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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第48話 悪役令嬢、王妃様にお忍び外出を命じられます

朝食後。


私は厨房で昼の仕込みを手伝っていた。


玉ねぎを刻み、香草を整え、焼き菓子の生地を確認する。


ようやく落ち着く時間――のはずだった。


「アメリア」


優雅な声が背後から降ってくる。


振り向けば、王妃セレナ。


本日も完璧に美しい。


そして嫌な予感しかしない笑みを浮かべている。


「王妃様。どうかなさいましたか」


「ええ。ちょっとしたお願いがあるの」


お願い、と言う人の顔ではない。


命令の顔である。


私は包丁を置いて姿勢を正した。


「何なりと」


「今日の午後、外出しなさい」


「……はい?」


思わず聞き返した。


王妃様はにこやかに続ける。


「王都へお忍びで」


「……はい?」


二度目である。


「最近ずっと王城の中ばかりでしょう?」


その通りだ。


「若い娘がそれではつまらないわ」


「いえ、私は厨房にいられれば十分楽しいです」


「そういうところは好きよ」


褒められた気がしない。


王妃様は扇子で口元を隠した。


「もちろん一人では危ないから、護衛もつけるわ」


嫌な予感が完成した。


「まさか」


「アルフレッド」


やはり。


私は天を仰いだ。


「王妃様、護衛なら騎士団で十分では」


「却下」


即答だった。


「でも殿下は公務が」


「午前中で終わらせるそうよ」


「え?」


聞いていない。


つまり既に決定事項である。


逃げ道がない。


その時、厨房入口から低い声が響いた。


「母上」


噂をすれば本人だった。


礼装ではなく、動きやすい濃紺の上着姿。


……妙に格好いい。


腹立たしい。


「何か問題でも?」


王妃様は楽しそうだ。


アルフレッドは私を一瞥して言った。


「準備がまだだ」


「準備?」


「外出の」


私は瞬いた。


まさか。


「殿下、乗り気なんですか?」


「別に」


即答した。


だが耳が少し赤い。


分かりやすすぎる。


王妃様は満足そうに頷く。


「では決まりね。昼過ぎに裏門から馬車を出します」


「王妃様、私の意志は」


「あるわよ」


「聞いていただけますか」


「聞くだけなら」


聞くだけだった。


私は敗北を悟る。


王妃様は去り際、振り返ってにっこり笑った。


「アメリア」


「はい」


「楽しんできなさい」


その声だけは、とても優しかった。


静かになった厨房で、私は深くため息をつく。


するとアルフレッドが腕を組んだまま言った。


「何だそのため息は」


「急すぎます」


「私もそう思う」


「では断ってください」


「断らん」


矛盾している。


私はじとっと睨んだ。


「……本当に行くんですか」


「嫌か」


不意に声音が低くなる。


ずるい聞き方だ。


私は視線を逸らした。


「嫌とは言っていません」


「なら問題ない」


勝手である。


けれど少しだけ胸が高鳴ってしまう自分が悔しい。


アルフレッドは踵を返し、出口へ向かった。


「一刻後に準備しておけ」


「命令ですか」


「忠告だ」


またそれである。


去っていく背中を見送りながら、私は頬の熱を自覚した。


王都へお忍び外出。


しかも相手は、あの冷徹王子。


こうして悪役令嬢は、突然の初デート――もとい外出命令に、心の準備が全く追いつかないのだった。

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