第47話 冷徹王子、朝食の席で平然を装えません
食堂の空気が、妙に落ち着かなかった。
原因は明白である。
私とアルフレッドが、互いに昨夜を思い出してまともに目を合わせられないからだ。
「……アメリア、席へ」
王妃セレナが優雅に微笑みながら手招きする。
その笑みが少し楽しそうなのは気のせいではない。
私は促されるまま席へ向かい――固まった。
アルフレッドの隣だった。
「……ここですか」
「ええ、もちろん」
王妃様は満面の笑みである。
共犯者だ。
私は覚悟を決めて座った。
隣から低い声が落ちる。
「何だその顔は」
「緊張している顔です」
「なぜ」
「なぜでしょうね」
あなたのせいです。
言えない。
朝食が運ばれてくる。
焼きたてのパン。
卵料理。
温かな野菜のスープ。
果実の盛り合わせ。
いつもなら落ち着く香りなのに、今日は全く落ち着かない。
アルフレッドも妙に静かだった。
ナイフを持つ手つきは完璧。
姿勢も美しい。
だが耳が少し赤い。
分かりやすすぎる。
ルシアンがにやにやしながら口を開いた。
「兄上、昨日は何時まで庭園にいたの?」
「黙って食べろ」
「僕、窓から見てたよ」
「ルシアン」
「ひっ」
本日二度目の一喝である。
セシリアが小声で私に囁いた。
「殿下、昨日からずっと可愛いです」
「しーっ!」
妹まで危険思想だった。
王妃セレナが紅茶を口にしながら楽しそうに言う。
「若いって素敵ねぇ」
「母上」
「何かしら?」
「楽しんでおられますね」
「ええ、とても」
否定しない。
私はスープを飲んで気持ちを落ち着けようとした。
その時、アルフレッドが低く言った。
「……寝不足か」
危うくむせるところだった。
「な、何のことでしょう」
「目の下」
見ないでほしい。
「殿下こそ」
思わず言い返す。
「隈があります」
食堂が静まり返った。
王妃様の目が輝く。
ルシアンは口を押さえて震えている。
セシリアは頬を赤らめていた。
アルフレッドは数秒黙り――静かにパンを切った。
「……余計なお世話だ」
耳まで赤い。
勝った。
私は少しだけ笑ってしまう。
すると彼がこちらを見ずに言った。
「お前のせいだ」
今度こそスプーンを落としかけた。
「な、なぜ私が」
「考えろ」
「分かりません」
「ならいい」
絶対によくない。
私は真っ赤になりながらパンをちぎった。
ルシアンが限界だったらしい。
「兄上、分かりやすすぎるって!」
「ルシアン」
「ひっ」
三度目である。
国の未来が少し心配になった。
食事の終盤、アルフレッドが不意に私の皿を見た。
「果実が残っている」
「後で食べます」
「今食べろ」
「命令ですか」
「忠告だ」
彼は自分の皿から苺を一つ取り、私の皿へ置いた。
「……食え」
食堂が完全に凍った。
私も凍った。
王妃様が扇子で顔を隠し、ルシアンは机に突っ伏して笑っている。
セシリアは小さく悲鳴を上げた。
アルフレッドは平然としている……ように見えるが、耳は真っ赤だ。
私は震える声で言った。
「殿下」
「何だ」
「全然、平然としていません」
数秒後。
「……黙って食べろ」
こうして冷徹王子は、朝食の席で――まるで平然を装えていなかったのだった。




