドレスよりずっと軽い。


「……変ではない?」


「とても可愛いです」


「そういう感想は求めていません」


「殿下が絶句なさると思います」


「やめて」


余計に緊張する。


ミラに背中を押され、私は裏門へ向かった。


そこには小ぶりな馬車と、数名の護衛が控えていた。


そして――


「遅い」


低い声。


振り向いた私は、その場で固まった。


アルフレッドだった。


だが、いつもの王子姿ではない。


白いシャツに黒の上着。

装飾の少ない長靴。

髪も少し無造作に流している。


庶民風……のつもりなのだろう。


だが全く庶民に見えない。


むしろ危険なほど目立つ。


「……何だ」


「いえ」


「言いたいことがある顔だな」


「隠しきれていません」


「何を」


「王子感を」


数秒、沈黙した。


護衛が肩を震わせている。


アルフレッドは眉間にしわを寄せた。


「母上には“地味にしろ”と言われた」


「かなり努力されたんですね」


「した」


少しだけ可愛い。


私は笑いを堪えきれなかった。


すると彼の視線が私へ向く。


そして止まった。


「……何ですか」


返事がない。


珍しい。


「殿下?」


彼は咳払いを一つした。


「その服」


「変ですか?」


「違う」


耳が赤い。


「似合っている」


私は瞬時に固まった。


護衛たちが一斉に横を向く。


気を遣われている。


「……ありがとうございます」


やっと絞り出した声は小さかった。


アルフレッドは不機嫌そうに視線を逸らす。


「行くぞ」


「照れてます?」


「乗れ」


図星である。


馬車へ乗り込むと、向かい合って座る形になった。


狭い。


近い。


落ち着かない。


車輪が動き出し、王城がゆっくり遠ざかる。


窓の外には王都の街並みが広がっていく。


石畳の道。

色とりどりの店。

行き交う人々。


私は思わず身を乗り出した。


「すごい……久しぶりに外の街をゆっくり見ます」


「子どもか」


「子どもではありません」


だが声が弾んでいたのは否定できない。


アルフレッドはそんな私を見て、わずかに目を細める。


「……嬉しそうだな」


「はい」


素直に答えると、彼は静かに窓の外へ視線を向けた。


その耳がまた少し赤い。


本当に分かりやすい。


馬車はやがて市場近くで止まった。


扉が開く。


香ばしいパンの匂い。

人々の笑い声。

活気ある街の音。


私は胸を高鳴らせながら外へ降りた。


アルフレッドが手を差し出す。


「離れるな」


「命令ですか」


「忠告だ」


またそれだった。


私は笑いながら、その手を取る。


こうして冷徹王子は、庶民の服でもまるで隠しきれないまま――初めて私と王都の街へ降り立ったのだった。

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