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悪役令嬢ですが、冷徹王子の胃袋を掴んだら溺愛されました  作者: 星乃茶々


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第40話 悪役令嬢、王国中の前で花開きます

楽団の音が、大広間いっぱいに広がった。


優雅で、華やかで、逃げ場のない開宴の舞曲。


私はアルフレッドの前で固まっていた。


「……やはり辞退という選択肢は」


「ない」


即答だった。


「でしょうね」


周囲の視線が痛いほど集まっている。


王侯貴族。

名家の令嬢たち。

父と母。

そして妹セシリア。


足が震えそうになる。


その時、白い手袋越しに手を取られた。


「私だけ見ていろ」


低く静かな声。


昨夜と同じ言葉。


私は思わず顔を上げた。


アルフレッドの瞳は、まっすぐ私だけを映している。


不思議と呼吸が整った。


「……転んだらどうします」


「支える」


「自信満々ですね」


「当然だ」


少しだけ笑ってしまう。


その瞬間、音楽に合わせて身体が動き出した。


一歩。


二歩。


回転。


――あれ?


驚くほど自然だった。


彼の手が導くたび、迷いなく足が出る。


腰へ添えられた手は強く、けれど優しい。


私はただ身を任せればよかった。


周囲のざわめきが遠ざかっていく。


視線も、過去も、噂も。


今この瞬間、世界には二人しかいないようだった。


「殿下……」


「前を向け」


「見えません」


「なぜだ」


「近いからです」


「慣れろ」


無茶を言う。


けれど口元が少し緩んでいた。


その笑みに、胸が熱くなる。


楽団の旋律が高まり、私は回転する。


青銀のドレスの裾がふわりと広がった。


広間から、小さなどよめきが起こる。


「なんて綺麗……」


「本当にあのアメリアなのか……?」


「殿下がお笑いになるほど優しい顔を……」


最後の声は訂正しておきたい。


私はふと、大広間の鏡に映る自分を見た。


背筋を伸ばし、微笑み、王子の隣で踊る女性。


怯えていた悪役令嬢ではない。


誰かに断罪されるだけの存在でもない。


私は――私だ。


気づいた瞬間、目頭が熱くなった。


アルフレッドが小さく眉を寄せる。


「どうした」


「……何でもありません」


「泣くな」


「泣いてません」


「ならいい」


そう言いながら、彼の指先が少しだけ強く私の手を包む。


ずるい。


本当にずるい。


視線の先に、父と母がいた。


二人とも言葉を失っている。


その隣で、セシリアがぽろぽろ涙をこぼしていた。


唇が動く。


お姉様、綺麗……


胸が締めつけられた。


けれどもう、下を向かない。


曲が終わりに近づく。


最後の一歩。


最後の回転。


そして私は、アルフレッドの腕の中で静かに止まった。


大広間が一瞬静まり返る。


次の瞬間――


割れんばかりの拍手が響いた。


私は呆然と立ち尽くす。


アルフレッドはそんな私を見下ろし、耳元で低く囁いた。


「言っただろう」


「……何をですか」


「お前は最初から、ここに立つべき人間だ」


涙がこぼれそうになる。


だめだ。


こんなの、反則だ。


こうして悪役令嬢は、王国中の前で――ついに花開いたのだった。

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