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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第45話 悪役令嬢、冷徹王子の不器用な告白に眠れません

庭園から大広間へ戻った後。


私は笑顔で挨拶をし、微笑み、礼を取り、何とか令嬢らしく振る舞った。


記憶はほとんどない。


理由は明白である。


――お前自身を。


――他の男と踊るのを想像したら落ち着かなかった。


そんな言葉を聞かされた人間が平然としていられるだろうか。


無理である。


私は舞踏会終了後、自室の寝台で転がっていた。


「眠れません……!」


枕に顔を埋めて叫ぶ。


隣室の侍女が心配して来ない程度の音量で。


頬が熱い。


心臓もうるさい。


頭の中では、庭園の月明かりとアルフレッドの赤い耳が何度も再生されていた。


「可愛いって言ってしまった……!」


思い返して布団を蹴る。


第一王子に向かって可愛いとは何事か。


不敬罪にならないだろうか。


いや、言われる側にも問題がある。


あの人が悪い。


絶対に悪い。


私はごろごろと寝返りを打った。


すると扉が控えめに叩かれる。


「アメリア様、失礼いたします」


侍女のミラだった。


「どうぞ……」


彼女は盆を持って入ってくる。


「温かいハーブミルクです。お休みになれないかと思いまして」


「ミラ、あなた天才ね……」


私は涙ぐみながら受け取った。


甘く優しい香りが鼻をくすぐる。


少しだけ落ち着く。


ミラはにこにこしながら言った。


「本日はとても素敵でした」


「やめて、思い出させないで」


「殿下がずっとアメリア様しか見ておられませんでしたね」


「やめて」


「庭園へ追いかけて行かれた時など、侍女たちの間で悲鳴が」


「やめてください!」


私は毛布を頭から被った。


ミラは楽しそうである。


味方だと思っていたのに。


「それで、何かお話はありましたか?」


毛布の中で固まる。


「……別に」


「本当に?」


「別に!」


声が裏返った。


ミラがくすくす笑う。


「では、殿下からのお届け物だけ置いて失礼いたします」


「……はい?」


毛布を跳ね飛ばす。


ミラの手には、小さな箱があった。


白い上質な箱に、王家の紋章。


私は嫌な予感と期待で震える。


「な、何これ」


「殿下より。“今夜は眠れぬだろうから、これでも飲め”とのことです」


「余計なお世話です!」


即答した。


ミラは箱を開ける。


中には小瓶が二つ。


一つは安眠用の花茶。

もう一つは蜂蜜漬けの果実。


そして小さな紙片。


私は震える手で開いた。


そこには端正な文字で、たった一行。


明日、朝食は遅れるな。


「……何ですかこれ」


「殿下らしいですね」


ミラは満面の笑みだった。


私は紙を見つめる。


素直に優しい言葉は書かないくせに、眠れないことは分かっているらしい。


腹立たしい。


けれど。


とても嬉しい。


私は紙を胸元へ押し当て、深くため息をついた。


「……本当にずるい人」


ミラは一礼して部屋を出ていく。


静かな部屋に戻り、私は花茶を口に含んだ。


優しい香りが広がる。


窓の外には、舞踏会の余韻を残す月。


私はそっと紙片を枕元へ置いた。


明日の朝、きっとまたいつものように無愛想な顔で現れるのだろう。


それなのに、今はそれが待ち遠しい。


こうして悪役令嬢は、冷徹王子の不器用な告白の余韻で――結局ほとんど眠れなかったのだった。

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