第42話 冷徹王子、王国中の前で独占欲を隠しません
家族との再会を終えた後。
私は少しだけ気持ちを落ち着けようと、大広間の端で果実水を飲んでいた。
涙の後は喉が渇く。
「アメリア様……本当にお綺麗でした」
セシリアが隣で目を潤ませる。
「もう泣かないでください」
「だって嬉しくて……」
相変わらず可愛い妹である。
少し離れた場所では、父と母が気まずそうに立っていた。
距離感が初々しい。
その時、数人の若い貴族令息たちが近づいてきた。
礼儀正しい笑顔。
整えられた礼装。
いかにも社交界の若手有望株といった顔ぶれだ。
嫌な予感しかしない。
「失礼、アメリア嬢」
先頭の青年が優雅に一礼する。
「先ほどの舞、見事でした」
「ありがとうございます」
「もしよろしければ、次の曲を一曲ご一緒いただけませんか?」
周囲がざわついた。
セシリアが目を丸くする。
私は固まった。
誘われた。
人生で初めて、まともに舞踏会で誘われた。
しかも婚約破棄後に。
少しだけ嬉しい。
だが同時に、どう返すべきか分からない。
「その……私は――」
言いかけた瞬間、背後から低い声が落ちた。
「断る」
空気が凍った。
振り向くまでもない。
アルフレッドである。
今日も無駄に存在感が強い。
青年たちは青ざめた。
「で、殿下……」
「彼女は本日、私のパートナーだ」
淡々とした声だった。
だが圧がすごい。
「次の曲も、その次も予定が埋まっている」
「え?」
私が声を出した。
予定など聞いていない。
アルフレッドは気にせず私の手を取る。
「行くぞ」
「ちょ、ちょっと!」
そのまま連行された。
広間中央へ戻される。
私は抗議した。
「予定なんて初耳ですが!」
「今決めた」
「横暴です!」
「そうか」
全く反省していない。
楽団が次の曲を奏で始める。
私は呆れながらも、差し出された手を取った。
「……嫉妬ですか?」
何となく聞いてみた。
アルフレッドの動きが一瞬止まる。
「違う」
「では独占欲?」
「……」
沈黙した。
図星である。
私は思わず笑ってしまう。
「殿下、分かりやすいですね」
「黙れ」
耳が赤い。
本当に分かりやすい。
踊りながら周囲を見ると、貴族たちはひそひそ囁いていた。
「殿下、完全に牽制なさった……」
「本気だ……」
「公認どころではないのでは?」
聞こえている。
セシリアは壁際で頬を押さえていた。
父はなぜか遠い目をしている。
母はハンカチを握りしめていた。
ルシアンは大笑いしている。
「兄上、分かりやすすぎ!」
「ルシアン」
「ひっ」
本日も一喝で静まった。
私はくすくす笑いながら言う。
「少し大人気なかったですよ」
「お前が嬉しそうにしていた」
「え?」
「誘われて」
思わず瞬きする。
そんなところまで見ていたのか。
「……少しは嬉しかったです」
正直に言うと、アルフレッドの眉がぴくりと動いた。
「だが」
私は彼の手を握り返す。
「連れ戻された方が、もっと嬉しかったです」
アルフレッドが完全に黙った。
珍しい。
数秒後、低い声が落ちる。
「……そういうことは不意に言うな」
耳まで赤い。
勝った。
私は小さく笑った。
こうして冷徹王子は、王国中の前で――ついに独占欲を隠さなくなったのだった。




