第41話 悪役令嬢、家族との再会に涙します
割れんばかりの拍手が、大広間にいつまでも響いていた。
私はまだ現実感のないまま、アルフレッドの隣に立っていた。
足は震えていない。
呼吸も乱れていない。
なのに胸だけが、どうしようもなく熱い。
「呆けるな」
低い声が横から落ちる。
「……放心していただけです」
「同じだ」
失礼である。
けれどその声に、少しだけ落ち着く。
楽団が次の曲へ移り、人々が談笑を始める。
ざわめきの向こうから、見慣れた姿がこちらへ近づいてきた。
父――ローゼリア公爵。
母。
そして、セシリア。
私は自然と背筋を伸ばした。
逃げないと決めたのだ。
父は目の前まで来ると、珍しく言葉に詰まった。
「……アメリア」
それだけだった。
かつて厳格で、感情を見せなかった人が。
こんな顔をするのを初めて見た。
母も唇を震わせている。
「あなた……本当に……」
「ご無沙汰しております、お父様、お母様」
礼を取る。
声が少しだけ震えた。
父は何か言おうとして、言葉を失い――やがて深く頭を下げた。
広間がざわめく。
公爵が娘に頭を下げたのだ。
「……すまなかった」
私は息を呑んだ。
「お前を信じなかった。守れなかった」
低く、重い声だった。
母も目に涙を浮かべる。
「私も……世間体ばかり気にして……あなたの苦しみに気づかなかったわ」
ずっと欲しかった言葉だった。
けれど今、聞くと胸が痛い。
責めたい気持ちもある。
許せない記憶もある。
それでも――
「顔を上げてください」
私は静かに言った。
父がゆっくり顔を上げる。
「……すぐには全部許せません」
正直に告げる。
「ですが、謝ってくださったことは……嬉しいです」
母が泣き崩れそうになる。
父は目を閉じ、深く息を吐いた。
その時。
「お姉様……!」
小さな影が飛び込んできた。
セシリアだった。
私は受け止める間もなく抱きしめられる。
「会いたかった……ずっと、ずっと……!」
肩口が濡れていく。
私は目を見開いた。
「セシリア……」
「お姉様がいなくなって、寂しくて……でも、お手紙も出せなくて……!」
震える声。
幼い頃、庭で一緒に花を摘んだ小さな妹。
守ってやれなかったのは、私の方かもしれない。
私はそっとその背を抱き返した。
「……ごめんね」
「違うの……! 謝るのは私じゃなくて……うう……!」
泣き方まで昔のままだ。
私の目にも涙が滲む。
その様子を見ていた母が口元を押さえ、父は天井を見上げていた。
そこへ低い声が割り込む。
「泣かせすぎだ」
アルフレッドだった。
いつの間にか私のすぐ横に立っている。
父が慌てて姿勢を正す。
「で、殿下」
アルフレッドは無表情のまま言った。
「彼女は今、私の大切な客人だ」
客人。
それだけの言葉なのに、はっきりと守る意思が滲んでいた。
「今後、軽んじることは許さない」
空気が張り詰める。
父は深く頭を下げた。
「肝に銘じます」
私は思わずアルフレッドを見上げる。
「……殿下」
「何だ」
「少し格好つけました?」
「事実を述べただけだ」
耳が少し赤い。
ずるい。
ルシアンが遠くから全力で手を振っていた。
「兄上かっこいー! 今の僕にも言って!」
「黙れ」
通常運転で安心する。
私は涙をぬぐい、もう一度家族を見た。
過去は消えない。
傷も簡単には癒えない。
それでも今日、確かに一歩進めた気がした。
こうして悪役令嬢は、家族との再会に――ようやく涙を流すことができたのだった。




